第3話・俺が甘かった


「ナツヒコ?」

「この場にいない人を責めても仕方ないことだろう? 結局は俺が甘かったってことさ(くそっ。やることやっておけば良かったかも……)」

「ナツヒコ。あなたは何も悪くないのに」


 未練がましく脳内に姫の如何わしい姿を思い浮かべようとしたところで、オウロのこちらを見通すような瞳と目があい、慌てて打ち消した。


「そんなことはないさ。(俺は、姫とやることばかり考えてたし。情けねぇ)王さまや姫にはこの世界に来てからずい分、世話になったことだし、感謝しているんだ。王さまを責めないでやってくれよ(責める資格は俺にはない)」

「本当に済まなかった。ナツヒコどの。今回のことで姫は王籍剥奪の上、平民に身分を落とし国外追放とすることにした」


 王は、宰相と顔を見合わせてから言った。すでに二人の間では決められていたことらしい。許婚である勇者を裏切ったのだから、これぐらいのことは当然のことだとオウロ達は思っていたようだが、俺はそれに賛同する気にはならなかった。


「……王さま。それでいいのか? あんた父親として本当にそれでいいのか?」

「ナツヒコどの。それは……」


 俺は姫を諦め切れなかった。実際に目にしていないのもあって、まだ姫が自分を裏切っただなんて信じられなかった。何かの間違いだと思いたい。


「俺はそこまでしなくとも良いと思うんだ」

「ナツヒコ」


 オウロは何を言い出すのかと非難の声をあげた。ファラルやガイムはお人よし過ぎるぞと目を向けてくる。


「姫は妊娠していると言っていただろう? 姫は王城育ちで世間知らずだ。そんな状態で国外追放にまでしてしまったら、もし何かあった時、彼女は誰を頼ればいいんだ? 出産は女性にとっては命がけの大事だと聞いている」

「それはあなたが考える事ではないでしょう。姫のお腹の父親が世話してくれることでしょうし」


 オウロは、それはあたが考えることではないと反論しながら王らをねめつける。でも姫を放っておけなかった。


「なあ、宰相。王さま。姫を孕ませたというその男は信頼できるのか? 姫を預けて何も問題ないなら俺は何も言わない」

「……」


 無言がその場に満ちる。それが答えのようだ。もしかして姫は唆されたのか?心配になってきた。


「姫の後を追う。姫を取り戻してくる」

「無駄です。ナツヒコ。姫はあなたより相手の男を選んだのですよ?」

「分かっている。でも捨てて置けない。姫の一生に係わる事だ。王さまとこのまま二度と会えなくなってしまったなら……。俺の二の舞はもう御免だ」


 俺の言葉に、皆がハッとした。


「この俺にも元いた世界に親や、兄弟がいる。でももう二度と会えないんだ。そのことを知った時はショックだったし、その頃、仲違いした親友がいたから誤解を解いておけばよかったって後悔した」


 こんな言い方はちょっとずるいのかもしれない。皆、異世界召喚に対して負い目のようなものを抱えているのを知っているから。

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