第4話・姫を連れ戻す


 この国が勇者を召喚することになったのは、この世界に恐怖をもたらした魔王が成人前のアロアナ姫に目を留め、彼女を妻にと求めたからだ。それを拒むのなら国を滅ぼすと脅した上で。


 アロアナ姫はそれを怖がり恐れて何度か自殺騒ぎを起こした。王はそこで稀代の魔術師と言われていたオウロを頼り相談した。オウロは文献を紐解き、歴代の王たちが魔王と戦う為に、異世界から勇者を召喚してきたことを知った。異世界からやってきた勇者は、底知れない絶対的な力=チート力というものを要し、その力で魔王を倒すと文献には記されていた。それで異世界から召喚されて勇者になったのが俺ということだ。

 見知らぬ世界に呼び出され、一方的に魔王討伐を乞われて嫌だと言えなかったのは、姫に一目ぼれしてしまったせいだ。プラチナのような輝きを持つ銀髪に宝石のようなエメラルドグリーン色の瞳をした美しい姫が、瞳に涙を潤ませながら、


「わたしを助けてくれませんか? あなたしかわたしを救える人はいないのです」


 と、縋ってくるのだ。それをはねつけられるような強靭な精神を持ち合わせてなかった。綺麗なお姫さまに頼られて悪い気はしなかった。ちょろい男だったのさ。


 お人よしと言われればそうなのかも知れない。でも好きな人には悲しい思いをさせたくない。姫の為に命かけてまで尽くしたのにこんな結末。笑うしかないだろう。それでも俺は……。


「姫を連れ戻す。オウロ。転移してくれ」

「何を言うのですか? 姫のことなど放っておきなさい」


 彼女があなたに何をしたのか、分かっているのでしょう? と、オウロが泣きそうな顔をしていた。そんな顔しないで欲しい。泣きたいのは自分の方なんだぞ。オウロ。

 そう思いながらも懇願するしかなかった。


「頼むよ。オウロ。あんたしか頼めないんだ」

「あなたって人は馬鹿ですね」

「そうだよ。馬鹿なのさ。俺は。だから頼むよ。今は行かせてくれ」

「仕方ないですね。少しは……されるがいいでしょう」


 呆れたような顔をしたオウロは、なにやら呟いて詠唱を始めた。その動きを見てガイムとファラルは慌てた。


「オウロ。ナツを行かせるのか? 無茶だ」

「そうだよ。ナツ。行かないで」

「ごめんな……」


 光の輪に取り囲まれた瞬間、視界の隅で何か小動物の動きがあったが、姫の事で頭がいっぱいになっていた俺は気に留めていなかった。「ナツッ」と、なぜか慌てる王の声と、ガイムとファラルが手を伸ばしたのを最後に光が弾けた。

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