第65話 佐竹奪還計画素案
「おい
案内されたその部屋は、いつものVIPルーム。
恐らくココは北条君のお気に入りの部屋って事なんだろうな。
と言うか、完全に私室として使っていると言っても過言では無さそうだけど。
「主役かぁ? 主役気取りなのかぁ?」
「……」
僕は終始無言のまま部屋の中を見渡してみる。
いつもは壁際に黒服連中が待機しているはずなんだけど。……今日はいない様だな。
正面右側のソファーに座っているのは北条君。
その向かい側に
そして北条君の後ろに立っているのは
部屋の中にいるのはこの三人だけ。
主要メンバー以外は全員席を外していると言う訳か。
「
僕が入り口付近で立ち尽くしているのを見て、戸惑っているとでも思ったのだろうか。
「主役が来んのが遅ぇから、もう話しは終わっちまったよ。なぁ、
「いいえ、話は全然終わってませんよ、北条君。繰り返しますけど、今回の件で
少し意外だったけど、
「だぁ、かぁ、らぁ! 何度も言ってるだろぉ、俺は何も知らねぇって。コイツぁ、あくまでも個人の恨みつらみの話だ。チームは全然関係ねぇ。単にお前の所から移籍して来た佐竹と、ほれ、お前の横に座ってる
余裕の表情を見せる北条君。
「はぁ……。本当に話は平行線ですね。分かりました。今回の件はあくまでも個人の問題であると言われるのであれば、佐竹が所属するチームのリーダである北条君にお願いです。
とここで北条君は椅子に座ったままの格好で、真塚さんの事を下から見上げる様な態度を取ってみせる。
目が据わってるし。これ、完全に脅しの態勢だ。
「真塚ぁ、ウチぁよぉ。お前の所と違ってトップの俺が寛大な性格なもんでよぉ。兵隊個人が何処で何をしようが、どう暴れようが。俺ぁ全く関与もしねぇし、口を挟む気もねぇんだよっ!」
――ガシャーン!!
テーブルの上に置いてあったクリスタル製のグラスが真塚さんの頭上を飛び越え、背後の壁で盛大に砕け散った。
「それが分かったら、とっとと家に帰ってかーちゃんのおっぱいでも
だけど
その視線は北条君を睨みつけたまま、微動だにしていない。
「……そうですか、分かりました。交渉決裂ですね。仕方がありません。
そう言うなり、携帯電話を取り出す
「
「フン……その
こうなったら
着信履歴から目当ての人を探そうと、スマホの画面を覗き込んだその時。
「……!」
そのまま戸口に向かい、直立不動の姿勢を取る
ん? どうした?
誰か来たのか?
僕は
すると、シルクで編み上げられた薄いレースのカーテンが無造作に撥ね退けられ、 その後ろから現われたのは、ダークグレーのスーツに身を包む大柄な男たちの集団。
なっ、何だコイツら!?
「おい、おい、おいぃぃ。エラく威勢が良いなぁ、北条ぉ。お前ぇ誰の相手をするんだってぇ?」
そんな屈強な男たちの背後から、少しくたびれた感のあるハスキーな声が聞こえて来る。
「チッ!
北条君が怒りの矛先を再び
ただ、
どうやら
やがて、男たちの間を割るようにして現れたのは、光沢のあるスーツに身を包む中年の男性。
年の頃は四十台半ばと言う所か。
オールバックの髪型に、細面で神経質そうな眼差し。
更にその男の左頬には明らかに
「お疲れ様です。カシラ」
先ほどまで総革張りのソファーにふんぞり返っていたはずの北条君。
それが今は姿勢正しく、最敬礼の状態でお辞儀をしている。
「「お疲れ様です! お疲れ様ですカシラ!」」
振り返れば、
この部屋で
「おう、何か打ち合わせかぁ? 邪魔して悪かったな。ちぃっと伝えておきたい事があって寄らせてもらったんだがよぉ。そしたら、北条の元気な声が聞こえてきたもんだから、勝手に上がらせてもらったわ」
「……」
終始お辞儀をしたまま、無言の北条君。
「北条ぉ、跳ね上がんものいい加減にしとけよぉ。お前たち二人は俺の子飼いだぁ。兄弟は仲良くしなくちゃいけねぇやなぁ。そうだろぉ、北条ぉ……」
「……」
そう話しかけられても、北条君は依然無言のまま、動く気配すら見せ無い。
「ところで北条ぉ。お前の所に佐竹ってヤツが居るだろぉ?」
「……!」
突然の指名。
北条君の
「アイツぁイカンなぁ。少々お
オールバックの男は未だお辞儀をしたまま固まっている北条君の横を通り過ぎると、彼の座っていたソファーへと
それって……飯田の事……だよな。
「ちょっとした情報筋から連絡があってなぁ。どうやら罪状が
間違い無い、飯田の件だ。
病院を出る時に飯田のおばさんの所に来ていた、目つきの鋭い人たち。
あれって、私服警官だったに違いない。
「北条ぉ。
「組事務所……」
「お、ようやく喋ったじゃねぇか? 俺ぁ、てっきりお前が日本語忘れちまったのかと思って心配したぞぉ。あははは。って事で、今日中に佐竹をウチの事務所に連れて来い。今日中っつても真夜中じゃねぇぞ。オヤジが女ん家に行く前に
「一時間……ですか?」
「あぁ、一時間っつったら、キッカリ一時間だ。それからもう一つ。今回の件、お前にも
「……」
「まぁ、心配するな。取り調べには知らぬ存ぜぬ、完全黙秘すりゃあそれで良い。弁護士は俺の所で手配してやるからよぉ」
「あぁ、そうだ。
とここで、
「
「……はっ」
「あっ、あのぉ。立花さん!」
「お? なんだ、
「え? あぁ、いや。……そのぉ」
「おぉ、そうか。まぁな。お前でも良かったんだが、まだ少し早いわな。それに、北条はまだ使い道もある。お前はまだ高校生だろぉ? もう少し待て。どこの世界でも序列っちゅーもんは大切にしねぇとなぁ。あぁ、そう言えば、今月の売上なかなか良かったぞ。この調子で来月も頼むわ。それじゃあな。あはははは……」
そんな乾いた笑い声だけを残し。
オールバック男を筆頭に部屋を出て行く男たちの集団。
そして、最後の一人がドアの外へと消えたのを確認した後、やおら北条君が口を開いたのさ。
「
「いいえ、存じ上げておりません」
ようやく一息付いた感じの
ただ、そんな様子も束の間。
まるで何事も無かったかの様に、再びグラスの破片を拾い始めている。
「……だよな。ふぅ……」
――ボフッ
北条君もよほど緊張していたのだろう。
まるで崩れ落ちるかの様に、ソファーへと倒れ込んでしまったではないか。
「ねっ、ねぇ
「ん? あぁ、何だい?」
いつも温厚な
なのに、少しイライラしている様に思えるのは気のせいか?
「今の人って……?」
「あぁ、あれが僕たちのケツ持ちをしてくれている
すでに
何だか雰囲気は既に諦めモードだ。
そのまま
「まさか僕が電話をする前に立花さんがお越しになるとは思ってもみなかったけど、まぁ結果は同じ。どうせ佐竹の居所は
「ちょちょちょ、ちょっと真塚さん。佐竹の身柄は僕の方に引き渡してくれるんじゃあ?」
「あぁ、
「えぇぇ。マジですか」
「マジもマジ。おおマジさ。この
「おい、
「はい」
北条君に言われた通り。
車崎さんは胸ポケットから携帯電話を取り出すと、慣れた手つきで電話をかけ始めたんだ。
――プルルルル、プルルルル。……ガチャ
「北条さん、繋がりました」
車崎さんが自分の携帯を北条君に差し出してくる。
「おぉ。……おぉ佐竹か。よく聞け。いま立花さんが来られて、お前を組事務所の方へ出頭させろって言われたわ。……あぁ、そうだ。今すぐにだ。一時間以内に来いとよ」
電話口の佐竹の声は聞こえない。
でも何やら切々と訴えかけている様だが。
「あぁ、お前の言いたい事はわかる。だがなぁ、立花さんは一度言い出したら絶対に後には引かねぇ。……あぁ、そうだ。絶対にだ」
「……」
「と言う事で、お前には腹くくってもらうしかねェな。悪ィがお前、今からすぐに最寄りの警察署に駆け込め。細かい事は俺が渡したバッグの中に書いてある。……あぁ? 学校? そんなもん諦めろ。どうせ警察に出頭した時点で年少確定さ。運良く執行猶予が付いたとしても学校なんざ退学よ。それから、俺ぁこれからオヤジん所に行って来るわ。最後まで守ってやれなくて悪ぃな。じゃあな。切るぞ。おい、間違っても組事務所には行くなよ。確実に
――ピッ!
「……」
驚いた表情で北条君の事を見つめる
「……北条さん」
「いや、良いんだよ
「……」
そんな北条君の事をじっと見つめる
「承知いたしました。それでは佐竹君の方は誰かに警察まで送らせるよう段取りましょう」
「悪ぃな、
「はい、北条さんもお気を付けて」
「あぁ、それじゃあ、行って来るよ」
さっきまでの脱力具合からは想像も出来ない程軽い足取りで、部屋を
「あぁ~あ。ホント、北条君って
隣にいる
「でも
突然何を思いついたのか?
「まぁ、とりあえず休戦って事で良いですよね。私は
うん? どうなるんだ? これ。
とりあえず、
『タケシ!』
あぁ、クロ。これって、この後どうすれば……。
『いや、タケシ。どうするもこうするも無いだろう。このままでは佐竹の身柄は警察に保護されてしまうと言う事だ。それではお前の復讐が成し遂げられん。ヤルなら今、佐竹が警察に逃げ込む前に
マジか!
確かにクロの言う通りだ。
組事務所に連れて行かれるよりも、警察に捕まる方が確実にハードルが高い。
その後、僕とクロは思念を駆使して、
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