第2話 家の掃除クエスト

スライムの粘液でベトベトになった家の掃除クエスト。

早速、その被害に遭った家に行く事になった。


家に着いて俺は愕然とした。家全体がベトベトだったからだ。


「おうっふ……。ま、まさかこれ全部なのか……?」


インターホンを押したが、インターホンもベトベトになっていて押せない。


「うわっ、きったねぇ。ベトベトじゃねぇか。……ごめんください。ギルドから掃除の依頼を受けてやってきました」


大声で叫んで依頼人を呼ぶ。


「おお、あなたが掃除をしてくれるんですね。助かります。見ての通りベトベトなんですよ」


依頼主はおじさんだった。


「ど、どうしてこんな事に?」

「それがですね。家の塗装を業者に頼んだんですが、その業者のミスでスライムが好む薬草が入った塗料で家中に塗ってしまったせいで、スライムを引き寄せてしまってこんな事になったんです。綺麗に塗れたんですが、このとおりスライムが湧いてきてベタベタにされてしまって……」

「どうしてそうなるんだ……!!それで掃除道具は?」

「ないですね。素手でお願いします」

「素手!?」

「掃除道具使うとせっかく綺麗に塗った壁が傷ついてしまいます。手で優しくお願いします。あとスライムも討伐してください」

「マジかよ……」


さて、まずはスライムの討伐から始めるとしようか。

試しに木の棒で叩いてみる。叩くとすぐ倒せた。

大量のスライムを駆除していく。


「ふぅ……。スライムの駆除は終わりだな。次は素手で丁寧に、このベタベタを取り除いていくしかないか」


素手でベタベタを取り除いていく。

作業は数時間にも及んだ。


「よしっ……。終わったー!!」

「ごくろうさま。ありがとう、助かりましたよ。報酬はギルドで受け取ってくださいね」


お約束の可愛い女の子がスライムの粘膜でベトベトになるなんていう夢のような展開になることは、一切なかった。

強いて言うなら依頼人のおっさんが転んでベトベトになっただけだった。

誰得なんだよ。全く……。


俺はギルドに行って報酬の10000Gを受け取った。


「つ、疲れた……。早く宿に行って泊まって寝よう」


俺は体がベタベタしたまま、その足で宿屋へと向かった。

宿屋に到着し、受付の女の子に声をかけた。


「空き部屋はあるか?」

「うわ、汚なっ!!なんでそんなベタベタなんですか!?」


受付の女の子が汚物を見るような目で見てくる。

これも一種のご褒美だと考えれば悪くないかもしれない。


「スライムの粘膜でベトベトになった家の掃除をするクエストを受けてたんだよ。後、スライムも討伐してきたんだ」

「そうでしたか。お疲れ様です。でもまずはシャワー浴びてくださいよ」

「ところで宿代は、いくらなんだ?」

「一日5000Gです。お食事は付いてないです。素泊まりの値段になります」


今日の稼ぎの半分じゃないか。マジかよ。

まあシャワーが使えて、温かいベッドで今日眠る事ができるならいいか。


「じゃあ泊まるよ。はい、5000G」

「はい。確かに。それではお部屋は、三階の308号室になります」


受付の女の子から鍵を貰い、早速308号室に行く。


「えっ。待って。思ったのと違う」


308号室は、ベッドが部屋の8割を占領する異様に狭い空間だった。

再び受付に行って女の子に聞く。


「シャワー室は?」

「一階に大浴場がありますよ」


俺は一刻も早くこの体のベタベタを落とす為、大浴場に行く事にした。

大浴場に行くと、屈強そうな男達が筋肉自慢をしていた。


「ん?見ない顔だ」

「どれどれ?筋肉は……っと」


そう言っていきなり俺の体を触り始めた。


「うわ、ベトベトじゃねぇか。汚ねぇ。謝れ!!」

「いや、あんたが勝手に触ってきたんだろ。なんで俺が謝らなくちゃならないんだよ!!」

「汚ねぇもん触らせやがって」

「いや、今から風呂入るんだからいいだろう!!」

「まあそれもそうか。それにしてもお前、見た目の割に良い肉の付き方してるじゃねぇか」

「そうか?」

「剣士か格闘家か?」

「えっ?そう見える?実はな……」

「実は……?」

「……お笑い芸人だ」

「ぷっ……ぷははははは。気に入ったぜ。しかしお前、本当に良い体してるな」

「分かるか?俺の体の良さを。見て!このパーフェクトボディー!!」

「パーフェクトなデブじゃねぇか」


脱衣所で意気投合したよく分からないおっさん達とひと漫才してから風呂に入った。


「ところでお前、お笑い芸人って言ってるけど、有名なのか?」

「売れてないんだよね。今日、酒場でデビューしたばっかりさ」

「売れないお笑い芸人か。道のりは厳しいな」

「ああ。だから今日もクエストでスライムを討伐してきたところだ」

「それでベトベトだったのか。この汚れ芸人め」

「うるせぇ」

「そんなお前に良い仕事、紹介してやろうか?」

「本当か!?」

「何。簡単な仕事さ。爺さんに電話して、孫の振りして金を貰うだけの簡単な仕事さ」

「それはオレオレ詐欺じゃねぇか。俺はな、いくら汚れようと心まで汚れるような事は絶対にしねぇ」

「よく言った!!お前、男じゃねぇか!!気に入った。まあ真面目な話、地道にコツコツとギルドのクエストをこなす事だな。頑張れよ、汚れ芸人」

「ああ、そうするよ」


【称号:汚れ芸人を獲得しました】


俺はシャワーを浴びて、風呂に入ってさっぱりした。

風呂上がりといえばもちろん……


「牛乳だよな。……って、今日は最後までミルクばっかりじゃねぇか!!」


俺は牛乳を飲んで、308号室に戻った。

部屋の8割を占めるベッドの上に寝転び、眠りにつくのだった。

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