第67話 地下駐車場でのプラン変更(後編)
『……タケシ』
あぁ、クロ。
無事だった? さっきはゴメンよ。
クロだけでも助かって欲しくて、思わずリュック投げちゃったよ。
『いや、良い。お前の忠義の心は十分わかっている。あの場合であれば仕方が無かったと言えるだろう。いや、それより問題はコイツだ。どうだ、タケシ。コイツ一回殺しておくか?』
少し離れた場所に転がる僕のリュック。
なんとなくではあるけれど、
そこから
それは
いや……この人も特に悪気があった訳じゃ無さそうだし。
流石に殺しちゃマズいでしょ。
それに一回殺すって……。
クロぉ。一回殺しちゃったら二回目は無いよ。二回目は。
そんな、どうでも良い事を思い浮かべながら、もう一度黒服のおにいさんの顔を眺めてみても、やっぱり天然な笑みを浮かべているだけ。
全く悪気は感じられない。
クロぉ、どうする?
このままここで待ってても
あれからもう三十分は経ってるし。
結局この車は使わなかったって事じゃないかなぁ。
『うぅぅむ。その可能性は高いな。車が一台とは限らない所がこのプランAの問題点ではあったからなぁ』
なんだよその問題点って
って言うか、プランAって名前が付いてたのね。
って事はプランBもあるって事?
『あぁ、もちろんだ。優れた戦略家は流動的な戦局に合わせて、いくつもの副次案を持つものだ。当然、この程度の事は想定の範囲内だ』
マジかー。
駐車場で張ってて、まさか車に
『当然だ。これは遊びでは無い。戦争だ。この程度の命のやり取りは完全に想定されている』
いやいやいや。
クロ、絶対に嘘。それ、ぜったにウソのヤツだわ。
『ん? 何か
いえ。全然。
流石はご主人様、クロ様でございます。
それではお手数ですが、そろそろプランBの事をお話し頂けないでしょうか?
『あぁ、そうだな。時間も無い事だからな。それでは説明してやろう。プランAにおいて、車に
いいや、流石にそれは嘘ウソ。絶対にウソ。
そんな訳あるかいっ!
でも、ここでツッコんだら話がまた長くなるから、とりあえずスルーしておくか。
我慢、がまん。
『プランBでは佐竹の事は一旦保留にして、直接ヤクザの親分に所に向かう事とするっ!』
うぇぇ! マジか。
この娘、突然何を言い出すの?
ヤクザの親分の所に行ってどうすんの?
相手はヤクザだぞ、マジモンの暴力団だぞ!
『簡単な話だ。元々のお前の計画では、お前の友人である飯田は
クロの「ムフー!」って声が聞こえて来そうだな。
だけど、これって良い考えなのか?
なんだかこれも嫌な予感がするけど。
大体、わざわざヤクザの所に行かなくったってさぁ、直接警察に行って事情を説明すればそれで良いんじゃないの?
『いやいや、タケシ。それは甘いぞ。ヤクザの親分に説明せぬまま佐竹が警察から開放されてみろ、たちどころに捕らえられてしまうかもしれん。組織犯罪者とは
やっぱり、クロの「ムフー!」って声が聞こえて来そうだな。
まぁ、確かにクロの言う通りなのかもしれない。
佐竹が警察からいつ釈放されるかもわからないし。
僕より先に、ヤクザのヤツらに始末されてしまっては元も子もない。
分かったよ、クロ。
で? どうやってそのヤクザの組長に会うのさ。
『ん? 組長と言うのは親分の事か? 組長と言うのは、なかなか会えないものなのか?』
おいおいおい。
今それ言う? ねぇ、それ今言う事ぉ?
もしかして、会える会えないを論じる前に、どうやって組事務所に行けば良いかすら考えて無いんじゃないの!?
『ん? まぁ、そうだな。うん。そう言う
うぉぉ! 丸投げ。
クロさんったら、完全に丸投げしたわっ!
んだよぉ、クロぉ。プランがあるって言う割には、ザルじゃんよぉ!
『なんだタケシ。主人の言う事が聞けぬとでも言うのか?』
おいおいおい。今度は
逆ギレした上に、奴隷制度持ち出して来やがったよっ!
チェッ! 仕方が無いなぁ。
ホントにもぉ、どうしよっかなぁ。
もしかしたら、この若いにーちゃんだったら知ってるかなぁ?
でもなぁ、バイトっぽいから、聞いてもわかんないかもなぁ。
『タケシ、さすがにこの男では役に立つまい。何処からどう見ても使いっ走りの下っ端だ。こんなヤツに聞くより、一度
うん、まぁそうだけど。
まぁ、ダメ元でこのにーちゃんに聞いてみるか。
「あっ、あのぉ……すみません」
「あぁ、はい。どうしました、やっぱり自転車のカギ、探します?」
気付けば黒服のおにいさんったら、僕の顔を心配そうにのぞき込んで来てる。
あれ? 僕、何か気になる様な事したかな?
確かに黒服のおにいさんを置き去りにして、結構クロと話し込んではいたけれど。
クロとの念話は通常会話とは比べ物にならないぐらいに早いから、黒服のおにいさんが気になるほどの時間では無かったはずだし。
「あぁ、えぇっと。カギの事はもう大丈夫なんですが、実は僕、北条くんと知り合いでして、あのぉ、北条君がさっき出かけたって聞いたものですから、あのぉ……何処に行ったのかなぁ……って」
「あぁ、店長のお知り合いでしたかぁ。これは失礼致しました。えぇ、確かに店長は先ほど
「本社……ですか?」
本社って何だ?
あぁ、なるほど。
って事は、その本社ってヤツが、暴力団組事務所って事で間違い無いだろう。
「えぇ、本社です。
なんだか鼻高々!
めっちゃ得意そうに説明してくれる黒服のにーちゃん。
おいおいおい。マジかよ。
しっかし、この黒服のにーちゃん、さっきから情報ダダ漏れだな。
今時のコンプライアンスって言葉、絶対に知らないパターンのヤツだなっ!
「そっ、そうですかぁ。へぇぇ。……ちなみに、ちなみになんですけどぉ、その
僕はおにいさんの顔色をうかがいつつも、少々
すると。
「あぁ、遠いも遠くないも無いですよ。何しろこのビルの十二階ですからね。ほら、向こう側に二つあるエレベータの奥側に乗れば、一気に上層階まで行けますよ」
ま・じ・かー。
「ほっ、ホント。ありがとうございます。色々と教えて頂いて、マジ助かりました。それじゃ、僕、急いでますんで。えぇ、ホント。ありがとうございました!」
「あぁ、いえいえ、とんでもない。それより、本当に自転車のカギ、大丈夫ですか?」
「あぁ、えぇ、全然大丈夫です。ホント全然。全然大丈夫ですからぁ! ホント、あっ、ありがとうございましたぁぁ!」
僕は深々としたお辞儀もそこそこに。
クロの入ったリュックを急いで拾い上げると、半ば逃げる様な格好でその場を後にしたのさ。
って言うか、クロぉ!
やっぱ、このおにいちゃんに聞いてみて正解だったよね。
めっちゃ正解だったよねぇ!
『うっ! まっ、まぁな。それもこれも、私のプランBの計画の一部ではあったのだがなっ!』
えぇ、ウソぉ!
だってクロったらさっき、あの黒服のおにいちゃんに聞くの反対してたじゃん!
『いっ、いや、あれはだな。あのぐらい反対しておかないと、お前がなかなかあの男に話し掛けないのではないかと心配してだなぁ。わざとお前が話しかけやすい様にと言うか、お前を誘導する意味合いも込めてぇ……まっ、まぁそう言った
何が
まぁ、
よし、早速クロの言う通り、ヤクザの本部へ乗り込んでみますかっ!
『あっ、あぁそうだな。うん。そうしよう。まぁ、私が付いていれば大丈夫だ。私のプランに従ってさえいればなっ!』
こうして僕たち
◆◇◆◇◆◇
――プルルルル……プルルルル……ガチャ
「あぁ、お疲れさん。
「……」
「えぇぇ。俺ヤったよぉ? 一応車で
「……」
「まぁ、最後までチャカは出さなかったから、持っては無さそうだったけど、でも
「……」
「やだよぉ、そんな鉄砲玉と心中するなんざ、俺のガラじゃねぇよ。それに、北条追ってたみたいだから半グレの仲間かもなぁ」
「……」
「まぁ、そう言うこった。とりあえず若いのに
「……あぁ……あぁ。それで構わん。カシラとオヤジには俺から言っとくから。とりあえず俺が行くまで大人しくさせとけや。それじゃぁな」
――ピッ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます