第30話・オウロにばれた?


「ガイムは忘れているみたいだけど、チョコちゃんは、シャルちゃんの命の恩人じゃないの? シャルちゃんが倒れているのを見つけてナツに知らせてくれたんでしょう? そのチョコちゃんが留守番だなんて僕は納得いかないよ」

「その通りじゃ。構わぬよ。チョコさまはシャルの命の恩人だしな。勇者さまが同行を望まれるのなら」

「爺さん」


 終いに当主のカウイまでが認めたので、ガイムは引き下がるしかなかった。悪いな。ガイム。俺にとってチョコは単なる猫ではないんだ。

渋々退出するガイムと共にカウイや、ファラルが先に退出してしまうと、オウロと俺とチョコだけが取り残される。皆の足音が遠のいてから彼は振り返った。


「さあ、不貞腐れてなくても良くなりましたよ。遠慮なさらずまいりましょう。姫」

「お、オウロ? もしかして?」

「私の目を誤魔化せると思いましたか? ナツ? アロアナ姫さまは何者かに呪われているのですね?」


 オウロはチョコに語りかけていた。まさかチョコの正体に気付いている? と、思い問いかけると逆に問い返された。そういえばオウロはチョコにも様づけをしていた。オウロは初めから気がついていた?


「いつから気付いていたんだ?」

「王城であなたを転移する時でしょうか? 王城で飼われていた猫が、余所見もせずにあなたの後をまっしぐらに追っていくのを見た時から、腑に落ちないものを感じていたのです。まるであなたに気があるようにしか見えませんでしたから」


 オウロは転移術なんて発動すると、大概の生き物は驚いて逃げていくのですけどね、と笑った。


「チョコさまはそれをものともせず、あなたがどこかに行ってしまうのを恐れているようでした。それにあの孤島で再会した時、チョコさまから姫さまと同じ治癒の力を感じましたからね」

「さすがだな。オウロ」

「姫はまだお力を失われていなかったようですね。ナツがクズ男にならなくて良かったです」

「おいおい」


 実はヌッティア国では稀に王族の姫に限り聖女の力が発現するらしい。一昔前までは聖女と認定された者は、神殿に送られて育てられてきたらしいが、何代か前の王の時代からその風習は廃れたらしく、アロアナは父王の側から離されることなく暮らしていた。

 その力は一生涯のものではなく、処女でなくなると消失してしまうものだった為、婚姻するまでは神殿に通い、国の平和を願うのが公務とされていた。そして神の許しなく貞操を失うことがあれば、国に災いが起きると信じられて来た為、再三、宰相は口煩く姫と結婚するまでは手を出すなよ。と、ナツに言って聞かせたのである。事情を知らないガイムから見れば、ナツと姫の仲に歯がゆいものがあっただろうけど。


 でもうっかり昨晩、危ういことになりかけたけどな。と、内心、冷や汗をかく。俺あの時、鼻血出してなかったならオウロのいうクズ男になっていたぜ。ふう、仲間の期待に応える事が出来て面目が立って良かった。


「さあ、行きましょう。チョコさまは私がお預かり致しますよ。魔術師なら猫を使役することは知られていますし、連れていても違和感がありませんからね。姫さまとしては不本意でしょうが、ここはひとつご協力下さい」

「ニャアン」


 チョコは快く了承したようだ。大人しくオウロに抱かれる。くそ。俺のチョコなのに。そんな俺にオウロは釘を差してきた。


「ナツ。気をつけてください。相手は姫にこんな厄介な呪いをかけた人物です。どんな手で来るかわかりませんから」

「オウロ、姫の呪いを解く事は出来るか?」

「もちろん出来ますよ。でも、いま解いては意味がないのでは? 相手にこちらが気付いた事がばれて逃げられる可能性がありますよ。姫に誰が呪いを賭けたのか分からない状態で解くよりは、真相が明らかになってからの方が宜しいのでは?」

「そうだな。でもそれを聞いて安心した。良かったな。アロアナ」

「ニャ~ン」


 オウロの腕の中でチョコは可愛く鳴いた。


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