第21話・おっさん、悲しいぞ
数時間後。俺達の姿は、「善は急げ」と、ばかりにシャルロッテの爺さん=サーザン国の宰相、カウイ邸にあった。サーザン国は、俺達のいたヌッティア国からは国境となる大河を渡った先にある。ヌッティア国と似たり寄ったりの温暖な気候をもつ国で、俺たちが魔王討伐の旅に出た際、一番先に立ち寄った国でもある。
魔王討伐の時の移動手段は主に馬車で、馬車が乗り入れられないような場所へは、オウロの転移術で移動していた。
俺は馬車が苦手だった。短距離ならいいが、長距離となると長いこと馬車に揺られることとなる。そのせいでお尻や腰が痛くなるし、整備されていない道をゆくことも多かったので、がたがた馬車に揺られて気持ちが悪くなったこともしばしばあった。
おっさんだからなのか、こっちの乗り物になれてないせいかは分からないけれど、道が平らじゃないのがいけないんだと思う。舗装されてない上に道の表面が凸凹していて、馬車の車輪が取られるたびに車体が大きく傾く。転倒しないだけましだが、ちっとも乗り心地は宜しくない。
今回、サーザン国の宰相宅に向かうと聞いて頭に浮かんだのは、移動手段は何んだろう? だった。馬車なら間違いなく長距離となる。俺、耐えられないかも。参ったな。と、思っていたら、オウロの転移術で移動出来たので良かった。
カウイ邸の玄関先に転移すると、ドタドタとこちらへ足音が響いてきた。シャルの腕に抱かれていたチョコは、彼女の腕の中から飛び降りた。
「シャル~。シャル、今までどこへ行っていたのだ? 捜したのじゃぞ」
「お爺さま。心配させてごめんなさい」
シャルにまっしぐらに向かってきた老人は彼女を抱きしめた。老人の髪や眉毛は真っ白で、この老人がシャルやガイムの祖父でサーザン国の宰相なのだろうと思った。
「よっ。爺さん、久しぶり」
「ん、ガイム? あなたがたは?」
ガイムに声かけられて、老人は初めて自分達に気が付いたように反応した。
「勇者ナツヒコに、魔術師のオウロと神官のファラルだ。オレの魔王討伐の仲間だよ」
ガイムに紹介された俺達を、宰相カウイは訝るように見た。そのカウイにシャルが説明する。
「お爺さま。わたくし、実は死にそうになっていたのをこちらのナツさまとチョコちゃんに助けて頂いたのです」
「シャル、死にそうになったというのは?」
「爺さん、詳しい話は後あと。取り合えず、家のなかに入れて」
カウイが俺とその足元にいたチョコを見る。どういうことだ? と、シャルから事情を聞き出そうとしたのを、ガイムが話は長くなりそうだからと促がした。
その後、応接間に通されてシャルロッテは今まであったことを全てカウイに話した。その話を聞いてカウイは激高し、あの王子め。と、唸った。
「勇者どの。我が孫娘をお救い下さってありがとうございます」
「いいえ。無事で良かったです。それに気が付いたのはこのチョコですから」
「チョコさま。ありがとうございました」
カウイは礼儀正しい人だった。シャルの命の恩人だと俺だけじゃなく、チョコにも頭を下げた。チョコは俺が座ったソファーの隣に腰を下ろしていた。
(機嫌が直ったかな?)
その背を撫でようとしたら、その手に噛み付かれた。
「痛てっ」
まだご機嫌は直らないらしい。一体、何がチョコの逆鱗に触れたんだ? おっさん、悲しいぞ。
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