第5話・転移失敗? のようです


「姫っ。アロアナ姫~! ここにいるのか? いるなら返事してくれぇっ」


 俺は気がつけば白い砂浜の上に立っていた。ここはどこかの海岸らしい。ここに姫がいるのか? と、不審に思いながらも姫の名を呼び歩き回った。そして数時間後、同じ場所に戻って来た事で気が付いた。

 ここは陸続きの土地ではないと。どこかの孤島だと。しかも人っ子一人、見当たらない。無人島のようだ。


 雲ひとつない青空の下、チイチイッと鳴き声を上げて脇を飛んで行くのは白け鳥かと思ったが、目に映ったのは意外にも尾の長い美しい青い鳥だった。


「あいつ、わざと失敗したな」


 漠然とそう思った。この状況下で転移に成功したようには思えない。失敗した確立が高いだろう。しかし、失敗しないことをウリにしているあいつが失敗とは考えにくいので、これは意図的にここに送られたのが濃厚だと思う。


「オウロのやつ……!」


 オウロは自分を転移させる前になにやら呟いていた。確か「頭を冷やされるがいいでしょう」と、言っていたような気がする。それで無人島か。


「これじゃあ、姫の後を追いかけていくことは出来ないな」


 ここでしばらく地団太踏むことになりそうだ。参ったな。と、頭を掻くと、何やら空間に切れ目が入って、その隙間からポスッと何かが落ちてきた。拾い上げてみると小さな透明カプセルで、ミニチュアの家が入っていた。ログハウスだ。これには見覚えがあった。オウロが旅の最中に取り出したカプセルの一つだ。野宿する時には大いに助かった。


「サンキュ」


 この場にはいない仲間思いの男に礼を言う。そのミニチュアをポケットに入れると、風に乗って潮の匂いと清涼の感じられる匂いがしてきた。


「こっちだな」


 清涼の匂いを追えば島の頂上付近で清水が湧く所を見つけた。これで飲み水に困ることはない。ポケットから先ほどの、ミニチュアハウスの収まった透明カプセルを取り出すことにした。


「ここにするか」


 地面にミニチュアハウスを置くと、それは見る間にどんどん大きくなり、まるでもとからそこにあったかのようなログハウスが出来上がった。

 このカプセルは、オウロが生み出したもの。彼は持ち歩くバックの中に幾つもの透明カプセルを、入れて持ち歩いていた。透明カプセルは魔法グッズで、用途に合わせて使いわけてきたのだ。


 このログハウスは、水道や、ガス、電気が扱える優れものだ。しまい込むのも簡単で空のカプセルを押し当てれば、その中に吸い込まれて収まる。一見、ガチャカプセルに入ったミニチュアにしか見えない。お手軽サイズで使い勝手の良いお得なグッスだ。

 ログハウスの中に入るとまず冷蔵庫を開けてみた。するとその中には沢山の食材が収まっていた。


「当面、ここに籠もっていろって事かよ。オウロ」


 ははは。乾いた声が漏れた。してやられた感が半端ない。何もやることもなく、ベッドにごろりと寝転がれば、天上から何かが降ってきた。


「わっ、わっ、わー。なんだこれぇ」


 ぽすっと顔に落ちてきたものは、人肌のぬくもりがあってふさふさしていた。




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