第28話・なるべく優しくするから
「ナツ」
「どうした? アロアナ?」
ベッドの中で猫の姿から人間の姿に戻った裸体のアロアナが、ぴたりと背中に張り付いてくる。
「なんだか心配なの。あなたが取られそうで……」
「心配することはないさ。俺の心はきみにある」
「それでも心配。今のわたしにはあなたを引き止める術がないのだもの」
「アロアナ」
振り返るとアロアナが涙を浮かべていた。
「心配なんていらないよ。魔王討伐の旅に出ていた間も、毎晩きみのことばかり考えてた」
「いまは?」
「昼間はチョコ、夜はきみかな」
抱きしめると、彼女が上目遣いで思わぬことを言ってきた。
「抱いて。ナツ」
「良いのか?」
ごくりと喉が鳴る。この展開は望んでいたことだけど、でも良いのか? 本当に? アロアナは俺の唇を奪った。
「本当にいいのか?」
後悔はしないか? と、聞けば縦に首を振られる。呪いを受けた身の彼女は、俺にもし、捨てられたならと不安なんだろう。そんなことしやしないのに。きみの呪いが例え、解けなくとも一生、俺はきみを手放す予定はないよ。
「……なるべく優しくする」
「好きよ。ナツ」
相手の了承も得たところで、俺はアロアナに覆い被さり彼女の肌にキスしまくった。これで童貞卒業! と、思ったら気持ちも高ぶる。俺の息子さまも興奮して今にも弾けそうだ。いや、待て。弾けるのは早いぞ。まずは彼女の中に収まってからだ。もう少しいい子にしていろよ。
と、今夜は人生最高の夜になりそうで興奮した。
翌日。俺の胸元でチョコが体を丸めて寝ていた。昨晩は結論から言うと最後までは出来なかった。俺は興奮しすぎていたので逆上せてしまい、鼻血が出て止まらなくなったのだ。
その俺を呆れるどころがアロアナは大丈夫? と、心配してくれた。そのことで甘い空気が霧散し、未遂に終わってしまったけど俺としては満足した。
それに冷静になったことで俺は、今ここで彼女を抱いてはいけないことを思い出した。彼女が当代だから。まだ純潔を失ってはいけないことを。
アロアナもそのことを思い出したようで恥じるように身を丸めた。その彼女を慈しむように抱きしめていたらいつの間にか寝入ってしまったらしい。チョコの寝顔を見ていたら俺の視線に気が付いたのか、目蓋が持ち上がった。
「チョコ。おはよう」
「ニャー」
また新しい朝が来た。顔を洗っているとシャルが「おはようございます。お食事の支度が整いました」と、入室してきた。毎朝、食堂の用意が整うとシャルが迎えに来るのだ。
「あら? これ。血ですか?」
シャルがベッドのシーツの染みを見つけて聞いてくる。いけね。清浄の魔法をかけておくのを忘れた。
「あ、昨日、寝ていたら鼻血が出てね」
「大丈夫ですか?」
「もう止まったから大丈夫だと思う」
「それなら良いですけど」
慌ててシーツに清浄の魔法をかけると、シャルは心配するように聞いてくる。大丈夫だと言うと、彼女が腕に手をかけてきた。
「シャル?」
「そろそろ宮殿に行く日が近付いてますから、普段から練習しておくのもいいと思いますよ」
「そうだね」
食堂まで自分をエスコートして欲しいということらしい。練習の成果を見たいということかな? と、思い、そのまま歩き出すと、ブニャーと面白くなさそうな声をあげてチョコが後をついて来た。
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