第132話 男ってホント馬鹿(後編)
不敵な笑みを浮かべながら前へと進み出て来たのは、二人組ヤクザの片割。
年長者の方か。
四十代半ばぐらいかな?
相手の戦力削ぐんだったら、もう一人の三十代ぐらいの方が良かったんだけど……。
まぁ、どっちでも良っか。
下の人がヤラレても、上の人は引かないだろうけど、もし上の人がヤラレたら、下の人は引くかもしれないし。
そこに期待ね。
「うふふふっ……さぁどうぞ。楽しみましょ」
私は隣でガタガタと震えている
「さぁて嬢ちゃん。その余裕が一体どこまで持つかなぁ。オッチャンのイチモツでひぃひぃ言う未来が見えるぜぇ。そん時になって許しを請うても遅いってもんよ」
男は荒々しく私の隣に腰掛けるのと同時に、私の首元へと舌を這わせ始めた。
「……」
うーん。
全くと言って良いほど、気持ち良くない。
と言うか、気持ち悪い。
完全に、ヘタクソな部類だ。
何が『熟練した俺の超絶テクニック』よ。
このオッサン、とんだ見掛け倒しだわ。
「はぁ、はぁ……はぁ」
もぉ、顔を寄せて来んなよぉ。
うえぇ……酒臭ぇ。
この臭いは芋焼酎だな。安酒飲んでやがんなぁ。
まぁ、人の吐く息で、安酒だって分かる私自身も大概だけど。
それに……。
「げへへ……むちゅぅ」
うわぁ!
ドサクサに紛れてキスしようとして来やがった。
でも、そこは断固拒否。
とは言え、あからさまな事をしたら、折角つくり上げた雰囲気が台無しだからね。
しっかりと恥じらいを演出しつつも、さらりと顔を背けるぐらいのテクニックは持ち合わせているつもりよ。
「どうだぁ? ええかぁ? えぇのんかぁ?」
「えっ? うっ……うん。私……」
「私ぃ? ……なんだ? 言ってみろよぉ……」
「えぇ? 私、わたしぃ……こんな、こんな……」
こんなにヘタクソなの
「……初めてぇ!」
「ぐえぇへへへ。そうか、そうか。初めてかぁ! お前っ、なかなか良いなぁ。どうだ? なんだったら俺の女にならねぇか? そしたら生かしといてやらんでも無いぞぉ」
おぉ、あぶない、あぶない。
思わず心の声が漏れそうだったわ。
って言うかコイツら、やっぱり私たちの事を生かしておく気は無いって事ね。
どうすっかなぁ。
コイツの児戯に等しい愛撫にも飽きたしなぁ。
もう少し時間稼ぎをすれば、事態が好転するかも……なんて思ってたけど。
そうも行かんかぁ。
頼みの綱である
連絡を取る手立てがまるで無い。
更にこの後
であれば、少なくとも
仕方ねぇな。
ココらで一発、勝負かけるかぁ。
私は男の毛深い手にそっと自分の手を添えてから、少し
「オジさぁん。私ねぇ、いっぱい気持ち良くしてもらっちゃったから、今度は私がオジさんの事を気持ち良くしてあげるねぇ」
そう言うが早いか、私は慣れた手つきで男のファスナーを引き下げ始めたのだ。
「おぉっ! そっ、そうかぁ!?」
うわぁ……でたでた。
貧相ぉぉ。めっちゃめちゃ、貧相やん。
しかも、結構
おいおいおい。
それにお前っ、ちゃんと風呂入ってんのか?
ほら見ろ、ココにチ〇カス付いてんぞぉ。
うげぇ……これ咥えんのかぁ。
地獄だなぁ。
色や形に、長さや太さ。
そこに形状や硬さ、更に臭いを加えてみても……そのどれもが最低ランク。
くぅぅ……泣けてくるぜ。
これまで結構な
投機的格付けだな、こりゃ。
でも仕方ねぇなぁ。
普通の女の子でしかない。
いまこの場で戦えるのは私一人。
そう考えると今さらだけど、立花の
元はと言えば、クロちゃんが持っていた神の祝福と呼ばれる力だ。
クロちゃんの話ではこの祝福、従属関係のある主人から奴隷へと受け継ぐ事は出来るが、その奴隷がさらに自分の配下である奴隷へと祝福を分け与える事は出来ないとされているそうだ。
じゃあ、なんで
って話よ。
クロちゃんにも、そこの所は良く分かってないらしい。
そして、この祝福の力だけど、人が継承した場合に副次的な効果が発生する。
それは、筋力の大幅な増強。
完全に人外超人だ。
元々獣人は人よりも高い運動能力を持つ事から、その力を受け継いだのだと考えられるが……。
では、
一言で言うなら……微妙。
正直、かなり微妙なのだ。
確かに同年代の女子とくらべれば、各段に運動能力は向上した。
とは言っても、結局は人間の女子と比較して……と言う域を出ない。
結果的に言うと、ある程度訓練を積んだ男性と取っ組み合いの喧嘩をしたとしても、まず勝つ事は出来ないだろう。
自分なりに色々と試した結果から推測すれば。
恐らくだが、元の運動能力に獣人の力が
つまり、元々身体能力が高い人間はより高く。
身体能力が最初から低い人間は……それなりに運動能力が向上する。
そう言う事なのだろう。
実際、立花の体を使っている分には、そのあたりの野郎どもと喧嘩をしたとしても、全く負ける気がしない。
しかも、立花の体に染み込んだ技術的な喧嘩癖が、
これ、マジ便利。
立花の事は身の毛がよだつほど大嫌いだけど、
「うぉっ! 嬢ちゃん、なかなか手慣れてんなぁ。これまでどんだけ咥えて来たんだぁ? げへへっへヘっ」
えー。そんな事聞いちゃう?
別に言っても良いけど、ドン引きするぞ、お前。
「ふえっ?
「うぉっ、おほほほぉぉ!」
口元からヨダレを垂らし、無様な喘ぎ声を巻き散らすだらしない男。
そんな男を上目遣いに観察しながら、ふと考えてしまう。
人間とは……なんだ?
人間とは……理性の生き物だ。
人が何かを成し遂げようとする時、そこには必ず『理性と言う名の縛り』……つまり
物を投げる。
早く走る。
高く飛ぶ。
もう無理……と思っていても、意外と余力は残されているものだ。
この『理性と言う名の縛り』は世に言う『火事場の馬鹿力』と混同されがちだが、少し違う。
例えば、こう考えてみて欲しい。
人の持つ本来の力を百と仮定しよう。
生命の危機に瀕した際など、己が肉体の損傷を顧みず、百を超える力を発揮する場合が確かにある。
これこそが『火事場の馬鹿力』。
あえて語呂を合わせるとすれば『野性と言う名の縛り』、もしくは『本能の縛り』を越える力とでも表現しようか。
しかし、この力を発揮するには大いなる代償が発生する。
人として、生物として。『死ぬよりはマシ』と言う状態になって初めて解除される
では『理性と言う名の縛り』とは一体どう言うモノなのか?
人は常日頃から百の力を行使する事は無い。
一般的に使われる力は六割から七割程度と言われているらしいが、それでも多いぐらいだ。
実際のところ三割にも満たない力で、日々の生活を営んでいると言っても過言では無いだろう。
これら七割近い力の行使を阻んでいるものこそが『理性』に他ならない。
そんな事をしたら叱られる。
こんな事はやった事が無い。
あんな事はするべきじゃない。
各自それぞれが持つ『環境』や『常識』が邪魔をして、本来の力を行使する事が出来なくなる。
それは『理性』を持つ生物として進化した人類の特権か? それとも『常識』に囚われる現代人の悲しい
ただ、この『理性と言う名の
では、どうすれば良いのか?
簡単な話よ。
経験する事……ただ、それだけ。
若い時の苦労は買ってでもせよ。
経験に勝るものなし、百聞は一見に如かず。
昔からの諺にも、多く語られている通り。
一度……。
たった一度経験するだけで、人は物事に
――コリッ……。
「ん?」
ほら、見てごらん。
可愛い女の子が、小さな塀から飛び降りようとしているよ。
絶対に無理、恐い、怖ろしい。
そう思い込んでいるのは、結局自分だけ。
――ググッ……。
「おっ、おいっ!……ちょっ……ちょ待てっ! 待てって!! おいっ! おいっ!!」
やってみれば、実は大した事でもなんでも無い。
翌日からは、なんの
ほら、簡単な事よ。
飛んでごらん。ほら。
勇気を持って、さぁ! ほら……ほらっ!
――ブチッ……ぐちゅぐちゅぐちゅ……ババッ、バシュゥゥ! ドクドクドク!!
「あがっ!! うわぁぁぁぁ! こいつっ! こいつぅぅぅ!!! うおぉぉぉおぉぉ!!」
男の狂ったような
何度も、なんども。
だけど、痛みを覚えたのは、最初の二回だけ。
その後は、自分自身の痛みを紛らわせるため、ただやみくもに振り回しているだけに過ぎない。
そんな
おいおい……あんま暴れんなよ。
思い起こされるのは、あのゴルフ場での惨劇。
当時、余りの復讐心と怒りに気が動転していたとは言え、立花の男根を思い切り噛み千切った時には流石に自分でも驚いた。
でもまさか、その経験がこんな所で生きるなんて。
うふふっ……私の八重歯……マジ最強。
「うわぁぁぁぁ! うわぁぁぁぁ! ヤメロォ! ヤメテくれぇぇ! 誰かっ! 誰か助けろぉ!! うおわぁぁぁぁ!!」
大きく身をよじり、何とか私を振りほどこうとする男。
しかし、そうはさせない。
私は強化された両腕で、さらに男の太腿をこれでもかと締め上げてやる。
――プシャァァァ、ドクドクドク、プシャァァ、プシャアッァァ!!
パンパンに膨れ上がった海綿体からは噴水のように血液が溢れ出し、みるみるうちにオフホワイトのソファーを赤黒く染め上げて行く。
「ぐっ……ペッ!」
私は咥内に残った海綿体の欠片をコンクリートの床へと無造作に吐き捨てた。
口元と言わず、顔面と言わず。
上半身のほぼ全てを男の返り血で赤黒く染め上げた私は、何事も無かったかのようにその場で立ち上がると、冷めた目つきで辺りを
シンと静まり返る室内。
ただ茫然とその惨状を見守る周囲の男たち。
一体何が起きているのか?
一度バグった思考は、なかなか元には戻らないのだろう。
私の足元には小刻みに
しかし、私の事を……いや、私の所業を怖れ、誰も近寄って来ようともしない。
はぁ……まったくぅ。
いくら自分の性欲を満たす為とは言え、自身の最も弱い部分を相手の最も強い部分へと躊躇なく挿入する愚行には、本当に呆れかえってしまう。
あえて……あえて、もう一度言っておくわね。
やっぱ男って……ホント
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