第7話・侯爵令嬢シャルロッテの悲劇1
その日、侯爵令嬢シャルロッテは、遊学先から帰って来た許婚に会うべく宮殿へとやってきた。彼女の許婚はこの国の第二王子。許婚は彼女より年が五歳年上で、政略結婚の相手とはいえ、幼馴染で実の兄妹のように仲も良かった。互いに気心も知れているので喧嘩一つしたこともない。
王子はちょくちょく他国の情勢を知る為に、他国へ遊学と言う形で国を出る事が多かったが、いつも帰国するとシャルロッテを宮殿に呼び、楽しい土産話と共に、立ち寄った国で購入した彼女への贈り物を欠かさなかった。
実に三ヶ月ぶりの体面である。今回もどんな話が聞けるかと、期待いっぱいで侍女のサラを連れ宮殿へとやってきたシャルロッテだったが、顔なじみの女官に取次ぎを頼むとしばらく待たされた。
こんなこと初めてのことだ。いつもならすぐに取り次いでくれるのに、頼んだ女官はシャルロッテの顔色を伺うように、部屋を辞して行ったことから何か自分の知らない所で起こっているのではないかと不安になった。
そういえば王子は、いつもは遊学先から帰ってくるとすぐに連絡をくれるのに今回はくれなかった。一ヶ月待っても二ヶ月待っても音沙汰がなく、三ヶ月めとなってシャルロッテは痺れを切らして自分から会いに来た。
「ねぇ、サラ。なんだか遅くないかしら?」
「そうですね。何かあったのかも知れませんね」
待たされている部屋でそわそわとした気持ちを抱えて待ち続けていると、ようやく問題の相手が顔を出した。
「マニスさま。おあい……」
「シャルロッテ。何しに来た?」
お会いしたかった。と、言いかけたシュルロッテに、マニス王子は冷たい声を浴びせた。王子の怒ったような顔を見てシャルロッテは虚を突かれた。そしてどうしたら良いのか分からなくなった。いつもは「良く来たね。シャル」と、出迎えてくれる殿下に冷たい声音で出迎えられるなんて思ってもみなかったから。
何が殿下の逆鱗に触れたのか分からない。でも殿下がシャルロッテの訪問を快く思ってない事は、不機嫌な様子から知れた。
「まあ、いい。おまえにはちょうど話があったんだ。ついて来い」
シャルロッテは、殿下の変わり様に驚いていた。彼が今までこのような物言いを自分に対してする事はなかった。彼はシャルロッテを甘やかすのが得意なのではないかと周囲に思わせるほど、非常に優しくそれこそ猫かわいがりのように接してきたというのに、これはどうしたことだろう? 思わず侍女のサラと顔を見合わせてしまう。サラもどこかおかしいと感じているようだ。
(わたくしのことをおまえだなんて……)
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