第123話 我が麗しの都(前編)
-----------------------------------------------------------
【注意(CAUTION)】
文書の最初からグロテスクな表現が続きます。
得意でない方は、読み飛ばして下さい。
-----------------------------------------------------------
――パン!
折り重なった人肉の合間から乾いた銃声が鳴り響いた。
至近距離で射出された9ミリのパラベラム弾はアッサリと男の頭部を貫通。
一般的に銃創は射入口より射出口の方が大きくなると言われているが、これだけの至近距離だとまた話は別だ。
盛大にぶちまけられる脳漿。
男の
「9ミリは殺傷能力が低いって?」
そりゃ軍隊相手の話だろ?
防護服もヘルメットも装備していない一般人。
そんなのが相手であれば、正直オーバーキルも
俺は顔面に降り注ぐ生温かい血飛沫の感触を味わいながらも、誰に言うでもなくそう疑問を投げかけてみる。
「って言うかさ、爺さん。なんて事してくれてんだよ。弾は貴重なんだよ。それに、俺の最後の花道を邪魔しねぇでくんねぇかな」
左手一本で支えていたはずのGlock。
そんな俺の
しっかし、どこの何方かは存じませんが、大変申し訳無い事を致しました。
引き金を引いたのは確かに俺だけど、その銃口をお前さんの頭に向けたのは俺じゃなくて、この横に居る爺さんですからね。
不幸中の幸いと言って良いかどうかは知らんけど。
既に体中に矢が突き刺さってて、事切れていらっしゃった様でもありますし。
って事はお前さんを殺したのはメルフィの軍隊であって、俺じゃあないからね。
決して俺の所に化けて出て来ないで下さいよ。
なむなむなむ……。
俺は頭蓋を吹き飛ばした遺体に向かって、軽く念仏を唱えておいた。
「まぁ、そう言うな。袖触れ合うも何かの縁……と言うしのぉ。それに、死ぬ間際であんな風にワシの不幸まで呪われるようじゃ、流石にワシだって神としての立つ瀬がのうなるわいっ」
ちっ。
そんな風に思ってくれてんなら、もっと早くから助けてくれよっ!
今ごろ助けた事にして点数稼ごうったって、そうは行かねえぞ。
「だがなぁ、爺さん。もう、俺の守るべき御方は死んじまったに違ェねぇのさ。となれば、護衛の俺がおめおめと生きてる訳には行かねぇんだよ。だからよぉ、ここは黙って逝かしてくんねぇかなぁ」
そんな俺の懇願にも似た要求に、隣の爺ィが不敵な笑みを返して来やがった。
「そんな事より、ワシの話を聞け」
おい、聞き捨てならねぇぞ。
俺は話は
「つい今しがた、荷駄列の先頭の方で祝福の力が発現したようじゃ」
おいおい。
だから、俺の話はスルーかよっ!
って……え?
なんだと!?
今、何て言った!?
それって、誰かが魔法を使ったって事か?
「だとすると、教団側から司教位の誰かが……」
「いや、その可能性は低いじゃろう。最初から祝福を持つほどの高位能力者が居たのであれば、こんな犠牲を出してまでワシたちを攻め立てる必要は無かったはずじゃろうしな」
と言う事は……。
「そうじゃなぁ。ワシの見立てでは、あの双子の嬢ちゃん達じゃろう。確か碧眼の娘の方は獣人の血を色濃く受け継いでおる様子じゃったし」
「いや、でも爺さん。ここは結界が張られているんだろう? だとすると、いくら
そんな俺の疑問に、かなり呆れた様子の神様。
「何を聞いておった? いまワシが言った通り、碧眼の娘の方は獣人の血を受け継いでおる。獣人は人族よりも多くの魔力をその体内に宿す事が出来るでなぁ。それを使って祝福を発動させたのじゃろう」
そうか。その手があったかっ!
確かベルガモン領事館に入る時も、周囲が結界で覆われていたにもかかわらず、彼女たちの祝福の力で壁をブチ抜いて入る事が出来たんだっけ。
「元々獣人は精霊の力の薄い地域でも暮らして行けるようにと、神がその体を創られたと聞いておる」
何で他人事なんだよ。
アンタも神様の端くれなんだろ?
「誰が端くれじゃ! ワシだってれっきとした神様じゃわい。たまたまこれを決めたのはワシでは無く全能神であったと言うだけの話じゃ。失敬な」
なに勝手に人の心を読んどいて、ツッコんで来てんだよぉ。
そっちの方がよっぽど失敬だろ?
「まぁ、それはそれとしてだ。って事は先頭の荷車にいる
「まぁ、無事かどうかは分からんが、少なくとも今時点では抵抗中と言う事じゃろうな。それからもう一つ良い話を教えてやろう」
「なんだなんだ! まだ良い話があるってぇのか?!」
「あるぞぉ、ある。どうやら助けが来たようじゃ」
「どっ、どうしてそんな事が分かるんだ? それも神様ならではの特殊な能力ってヤツか?」
やるな神様!
なかなかどうして。
魔法は使えなくても、特殊な能力満載じゃねぇかっ!
「いや、単に遠くから馬の
「え? マジか?」
早速肉壁の隙間から少しだけ顔を覗かせ、周囲を伺ってみる。
すると、確かについ先ほどまで整然と矢を射かけていた兵士達が、何やらソワソワと周囲を見渡している様子が垣間見えた。
「爺さん。爺さんって
「普通じゃ、普通。神様だからと言って特別耳が良いとかって事は無いし、目だって最近は老眼で……」
いや、その話はもう良いや。
興味ないから。
「
ここで突然!
急に大きくなった
こっ、この声はっ!
「ココだぁ! ココ、ココッ! 俺はココに居るぞっ!」
俺は周囲を警戒しつつも、その呼び掛けに即応する。
「おぉぉ! こちらにおわしましたかっ、ご無事でなによりっ!」
そう言いながら騎乗のまま荷車の傍へと駆け寄って来たのは、一時間ほど前にベルガモン王国の領事館で分かれたばかりの、あのエルヴァイン将軍であった。
しかも将軍が引き連れて来た騎兵たちは、駆け込んで来た勢いもそのままに、立ち並ぶメルフィの弓兵めがけて疾風のような突撃を敢行。
瞬く間に敵の陣形を崩し始めていた。
「帰参が遅れ、大変申し訳ございませぬ。計略の一環とは言え、私が荷駄隊を引き連れてさえおれば、この様な仕儀にはさせませんでしたものをっ!」
そう悔しがるエルヴァイン。
しかし、あの計略があったからこそ、この荷駄隊を取り囲む兵の人数が分散されたと言えなくも無いはずだ。
欺瞞工作としては意味のある行動だったし、エルヴァイン将軍の責任では決してない。
いやいや、そんな事はもうどうでも良い。
それよりもだ。
「いいえ、私は大丈夫です。それより先頭の荷車に乗せられていた
俺からの矢継ぎ早な質問に対しても、エルヴァイン将軍は余裕の笑みを浮かべたままで。
「ご安心召されよ。先頭の荷車は港の方より呼び寄せた歩兵中隊により既に確保済でございます。
マ、マジかぁ……。
ホント良かったぁ……マジで良かった。
突然訪れた吉報に、思わず体中の力が一気に抜けてしまいそうになる。
「ほれ見ろ、死なんで良かったじゃろ?」
そんな幸せの絶頂とも言えるタイミングに限って、爺ィと呼ばれる種族はしたり顔で横やりを入れたくなるモノらしい。
こんのクソ爺ィめ。
うっとうしーんだよっ! その顔がよぉっ!
などと悪態をつきつつも、俺の顔は嬉しさに綻び、先程の安堵感と相まってじんわりと目頭が熱くなって行くのが分かった。
「ほらほら、泣くな泣くな。四十を過ぎた男が泣くのは見栄えが悪うてイカン」
「うるせぇっ! 余計なお世話だっ」
――プオォォ……プオォォォ
やがて荷駄隊の進行方向側より
「どうやら敵も撤退するようですな」
馬上より満足気に頷くエルヴァイン将軍。
確かにベルガモンの正規軍が駆けつけたとあっては、メルフィ国軍も継戦の理由が見当たらないのだろう。
両国ともに今回の件で、本格的な国家間紛争にまで話を発展させるつもりは無いらしい。
その後、生き残った俺と爺さんは檻の中から助け出されると、爺さんは改めて手枷をはめられてから、荷駄隊の後方へと連れて行かれてしまった。
俺の方はと言えば血で汚れた衣類を全て交換した後で、矢傷についても解毒剤を含め応急処置を施してもらった上で、エルヴァイン将軍の供回りの馬の後ろへと乗せてもらう事となったのだ。
流石におれ一人じゃ、馬になんて乗れねぇからな。
しかも、この怪我の状態じゃあ歩くのも流石にキツイ。
「よし、このまま港へと急ぎましょう。港の方には宰相補のエミルハンも待っておりますので」
「エミルハン殿も……ですか?」
「えぇ、元々エミルハンと私はある程度敵を引き付けて
なるほど。
結果的に、エミルハン宰相補の機転とエルヴァイン将軍の武勇に助けられたと言う訳だな。
こりゃ当分はエミルハン殿と、エルヴァイン将軍には足を向けて寝られねぇな。
俺達が再び港へと移動を開始してから、僅か十分足らず。
「さぁ、港に到着致しましたよ」
時間的には短いが、徒歩で移動するには結構な距離が残されていたようにも思える。
マジで馬に乗せてもらえて正解だったぜ。
俺は馬の背に揺られながら、桟橋へと続く大きな広場の中を通り抜けて行く。
広場のそこかしこには日の出直後にもかかわらず、既に沢山の荷物が
「御覧ください
エルヴァイン将軍が指さすその先。
長い桟橋の横に停泊していたのは、大きな二本のマストを持つ巨大な木造船であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます