第128話 歴代皇帝の気持ち
「「おぉぉぉぉ!!」」
――パチパチパチ!
一瞬のどよめきとともに、会場全体が割れんばかりの拍手に包まれて行く。
注目されるって分かっちゃいたけど。
いざその場になってみたら、尻ごみするって言うか、気後れするって言うか……。
僕は
僕に向けられる様々な視線。
居並ぶ大人たちの邪悪に満ちた陰湿な視線が、僕の心をさも当然の事であるかのように傷つけ、そして
くっそ……。
……それから後の出来事は一切覚えちゃいない。
いや、正確に言えば、
何しろ会場を出た後すぐに、バックアップしてあった
そして僕はいま……見覚えのある応接室の中央に腰掛けていて……。
「おぉ、戻って来たか? 三代目ぇ。俺ぁ別に
聞き慣れたその声。
僕の左手にあるソファーから笑顔で語りかけて来たのは、新たに若頭へと昇格した
「その三代目って言うのはヤメてもらえませんか? なんだか慣れなくって……」
「そうは言ってもなぁ。流石に
確かに……。
いくら
「いつもみたいに呼び捨てで構いませんよ。
「いやいや、そうも行かねぇよ。既に
「はぁ……そう言うモノですか」
僕は渋々承諾しつつも、他に誰か助け船を出してくれる人がいないものかと周囲を見渡してみる。
部屋の中央に置かれた豪華なソファーセット。
そこには、僕を含めて七人のメンバーが座っていた。
僕から見て左手にある一人掛け用のソファー二席に座るのは、
右手にある三人掛けの長椅子には、北条君に車崎さん、それに
って言うか……
そんな高らかに足を組んでたら網タイツの間からパンツが透けて見えちゃいますよ。
え? あぁ……パンツの事なんて気にしてないと……。
はい、そうですか。そうですよね。
なんだか楽しそうですね。
完全に出来上がってるって顔してますよ。
その様子だど、もうだいぶ飲んでますね。
そうですか、さっきの立食パーティの時ですね。
そうでした、そうでした。
ウェイティングバーに陣取って、バーテンさんにくだまいてる女性の後ろ姿は覚えていますよ。
あれって先輩だったんですね。薄々気付いてはいましたが。
向こう正面にある一人掛け用のソファーに座るのは
今日は何か重要な話があるって事で、
後は……クロの姿が見えないけど。
あぁ、
疲れてるのかな?
眠っているようだけど。
最近、北条くんと何か相談しながら色々と単独行動が多かったようだし。
仕方が無い、寝かせておきましょうか。
どうせ起きてても碌な事は言わないだろうからね。
さて、いまこの場に居るのが、主要メンバーと言った所かな。
本当は
世の中には知らない方が幸せなコトもある……って事だよね。
後は……そうだなぁ。
クロと僕の秘密を知ってるって言う枠で考えると、
でも流石に聖職者として、反社の会合に出る訳には行かないって事で、今日の出席は見送ったそうだけど。
でもそんな事言ってる割には、結構な頻度で
ブラッディマリーかぁ……。
最近じゃあ
無尽蔵の
修練を積んだ格闘技術に、生まれながらのセンスが加わって、実質無敵状態と言って良い。
僕がブラックハウンドになっても勝てるかどうか……そんな感じのレベルだ。
今度採石場の方にでも来てもらって、一回ガチでバトってみても良いかな? なんて思う事もあるけど……いや、でもヤメておくか。
もし本気で来られたら、ガチで殺されるかもしれないしな。
もっと誰か、本気で彼女を止められる人が現れてから考えても遅くは無さそうだ。
「本当にアレって必要だったんですかね?」
結局の所、誰も助けてくれそうにない事を理解した僕は、無駄だとは承知しつつも同じ質問を繰り返してしまう。
「もちろんさ」
この人には迷いもブレも見受けられない。
深慮遠謀、即断即決……と言うよりは、最近では純粋に単細胞なんじゃないか? と疑いたくなる。
「必要に決まってんだろう? まず第一に、
そう、得意げに話す
向かいの席に座る北条君も、半ば笑いを堪えながらも頷いているようだ。
「そんで第二に、
だいたい、組の
この話は確かに納得できる。
実際、立花さんの格好をした
思えば、例のゴルフ場での一件で、立花さんは既に他界している。
今ごろはレッサーウルフたちの腹の中だ。
……いや、もう消化されて、糞になって、下水に流されてから久しい。
しかし、
仕方がなく僕たちは
最初はかなり抵抗していた彼女だったけど。
何処へ行くあてもなく、借金まみれ……と言っても、実質彼女の借金では無かったのだけれど……の彼女にとって、断ると言う選択肢は無かったのだろう。
それ以降、自分が済んでいたアパートを引き払い、立花さんや自分の母親が住んでいたマンションも全て処分して、今では
「でもさぁ
この天然娘めぇ。
気付けば二人は年齢が近い事もあってか、かなり仲が良いらしい。
いや、年齢が近いからじゃないな。
単に二人とも、大酒飲みなだけのような気もする。
実際、この前も二人で朝まで渋谷の街を練り歩いていたらしいからな。
「あぁ、えぇっと。実はそう簡単にも行かなくってさぁ。クロちゃんに聞いた話だと、私の魔力量はどうも普通らしくってね。しかも獣人の人たちみたいに溜め込む事も出来ないらしくてさぁ。一回変身するとガチで体にガタが来るわけよ」
「へぇぇ。どんな風になんの?」
「えぇっと、アレアレ。生理の一番重い時ぃ? あんな感じが三日ぐらい続く訳なのよぉ」
あぁ、魔力酔いってヤツか。
僕もブラックハウンドを出した時になった事がある。
僕の場合は頭痛と吐き気だったが、女性の場合は少し症状が違うのかもしれないな。
「うわぁ、それは大変だねぇ」
「そんでもって、その間はもちろん魔力もなんも使えないし、ただただ、どんよりしちゃうしさぁ。それに、ココって
「なるほどねぇ。それなら仕方が無いか。よし、
「だよねっ、
「「うぇい、ウェイ、ウェェェイ!」」
――プシュ、プシュゥゥッ! ガコガコッ!
一体どこから持ち込んだのか?
ストロングレモンのロング缶を勢いよく開けて、突然乾杯を始める二人。
なんだよそのノリ。
どこのパリピなんだよって話だよ。
「ぷはぁ! キマるわぁ!」
「だよねぇ! ウェイ、ウェェェイ!」
もう良いよ。
この二人は放っておこう。
元々意見を聞く気も無かったし。
突然酒盛りを始めた二人を後目に、僕と
「とりあえず立花さんの事については当面
そんな
「でも
「コノヤロウ、なに人の事を呼び捨てにしてやがんだよっ! これからはちゃんと
「んだとぉ、このとっつあん坊やぁ! 一回赤いランドセル
「「ぐぬぬぬぬっ!!」」
徐々にヒートアップする二人の間を、
「はいはい、二人とも小学校じゃなくて、幼稚園からやり直してくださいね。そんな事より北条さんの言う通り、問題は上位組織との交渉と、舎弟頭の件でしたよね。まずは上位組織側との交渉は上手く行ったのですか?」
「あぁ、上位組織の方はなんやかんや言っても、結局は金でって事で話は付いた。上納金はこれまでと同額。それ以外に世代替わりを認める為の特別上納金として、
指一本十万円って事は無いだろうな。
となると、指一本百万円か。
って事は、全部で一千万円!?
これが高いのか安いのか? 一般庶民の僕には到底理解が及ばない。
「それで済んだのであれば、計画は大成功でしたね」
「おうよ。それに、真田さんの証言もあったからな」
「真田さんの証言? あの真田前会長ですか? 良くあんな状態で証言が取れましたね」
確かに前会長が跡目を誰にするのかを告げれば、上位組織だってそれを尊重しようとするだろう。
とは言え、今日のお披露目会でも登壇してたけど、どうみてもヨボヨボのお爺ちゃんでしか無かったからな。
よくあの状態で証言が取れたものだと言わざるを得ない。
「あぁ、それは俺から説明しようか」
ここで北条君が身を乗り出してきた。
「あの真田前会長の件だが、あの爺さん、つい一週間ほど前まではピンピンしてやがってなぁ。既に七十も越えたって言うのに現役でよぉ。そこで、クロ大先生のお出ましだぁ。こっそり夜伽の相手として潜り込み、真田前会長の
あぁ、それで最近クロが出かけてばかりいた訳か。
「その後、愛人宅から出て来た所を俺のチームが
「え? って事は、真田会長ってもう……」
「会長じゃなくって、前会長な」
そう言うトコっ!
「そうだな。今頃は骨の一つも残ってはいないだろうよ」
「それじゃあ、今日出て来てた真田……前会長って誰なんです……って、あぁ……そう言う事ですか。クロが身代わりに?」
「ピンポォン! 正解だ。今日舞台に出てた真田前会長はクロさん。立花さんは
なるほど。
これでようやく状況が理解出来たぞ。
クロもお疲れ様だったんだね。
そりゃ、眠くもなろうってもんだ。
と言うか、ここまでの段取りはこの三人が全て計画して実行してたって事か。
あくまでも裏社会の話だからって、何してるのか全然教えてもらって無かったけど。
それにしても、エグイぐらいの迅速さと粛清っぷりだ。
気付けばヤクザ組織のナンバーワンとナンバーツーを、アッサリとあの世送りにしてる訳だからな。
と言う事は、僕だってそのうち……。
――ブルブルブル……
突然の悪寒が背筋を駆け抜ける。
あぁ……中国の歴代皇帝の気持ちが少し分かった様な気がするよ。
これだと、いつ寝首をかかれるかが心配で、夜も寝れやしない。
そんな不安な気持ちを抱える僕の事など気にも留めず。
「上位組織との調整が上手く行ったって事は承知しました。残る問題は舎弟頭の
「承知しました。あぁ……えぇっと
「え? あ、ひゃい!」
完全に虚を
突然
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