第10話 冥立ドキドキ学園
ここは冥立ドキドキ学園――。
敷地面積は広大で、校舎以外のあらゆる設備が充実している。
一般教室や理科室、美術室、音楽室など学校にあって当たり前の設備は言わずもがな、2万人が収容できる大講堂、VRルーム、プラネタリウム、植物園、トレーニングジムなど、普通の学校にはない設備まで用意されている。
さらにスポーツ施設に関しても、陸上トラック、野球場、サッカー場、テニスコート、体育館、武道場などの他、ボルダリング用の壁、スケートリンク、屋内スキー場、ゴルフコース、
スポーツで疲れた後の肉体を癒す保養施設も
もちろん食事は多国籍なあらゆる食材、調味料が用意されており、レオ・バロウが望めばどんな料理でも女料理長が作ってくれるだろう。
レオ・バロウはこのような説明をルーニャから受けながら、冥立ドキドキ学園の校門前までやって来た。
その姿をよもやルッテに目撃されているなどとは気づかずに。
ルーニャとシュナが組み付いてきたためにルッテには浮気を疑われてしまったわけだが、レオ・バロウの身にしてみれば、これはまったくもって仕方のない事である。
これから彼が女だらけ(15000人の美少女)が通う学校で生活することも、まったくもって仕方のないことである!
彼らは一緒に校門の中へと入った。
その先には一人の女が待っていた。
成熟した女性の体つき。それを黒い薄絹の艶めいたローブで包み込んでいる。長くウェーブした豊かな桃色の髪が豊満な胸に流れ、手には
長い
「ようこそ、大英雄レオ・バロウ。私は、この学校の学園長リーニャです」
どこか見覚えのある面立ちだとレオ・バロウは思い、横に立つルーニャと顔を見比べた。
髪の毛が同じ桃色である。
「その通り。私のお母様よ」
レオ・バロウが質問するよりも先にルーニャが物わかりの良い顔つきで答えた。
「なんと」
学園長リーニャは全てを受容する聖母のような眼差しでレオ・バロウを見つめる。
「これから長い付き合いになると思いますわ。よろしくね」
レオ・バロウは目礼すると、落ち着いた声で言った。
「学園長自ら出迎えに来てくれるとは痛み入る。礼を言おう」
学園長リーニャは妖艶に微笑んだ。
「まあ、他にあなたを迎える人員もいなかったので仕方がありませんわ。何せ、ここにいる私たち以外の女どもは今のところすべて監禁状態にしているのですから」
「監禁?」
レオ・バロウが不穏な空気を感じ取ると、シュナも同じように険しい顔つきになった。
何か悪そうな匂いに彼女の嗅覚が反応したのだ。
だが学園長リーニャは平然と言った。
「これは学園長としてこの学校の秩序を維持するための判断ですわ。何せ、ここには15000人もの美少女がいるのです。それに対して男性はレオ・バロウ君1人だけ。もしもここの美少女どもに自由を与えて野に放てば、あっという間にこの学園は見るもおぞましい
「さすがお母様、誰がどう見ても賢明な判断ですわ!」
娘のルーニャは声高らかに母を称賛した。
予めこうなることは知ってたといういかにもな口ぶりである。
レオ・バロウは一歩進み出て、穏やかな声で言った。
「学園長、そもそも俺にはルッテ・フィオーナという心に決めた女性がいるのだが、ご存じか?」
「ええ、それなら存じていますわ」
「であれば、そのことをまずは学園内の皆の者に伝えてはくれぬか。俺はこの学園に通う少女達にいたずらに恋の期待を抱かせるようなことはしたくはないと思っている。俺の意図がちゃんと通じれば、無闇な行動に出る者も出てこないであろうし、結果的に監禁などという強硬な手段を使う必要もなくなるだろう」
だが、レオ・バロウの提案に学園長リーニャは首を横に振った。
「そう思っているのは貴方だけですよ、レオ・バロウ君。たとえ貴方に生前の想い人がいたとしても、彼女たちの意志は変わらないでしょう。彼女たちは男の心は時間とともに変わりゆくものだと信じているからです。新しい異性との出会いがあれば、貴方の考え方もいずれ変わっていくことでしょう」
リーニャはレオ・バロウからの反論を待たずに目を逸らし、ルーニャに声を掛けた。
「そういうわけですから、登校初日の重大イベント“学校案内”はレオ・バロウ君の同居人であり、“妹役”でもある私の娘、ルーニャが引き受けるのが相応しいでしょう。さあ、学園長命令です。ルーニャ、登校初日のレオ・バロウ君に早速学校をご案内してあげなさい!」
「わかりましたわ、お母様、いえ学園長。さ、お兄ちゃん、そういうわけだから私についてきて。この学園の素敵な場所を私がいっぱい案内してあげる」
ルーニャはレオ・バロウの手を引くと、得意げに鼻を持ち上げて歩き出そうとした。
「ちょっと待てよ! レオ、こいつらに騙されちゃダメだ!」
シュナもレオ・バロウの腕を掴んで必死に引き留める。
「お前らレオにはルーニャ以外の生徒に一切会わせないつもりか? 正々堂々と勝負しないで、自分達ばっかりずるいと思わないのか? 学園長がそんなことしていいのかよ!」
「あら、もちろんですわ。なぜなら学園長である私は、この学園の最高権力者なのですから! おーほっほっほ!」
学園長リーニャは高らかに笑った。
「くっ……あんたの一族はみんなこうなのかよ! これだからルーニャも!」
「あらあら、シュナちゃん。だって愛する娘のためなら母親は何だってするものでしょ。これを愛と呼ばずして何を愛だと言うの?」
「は! そんなのアタシは愛とは呼ばねえよ!」
「ただ言葉で否定するだけじゃ何も変えられないわよ。それに気づいているのかしら? あなたもすでに私達一族と共犯なのだということを」
「何? 共犯? アタシが? 何のことだ?」
シュナは目をパチクリとさせた。
「あらあら、シュナちゃんは一体誰のおかげで大英雄レオ・バロウ君の“幼馴染み役”になれたと思っているのかしら?」
「は? そんなのくじ引きで…決まったこと、じゃなかったのか?」
「ふふふ。ホント素直ね。でも、よく考えてみなさいな。この学園にはレオ・バロウ君の将来の伴侶に選ばれたいと思っている15000人の美少女がいるのよ? それなのに、最初から“幼馴染み役”という超超特等席をただの運だけで手に入れられるなんてことあるかしら? この陰謀・策謀の渦巻くエロエロ地獄でねえ!」
「え、じゃあ、まさか……!」
シュナはルーニャの背中をギリリと見つめた。
「どういうことだよ、ルーニャ!」
「私がシュナを選んだの。“幼馴染み役”はシュナがいいって」
「……なんで?」
ルーニャは何も答えなかった。
レオ・バロウは二人の様子が少し気になったが、今はあまり踏み込んだ事情に関わるべきではないだろうと判断して、しばらく様子を見ることにした。
「それじゃお兄ちゃん、まずは私達の教室へ案内するね」
ルーニャはとびっきりの笑顔で振り返ると、レオ・バロウの手を引いて改めて登校初日のイベント“学校案内”を始めた。
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