第22話・あなたにだけは信じて欲しいの


 その晩。俺は一人寂しくベッドに入ることになった。チョコと出会ってから一人寝なんて初めての事だ。チョコに会う前は一人で寝ていたはずなのに、どこか寂しいものを感じるのは、毎晩チョコと寝るのが習性のようになってきていたからだろう。チョコがいないと何だか物足りない。


「チョコぉ……」


 部屋を照らす燭台の明かりが消えてしまってからも、何度か寝返りをうってはみたがちっとも眠くならない。不眠症なのか? 俺は。いや、きっとチョコ欠乏症なんだな。って、それ怪しくないか? チョコにそれだけ夢中って俺、どんだけチョコのこと好きなの? 男、二十八歳。現在愛猫に夢中ですって、笑い話にもならないぜ。


「チョコ……。一体どうしたんだよ。俺がなんかやらかしたのか? チョコは俺に怒ってるとか? 悪かった。謝るから帰ってきて……」


 チョコがいないと広いベッドが寂しく感じられる。チョコどうしたんだよ? 俺のどこが悪かった? 謝るから帰ってきてくれよ。

 月の明かりが差す寝台の上で枕を抱いてごろごろとベッドの上で寝転がっていると、カタンっと部屋の隅で音がした。


「誰だ?」


 ベッドから起き上がり音のした方に近付く。そこには衝立があった。その裏へと回ってみると……。


「アロアナ?」

「ナツ」


 なぜか彼女がいた。しかもまたおあつらえ向きに裸で。それを見てやっぱり昨晩のあれは夢ではなかったのか? と、思った。彼女は蹲ってこちらを見上げる。その様子が何かに似ているようでチョコと姿が被った。


「そんな格好で何しているんだ?」


 昨日よりは声音が柔らかく出たと思う。アロアナは何も言わなかった。ただ小さく背を丸めてしゃがみこんでいるので、俺はベッドからシーツを運んできてそれを彼女にかけてやった。


「……ありがとう」


 聞き取れるかどうかの小さな声。アロアナは震えていた。アロアナがやらかした事を思えばとても許す気にはならないが、でもこんな所で裸で蹲る彼女を見ていたら、何か事情があるのではないかと思えてきた。叩き出す気にはなれなかった。こんな俺は甘いのだろう。だけど聞かずにはいられなかった。


「昨日は一方的に責めて悪かったな。何か俺に言いたいことあるだろう? 俺もきみに聞きたいことがある」


 彼女の態度は神妙過ぎた。許婚がいるのに他の男に気を許し、その男の子供を腹に宿したにしては変だ。全然お腹が膨れて見えなかった。

 彼女をベッドへと促がし、彼女と肩を並べて座れば、彼女が涙を浮かべながら言った。


「ナツ。これから話すことは信じてもらえないかも知れないけれど……それでもわたし、あなたにだけは信じて欲しいの」

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