第16話・世間は狭かった


「そうそう。そんなに畏まらなくてもいいさ。こいつはお人よし過ぎてね、魔王討伐から帰ったなら婚礼をあげるはずだった許婚に間抜けにも逃げられて、婚約破棄されてしまった可哀相な男なんだ」

「おい。ガイム」


 シャルロッテとは同じ釜の飯を食った仲だ。もう改まる仲でもないだろうと言いたかったのに、ガイムは俺への気安さから余計なことを口にしてくれた。その一言がシャルを大いに嘆かせることになるとは思わずに。


「そうでしたの。ナツさまもわたくしと同じような目に合われて……?」

「え? シャル。同じ目ってどういうことだ? おまえは第二王子と婚約していたはずだろう? それがどうしてナツとここに? さっき浜に打ち上げられていたと、ナツが言ってたけど?」


 シャルと目が合い頷くと、俺達の態度を見咎めるように、ガイムが聞いてきた。


「わたくし殿下に婚約破棄されて、桟橋から蹴り落とされたのです。それからは良く覚えてないのですけど、気がついたらここに流されてきたようで、ナツさまに助けて頂きました」

「殿下がおまえを桟橋から蹴り落とした? それは本当なのか? 信じられん」

「シャルの許婚とはサーザン国の王子なのか?」


 俺は二人の言葉から気になるキーワードを拾い上げた。


「そうです。マニス殿下と婚約を交わしていました」

「なんだって? あのマニス王子?」

「なんてことだ。不貞を働いておきながら、一方的にシャルに婚約破棄を突きつけたと言うのか? その上、桟橋から蹴り落とすだなんて。許せない。あいつ」


 シャルが頷いたのを見て、ファラルが素っ頓狂な声をあげた。その反応で嫌でも俺も気が付いた。ガイムが激高した。当然の怒りだ。シャルのような可憐な少女をあのような目に合わすだなんて、絶対に許せない。


「シャルロッテさま。そのマニス王子は、ヌッティア国に遊学していたのでしょうか? そして帰国してからあなたにそんな非道なことをやってのけた?」

「はい。マニス殿下はヌッティア国に遊学されていました。帰国してから態度がおかしくなりました」


 オウロが確認の為にシャルロッテに聞いてくる。シャルロッテ以外の者達は、このマニス王子というのがとんだ食わせ者であると気がついた。


「自国で宰相の孫娘であるシャルロッテ嬢と婚姻しておきながら、遊学していた国の王女に惚れて口説き落として妊娠させ自国に連れ帰ると、今度は邪魔になったシャルロッテ嬢を消そうとしたということですか?」


 オウロの解析に、皆が頬を引くつかせた。彼がした事は非道だ。


「世間って狭いね。マニス王子が惚れて自国に連れ帰ったのはアロアナ姫で、しかも彼の婚約者がシャルロッテ嬢だったなんて……」


 ファラルがあ然としていた。オウロの言葉を簡潔に言えば、ファラルの言葉通りだ。俺の元許婚のアロアナ姫を孕ませたのはマニス王子だった。そして彼はシャルの許婚でもあった。


(マジ許せないな。もげろ、はげろ、病んでしまえ)


 オウロ達を伺えば皆、頷く。皆、同じ思いらしい。

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