第18話・寝取った男に報復を


「従兄のオレが言うのもなんだが、シャルロッテは最良物件だぞ。シャルの爺さんはサーザン国の宰相だったしな」

「お兄さま。何を言うのです? ナツさまに失礼ですよ。わたくしだってそんなこと望んでおりません」


 突然湧いて出た縁組みの話。ガイムとしては、婚約破棄された者同士結ばれてはどうだとでも言いたいのか? 傷を舐めあうような関係になれと? そんなのは御免だ。シャルだって納得はしないだろう。

 シャルロッテも従兄の提案に驚きつつ、断ろうとしていた。俺の膝の上ではチョコが、大人しくしているのに飽きてきたのか、かりかりと爪を立て、指先を甘噛みしてきた。


「痛ててて……チョコ。止め……っ」


 止めようとすると、今度は背を丸めた状態で足蹴りをしてくる。じゃれ付かれている俺を見てオウロが苦笑を漏らした。


「このお猫さまは可愛らしいですね。焼きもちでも妬いているんでしょうか?」


 チョコが妬いている? まさか。チョコと目が合うと、気が済んだのか体を起こして俺の膝の上でお座りをした。さすがチョコ。お利口さんだ。


「別に本当に婚約しろとは言ってない。あくまでも仮でいい。婚約者扱いが嫌なら婚約者候補でもいい」

「その婚約者候補に俺をならせて何をする気だ?」


 ガイムは、俺とシャルロッテの顔を交互に見てから言った。何か思案しているようだ。


「マニス王子への仕返しだ」

「本気か?」


 ガイムは怒りに肩を振るわせていた。一国の王子相手に立ち向かう気か? と、問えば頷きが返ってきた。


「もちろん本気だ。あのクズ王子、一方的に婚約破棄を突きつけて、何の咎もないシャルを海に突き落としたんだぞ。下手したら命を失っていたかもしれないんだ。絶対に許せるものか」

「確かに許せないよね。人の命をなんだと思っているんだか」

「しかもマニス王子は、許婚のいたアロアナ姫に言い寄り寝取ったのですよ。許せませんよね? ナツヒコ?」


 ガイムの言葉にそうそうとファラルは頷き、あなたもそう思いますよね? と、オウロに同意を求められる。


「あ。ああ」


 俺よりも正義感溢れる三人は、シャルロッテに同情していた。俺は勇者だが聖人ではない。罪を許して人を憎まずなんて精神は持ち合わせていない。当然、やられたらやり返せだ。

 しかもこの王子、よくよく考えたら俺の童貞喪失を阻みやがった。俺が魔族たちと戦って苦しんでいる間に、姫と甘い時を過ごして、姫とあんなことやこんな事とかいっぱいやりまくってたに違いない。いくらお人よしの俺でも、割り切る事なんて出来るかってのっ。


(やっぱ、あいつ一発殴る。いや、やりまくっただけ俺に殴らせろ!)


 拳を握り締めた俺を見てガイムはにやりと笑った。


「リーダーも手伝ってくれるよな? 俺の復讐に」

「おうっ」


 俺は、今度は迷わずに頷いた。ガイムは自分の復讐と言ったが、これは俺の復讐でもある。俺から姫を寝取った男に報復するのだ。やりチン王子にこの世の地獄を見せてやる。

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