間違えてステータスをギャグに全振りしてしまいました
富本アキユ(元Akiyu)
第1話 転生しちゃった×間違えちゃった
「危ない!!」
俺はそう叫ぶと体が勝手に動き、道路に飛び出していた。
そして気が付いたら、どこを見ても真っ白な世界にいた。
ああ、そうか。俺は死んだんだ。
道路に飛び出した子猫をかばって車にひかれて死んだんだ。
「……ってことは、ここが天国か。真っ白で何もないんだな」
「坂野健一。坂野健一よ」
どこからともなく、白髭のおじいちゃんが現れた。
「ええっと……あなたは?」
「ワシか?ワシは神様じゃよ。お前は道路に飛び出した子猫をかばって死んでしまったんじゃ。可哀想な子じゃな。まだ若いのに……」
「そっか……。俺、やっぱ死んじゃったのか……」
「実はな。少々困った事があるんじゃ……」
「困った事?」
「お前は本来、今日死ぬはずではなかった。だから天国の予約が満員で入れないんじゃ」
「ええー!?何そのホテル感!!天国に満員とかあるんですか!?……じゃ、じゃあ俺、地獄行きですか?」
「いや、地獄は流石に可哀想じゃなからな。だって猫かばって死んだのに地獄ってのは、納得いかないじゃろう?」
「ま、まあそうですけど……」
「そこでじゃ。お前を異世界に転生させて、第二の人生を歩ませてやる」
「おおー!!噂の異世界転生がついに俺の身に……!!」
「話が早くて助かるのお。説明の手間が省けて嬉しいぞ。それで転生させる時のお約束として、お前を強くしてやるぞい。レベルは五百。スキルポイントとかステータスポイントの割り振りは、まあ面倒じゃから自分で好きに振っておくれ。振り直しはできんからよく考えるんじゃぞ。そんじゃ、送るぞい」
眩しい光で目を開けていられなくなり、俺は目を閉じた。
次に目を開けたら、どこかの街中にいた。
辺りでは露店が立ち並び、人間や獣人やエルフにドワーフ等様々な人種が行き交っている。
じっと見ていると、彼らの頭の上にステータス画面が現れた。皆、レベルがニ十から四十前後だ。
「うわぁ……。マジで異世界ファンタジー。ゲームみたい。えーと……ステータス画面ってどう出すんだ?神様、説明が雑すぎて何も教えてくれなかったんだよな。出てこい!!ステータス画面!!」
念じてみた。
ピロンッと音がしてステータス画面が現れた。
「おお、念じたら出るのか。えーと……レベル五百。うん、神様の言ったとおりだ。周りと比べると、俺のレベル五百ってもしかしてめっちゃ強ぇえのか!?ええっと……たしかステータスは、自分で好きに振れって言ってたな。ステータス項目は……と」
ステータス一覧画面になる。
「体力、魔力、ギャグ、力、耐性、器用さ、素早さ……。今のステータスポイントは五百ポイントか。つーかギャグって何だ?……まあいいや。うーん、とりあえずある程度の力が欲しいよな。力に振って……と。決定!!」
【お知らせ。ステータスポイントをギャグに五百ポイント振り分けました】
「あっ!!違う!!間違えた!!一段ずれた!!しまった!!ギャグとかなんか訳分からないのに五百ポイント全振りしちゃったじゃないか……。やり直しできないって言ってたのに。……ってかギャグって何!?……ヘルプモード出ろ!!ヘルプ!!」
念じてみたらヘルプモードが出てきた。
「ステータスのギャグについて説明してくれ」
【ギャグとは……。笑いの出来事が起こりやすくなるポイントの事である】
「だから何なんだよ、そのポイントは……」
とにかく……まずは、情報収集だ。
ゲームで情報収集といえば定番の酒場かギルドだよな。
どこかにそれらしいものがないか探して歩いてみる。
するとビールのマークが書いてある店を見つけた。
「おっ、酒場発見!!昼間でもやってんだな。ちょっと入ってみよう」
「いらっしゃい」
「親父……。ラムをくれ……」
俺は、渋い声でマスターに声をかけてみた。
一度言ってみたかったんだよ。親父、ラムをくれって渋い声で。
「そんな渋い声出してもお前、未成年だろ。せめて付け髭して来るくらいの小細工しろよ」
「付け髭!なるほど、さすがマスター。勉強になります」
「未成年に出してやれるメニューは、ホットミルクかタピオカミルクティーかハニーミルクかココナッツミルクしかないぞ」
「もはやミルクの押し売りだな。じゃあタピオカミルクティーのタピオカなしで」
「つまりただのミルクティーだな。……ほらよ」
俺は出されたミルクティーを飲んだ。
「美味い!!今まで飲んだどのタピオカミルクティーのタピオカなしよりも美味い」
「もうミルクティーって言えよ。面倒くせぇだろ」
「ところでマスター、俺は異世界……あ、いや……この町に来たのが初めてなんだが、まずは寝床を確保したい。宿を探してるんだが、どこにあるんだ?」
「ここを出て市場を直進した突き当たりに宿屋があるぞ」
「おお、そうか。それは助かる。あとギルドの場所も教えてくれ」
「ギルドなら宿屋を行く途中にある」
「おお、そうか」
ならギルドに行ってから宿屋だな。
「タピオカミルクティーのタピオカなし美味かったよ。お勘定はいくら?」
「100Gだ」
「はい。100円ね」
「……おい、お前。なんだそりゃ。こんな硬貨使えないぞ」
「ええ!?ああ、そうか……。この世界のお金持ってなかった。ヤバいな……」
「なにぃ!?金がないだと!?ふざけるな!!どうしてもないってのなら……」
「……な、ないってのなら……?」
「体で払ってもらおうか」
「いやん……。初めてだから優しくして……」
「気持ち悪い事言うな。俺は、お前なんぞに趣味はない。ステージの上に立て。他のお客を笑わせる芸をして盛り上げろ。ウケて盛り上がったら100Gは、俺のおごりにしてやる」
「そ、そんな……。無茶ぶりにも程があるよ」
「やるのか?それともこのまま騎士団に連行されてもいいのか?ああん?」
「わかった!やるよ!やるから!!」
俺は流されるまま、ステージの上に行った。
まずい……。笑わせろと言われても何を言えばいいんだ。
辺りをぐるりと見渡す。
蕎麦のようなものを食べている緑色の獣人と、うどんのようなものを食べている赤い獣人が視界に入る。
これだ!!なぜだか急にあのインスタント食品が頭に思い浮かんだ。
「一発芸やります!」
俺は服を脱いで上半身裸になった。
「赤いきつねと淫らなたぬき~♪いやん♪」
そう言って片手で両乳首を隠した。
「………………ぷっ。くくくっ……。あはははは」
「あははは。なんだそれ、全然意味が分からねぇぞ!!でもなんか面白いぞー、いいぞー!」
ウケた。
異世界で俺は、インスタント食品の一発ネタをやって人々を笑わせた。
そうか!!わかったぞ!!
これがギャグ全振りの力か!!
「マスター、どうだ?」
「しょうがねぇ。なんか分からんがウケたから約束どおり、ミルクティー代はタダにしてやる」
「やった!!助かった!!」
ギャグ全振り。
まさかミルクティーの料金を払うのに役立つとは思わなかった。
やっぱり金もないのにいきなり酒場に行って注文するのは、失敗だったな。
この調子だと宿代もないから泊まれないぞ。
まずは金稼ぎだ。
やっぱり途中でギルドに寄って冒険者登録をして依頼をこなして、資金調達といこうか。
俺は酒場のマスターから教えてもらったとおり、宿屋の方に向かっていた。
するとギルドが見えてきた。
「ここか。冒険者ギルド、ミルク。……またミルクか。ミルクのごり押しだな」
早速、冒険者ギルドの入り口のドアを開く。
「パンパカパーン!!おめでとうございます!あなたは当ギルドの入場者数、百万人目のお客様です」
「な、なんだ!?」
「百万人目のお客様には、当ギルドの特別上映会にご案内します」
「上映会?何?映画か何かあるの?」
「すみません、すみません。でも本当は九十九万二千三百八人目のお客様なんです。本当はお客様は全然特別じゃないんですが、早く上映したくて数字をごまかしたんです」
「言っちゃいけない事を早々にカミングアウトしてんじゃねぇよ」
「重ね重ねすみません。当館自慢のプラネタリ――」
「ああー!!待って待って!!なんか聞いた事あるネタだから、これ以上言うのはやめておいて」
「分かりました。ところでこのギルドに何かご用ですか?」
「実は冒険者になりたいんだ。今すぐ依頼を受けて金を稼ぎたい。今日の宿代もないんだ」
「そういう事ですか。では、この必要書類を書いて受付で申請してください」
「わかった」
えーと……
職業……?
「あれ?俺、職業何だっけ……。無職?冒険者?分からないな。ステータス画面出ろ!!」
ピロンッと音がしてステータス画面が現れる。
「俺の職業は何?」
【職業;お笑い芸人】
「んんん!?げ、芸人!?あ……そうか。さっき酒場のステージでネタやって100G稼いだから、職業お笑い芸人なのか。もっとこう……剣士とか魔法使いとか格好良いのがよかったんだけどな」
職業は、お笑い芸人……。
「えーと……次は……持っているスキル?」
そういえばスキルポイントも割り振れるって神様言ってたっけ。
「スキルポイントの割り振り画面出ろ!!」
ピロンッと音がしてスキルポイントの割り振り画面が出てくる。
ボケ、ツッコミ。
「ボケとツッコミしかない……。くそう……。ギャグに五百ポイントも振ってしまったからか!!こうなったら芸人を極めるしかない。ボケとツッコミに二百五十ポイントずつ!!半々だ」
【ボケとツッコミに二百五十ポイント振り分けました】
持っているスキルにボケ、ツッコミと書いた。
申請書類を書きあげて受付に持って行った。
「職業はお笑い芸人。スキルはボケとツッコミ。どうだ?俺にできる仕事なんかあるか?」
「…………」
「………………」
「……ないですね」
「……マジ?」
「あっ……。これなんかどうです?スライムの粘液によってベタベタになった家の掃除とか。報酬が10000Gなので、宿代にはなると思いますよ」
「おお、掃除するだけで10000Gか。そりゃいいな。よし、それ受けるよ」
「じゃあここにサインしてください」
「はいよ」
こうして俺は、宿代を稼ぐために掃除の依頼を引き受ける事にした。
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