第17話・シャルロッテと婚約しないか?
「王子がそのようなことを? 申し訳ありません。ナツさま」
シャルが青ざめていた。シャルは自分の許婚だったマニス王子が惚れた女性を連れ帰ったことは知っていても、その女性とは面識がなかったようだ。
「シャル?」
「なんて恐れ多いことを……! 勇者さまの許婚である御方を奪ったのですね? マニス王子は」
そういう解釈もあったか。と、俺は頭を掻いた。シャルロッテは俺の素性を知ったばかりなのに、しかもその俺の婚約者だった姫を、自分の許婚が誑かしたと知って衝撃を受けたようだ。今にも泣き出しそうになっていた。
「シャル。これは王子の罪だ。おまえのせいじゃない」
ガイムが庇うように言う。互いの国の国交に影響が出るかもしれないと危惧したシャルロッテに、これは個人的な問題だと言った。俺もそう思う。
話を大きくしたくはない。そういうのは王さまに任せた気でいた。王さまはアロアナ姫を王籍から外し、国外追放にすると言った。それをそこまでしなくても……なんて言ってしまった俺は相当思いあがっていたようだ。ここに弊害が起きてしまうだなんて思いもしなかった。甘かった。
そのことによりマニス王子の許婚であるシャルロッテが害されることになってしまったのだから。彼女に申し訳ない思いでいっぱいになった。
「それにそんなクズ王子とは縁が切れて良かったんだ。シャルなら他に相応しい男が現れるさ」
「お兄さま。ありがとう。でも……、わたくしはもう結婚は望んでいません。王族に婚約破棄された身です。このような自分に次の良いご縁があるとも思えませんし、修道院に入るつもりでいます」
ガイムが励ますように言えば、シャルは横に首を振った。
「きみはまだ十六歳だろう? まだまだこれからだって出会いがあるよ」
「……気持ちはそう簡単に割り切れませんから」
彼女の決め付けたような言い方がもの悲しかった。たかが一人の男に振られたくらいでこの先の未来がないような言い方をしなくとも。と、思ったが、それは元の世界で政略結婚とか無縁の世界で生きてきた俺だから言える事でしかない。
彼女は貴族令嬢。政略結婚の相手が生涯の相手とされる。他はない。婚約破棄されればあまり良い評判をもたれないのだと教えてくれたのは誰だったか?
そのことを思いだし、いま口にした言葉を後悔した。
「すまない。シャル。きみの心情など思いもせずに、考えなしに発言してしまった」
「……ナツさま。いいのです」
シャルは謝罪した俺を許してくれた。優しい子だ。何でこんな良い子がこのような悲しい目に合わなくてはいけないんだ? 俺は神を恨みそうになった。
「なあ、ナツ。おまえ、シャルと婚約しないか?」
そんなオレ達に、突如振ってきた声。ガイムが良いことを思い付いたとでも言いたげに瞳を輝かせていた
「はあ?」
「ガイムお兄さま。何を言うのです? わたくしは婚姻など考えられませんし、第一ナツさまにも失礼ですわ」
俺とシャルロッテは顔を見合わせた。
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