第142話 宝具で準備万端
「その
そんな僕の素朴な疑問に、
死体処理チームの話によると、送りつけられて来た耳は死体となった若い男の耳だったそうだ。恐らく
もちろん、その男の死体は既にレッサーウルフの腹の中だが。
「さぁな。俺も仏さんの顔を確認したが、見た事の無ぇ顔だったんだよなぁ。となると、今回の事件を
少なくとも
恐らく今回の襲名に関する不満も、本人が単身
当然、
しかし思惑は大きく外れ、
「はぁ……」
大きくため息を付く
僕は少し重くなった雰囲気を変えるべく、今度は
「そう言えば、
あの日、誘拐された二人を救出したのは誰あろう、
ではなぜ
「そうそう! ねぇ
彼女はタルタルソースたっぷりのシュリンプフライを手に持ったまま、テーブルの上へと身を乗り出して来る。
いやいや、
そんなに身を乗り出しちゃ駄目ですよ。
マジで目のやり場に困りますって。
彼女の着ている服がエロい訳では決して無い。
どちらかと言えば、地味めで清楚系とも言えるオフホワイトのワンピースだ。
にもかかわらず、彼女がテーブルの上に身を乗り出すと。
あぁ、あぁ……。
乗ってますよ!
えぇ。みごとなほどにね。
テーブルの上にね。
どどーんとね
二つね。
たわわなヤツがね。
たわわ、たわわとね。
どうしましょうかね、これね。
いや、僕にはどうしようも無いんですけどね。
確かにどうしようもない。
どうしようもないので、とりあえずしっかりと目にだけは焼き付けておく事にしよう。
「でさぁ、最初に寄ったドンキーでね、私に会うサイズが全然無くってさぁ!」
ん? ドンキー?
「それで、タクシーの運転手さんに
んん? ハシゴ?
この娘は一体何を言っているのだろうか?
微妙に……どころか、会話自体が全然成り立っていない。
彼女と僕の世界線は、どうやら完全にねじれの位置にある様だ。
「
そんな僕からの無粋な質問に、彼女は軽く桜色に染まった頬をぷっくりと膨らませて見せる。
なに?
このめっちゃ『かわよ』な生物は?
年上なのに、先輩なのに。
めっちゃめちゃ『かわよ』じゃん。
「なによぉ、まだ飲んで無いわよぉ、失礼ねぇ。だいたい私が本気で飲み始めたらさぁ……あっ、お姉さぁんっ!」
まだ話の途中にもかかわらず。
彼女は偶然通りかかったウェイトレスを呼び止める。
「すみません、白のマグナム
って事は、僕たちが来る前に一本空けてるって事でしょ?
まだ飲んで無いって、どう言う事?
つまり、今飲んでる分については、飲んだうちに入らないって事なの?
僕はこの状況に理解が追いつかず、助けを求めるべく
すると彼女は、呆れたように指を三本立てているではないか。
え? マジか。
三本目なの?
これ?
めっちゃ飲んでるじゃん。
マグナムボトルって、千五百ミリリットル入ってんでしょ?
とりあえず
それでも、既に二リットルぐらい飲んでるって事だよね?
いやいやいや。
ないわー。
全然考えらんない。
僕は未成年だからお酒飲んだ事ないけど。
アルコールって、一人で一リットル以上も飲めるものなの?
僕なんて水でも一リットル飲めないよ。
しかも、その結果が少し頬が赤らむ程度って……どうなってんの?
まぁ、会話は既に成り立ってはいないけども。
「ちょちょちょ、チョット待て、待つのだ!」
僕が呆れた様子で
「給仕の者を呼ぶのは私の役目だと言ったろう!? 勝手に呼ぶんじゃない! だいたい、お前もおまえだ。自分の
なんか知らんけど、僕までクロに怒られちゃったよ。もぉ!
って言うか、
もちろんクロにそんな事を言える訳もなく。
しかも彼女は少し不満気な僕の事など完全に無視。
いまや一張羅となったタンクトップの胸元から、どこか見覚えのあるプラスチック製の丸い玉を取り出してみせた。
「ふっふっふ。ぽちっとな!」
――ピンポーン
あ、それって……。
「どうだ、タケシ。驚いたであろう!? これは魔法の玉だ。恐らく何らかの宝具に相違ない。押すと遠くで音が鳴ってな、給仕の者がやって来ると言う優れモノだ!」
いやいやいや。
それって単なる呼び出しボタンだから。
全然魔法じゃないから……って言うか。
あぁ……もぉ。
嬉しそうなのは良いんだけど。
また胸元に仕舞っちゃ駄目だって!
だから、持って帰っちゃ駄目なんだって!
「こらこらクロ。それ、お店の備品だから持って帰っちゃ駄目だよ!」
「なんだ、タケシ。お前もこの宝具が欲しくなったのか?」
ニヤリと笑うクロ。
いやいや、いらねぇよ。
って言うか、宝具でもなんでも無ぇし。
単なる電化製品だから。
って言うか、持って帰っても使い道無いから。
自宅で押しても、ウェイトレスさん来てくんないから。
もしホントに来てくれるんなら、マジで争奪戦だわ。
「仕方が無いのぉ。タケシは一番奴隷でもあるしな。一回だけだぞ、本当に一回だけだからな!」
なぜか優越感満載の彼女は、いま胸元に仕舞ったばかりの呼び出しボタンを再び取り出すと、そっと僕の手に握らせてくれる。
あぁ……暖かい。
クロの温もりと優しさが伝わってくるようだよ。
なんか、この温もりを感じていると、ちょっと違う所もホットな気持ちになりそうだけど……。
「って言うか、これはお店のモノなので、持って帰っちゃいけませーん」
僕は無情にもクロから一番遠いテーブルの端に呼び出しボタンを置いてしまう。
「あっ! こっ、コラッ! タケシッ! 何と言う事をするんだっ! 他の者に宝具を奪われたらどうするっ!」
誰も取らねぇよ。
って言うか、全部のテーブルに一個ずつ置いてあるっちゅーの。
いまだギャーギャーと騒いでいるクロを後目に、僕は既に何杯目かもわからぬ白ワインを美味しそうに口へと運ぶ
「で、先輩。結局どうやったんですか?」
「聞きたい?」
なにげに、小悪魔的な笑みを浮かべる
「はい、聞きたいです」
「どうしてもぉ?」
「どうしても」
「どうしてもの、どうしてもぉ?」
「ど、どうしてもの、どうしても……」
ちっ!
めんどくせぇよ。
ホント、マジめんどくせぇよ、
でも……。
でも、可愛いから……。
許す。
そんな、どうでも良いやり取りをしながら二人でイチャイチャしていたら。
「いやぁーん!」
なぜか少し嬉しそうな
一方
「これよ、コレ」
え? ナニ、これって!
スカートの中?
謎の答えは、スカートの中にあるって言うのかっ!?
そう言う事?
そう言う事なの!?
神秘のベールに包まれた女体の謎は、そのオフホワイトにスカートの中に隠されているって言うのかっ!
なんと言う事だっ!
それは是非とも探索せねばなるまい。
全身全霊をもって、今すぐにでも探検におもむかねばなるまいてっ!
じっちゃんの名にかけて、真実はいつもひとーつっ!!
「なに、いまさら顔を赤らめてんのよ。そうじゃなくて、これよ、コレ。そっちからも見えるでしょ? この白いプラスチックみたいなヤツ」
「え? プラスチック?」
そこから覗く
「これが本物の宝具よ。第二級聖遺物『アレクシアの鎧』。クロちゃんがこっちの世界に来る時に持って来てたんだけど……って言うかアナタ、私と一緒に高尾山の麓まで取りに行ったじゃない」
「あぁ……あの時のヤツか」
確かにクロが宝物を墓地の何処かに隠したとかで、皆で取りに行った事があったな。それでもって、運悪く教団のヤツらとも戦う事になって……あの時はホント酷い目にあった。
「この『アレクシアの鎧』は本当に凄いのよ。神の祝福を持たない人であっても、魔力さえあればアレクシア神の祝福を受けた人と同じ能力を発揮できるの」
「え? マジか」
流石は
いつもクロに付きっきりで、単なる猫好きなのかと思ってたけど。
いやいやどうして。クロから色々と情報を引き出していたらしい。
「アレクシア神は戦闘の神。その戦闘の神様が身に着けていた鎧って言うのが、コレだと言われているらしいわ。ちなみに、第二級聖遺物は神が所持していた物や身に着けていた物の事で、第一級聖遺物になると神の髪や骨、血液などが含まれるらしいの。後は第三級聖遺物って言うのもあるそうけど、これは第一級聖遺物や、第二級聖遺物に触れた物が含まれるそうよ」
って事はだ。
その第二級聖遺物ってヤツを身に着けている
うむ、確かに。
彼女のダイナマイトボディは聖遺物として……いや国宝として……いやいや、世界遺産として、後世に伝え残して行くべきものであろうな。
うんうん。あなかしこあなかしこ。
てな事はどうでも良くって。
既に出来上がり気味の
結局、詳細については、情報通の
彼女の説明では『アレクシアの鎧』はサイズ的にクロも
要するに、大人の女性でないと使いこなせないと言う事なんだね。
サイズはサイズでも、色々なサイズ的にね。
ボン、キュッ、ボンッ!
みたいなサイズ的なヤツね。
うんうん。なるほど、なるほど。
もちろん、
当たり前じゃないか、やだなぁ、もぉ!
とはいえこの話を聞いた直後、
……解せぬ。
そして、アレクシア神の祝福は『人体強化』だ。
祝福を受けた人の筋力は強化され、外部からの攻撃に対する防御力も飛躍的に向上する。
その良い例が、
彼女は天然もののアレクシア神の祝福保持者だ。
しっかし参ったなぁ。
あんな筋肉馬鹿が二人になるなんて……。
いやいや、待て待て。
と言う事であの日、まだ酔う前の
準備万端、万全の態勢て……。
その後、自宅のマンションから出た所で、例の偽タクシーに乗ってしまったそうなのだが。もちろん、万全の態勢である
もしもの事を想定し、運転手の首根っこを押さえつけて言う事を聞かせつつ、ドンキーをハシゴ。三軒目にしてようやく欲していた
うん、やっぱり
飲んでる時限定だけど。
とは言えだ。
おそらく、タクシーの中で誘拐されたと感じた彼女は、素面のままではヤバいと考えたのだろう。
仮装の衣装を選ぶフリをしながら、ドンキーでお酒も買い込んでいたに違いない。
でもまぁ、日頃は大人しくって緊張しぃの
僕は今回一番の功労者である
って言うか、先輩の持ってるそのグラスって、ビールの大ジョッキじゃん!
ワイン飲む前にビール飲んでるよね。
絶対コレ、ビール飲んじゃってるよねっ!
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