Braver of the daaaaaaawn and King of darkness

 黒雲が天を覆い瘴気が立ち込めるその土地は、南国の人間達に「魔平原」と呼ばれていた。

 その中心に位置する城の、最奥部に座する男が一人。

 玉座に深く腰掛けるその男の歳の頃は三十代といったところで、一見人間の様に見えるが、頭部には山羊の様な角が生えている。魔族の中でも高位の者しか、この姿でいることは叶わない。

 

「勇者がこの世に、転生したらしいな」

 男は片眉を持ち上げて、玉座の横、窓の外に広がる灰色の景色を眺めながら、部下に話しかけた。

 

「はっ……そ、その様で」

 恐怖政治を敷いているであろう魔平原の支配者に、怯えきった様子の部下がぎこちなく応えた。

 

「で、何の勇者だ」


「何、と言いますと……」

 

「お前は何時から私に質問する立場になったのだ?」

 支配者は窓の方から顔を逸らすことなく、相手を圧し潰す様な低い声で問い返した。

 

「申し訳ございません魔王様! 現在、北の国の四天王、ヨン・バーンに調べさせているところでございまして!」

 部下はまるで命乞いをするかの様に平伏し、床に頭を擦りつけながら魔王に言い訳を述べた。

 

「それで?」


「よ、ヨン・バーンに報告を急がせます!」

 魔王の部下は立ち上がり、逃げる様に王の間から走り去って行った。


「再び私の前に現れるか……」

 魔王は立ち上がり、玉座の傍らに置かれた剣を手に取る。

 装飾の無い、実用的な見た目の剣。それは魔王の魔力を帯びて、血に濡れた様な光を放った。

 

 雷鳴が轟く。

 魔平原上空に広がる黒雲は、魔王が発する力に呼応するかの様にその厚みを増し、やがて黒い雨を降らせた。

 元々湿り気を帯びた平原が黒い雨に濡れ、濃くなった瘴気が魔平原に充満していく。

 

「だが、我々とて何もしてこなかったわけではない。今度こそ、今度こそだ。闇が世界を覆えば――」

 

 魔王は真紅に濡れた切っ先を見つめながら独り、微笑んでいた。

 

「――夜明けは二度と、訪れぬのだからな」

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