第22話 合理的拝金主義者
「僕、高尾山って初めてなんだよねぇ!」
東京から八王子を抜けて甲府方面へと続く国道二十号線。
都内から西へ向かう車の中では、僕のウキウキが止まらない。
旅行なんて、久しぶりだよなぁ。
中学の時の修学旅行以来かな。
ウチは父さんが結構仕事で忙しいから、旅行なんて全然連れて行ってくんないし。
まぁ、去年は僕が受験で来年は弟が高校受験。
タイミングが悪かったって言うのもあるけどさ。
「って言うかさ、ちょっとワクワクしない? ねぇ、どう? どう?」
『オマエちょっと
僕の腕に抱かれるクロは少々不満顔。
もしかしたら車が苦手なのかも。
まぁクロの事なんてどうでも良いや。
そんな事より、今回の小旅行は一味違うぞ。
なにしろ僕のとなりには……。
「ちょっと! もう少し静かにしなさいよ。良い年して恥ずかしいっ!」
桜色の頬を膨らませ、少し
うわぁ。
怒った顔も、かぁぁぁわいぃぃぃ!
って言うか、
何しろ最近のクロったら、僕との思念での会話が慣れて来たせいか、全然如月さんに変身してくれないし。
まぁ、そうは言っても、毎日お風呂で会ってるんだもんねぇ。
毎日の日課ってヤツかな。
そんでもって、体の隅々まで。
もう本当に、ビラビラの裏側までしっかりチェック済みさ。
そんな、憧れの如月さんと一緒に旅行って。
これをワクワクせずして、一体いつムラムラするんだっちゅー話だよ。
「はーい。ごめんなさーい」
そんな
うぅぅん。それはそれで良きっ!
ゾクゾクしちゃう。
こう言う『ツン』な一面がご褒美なんだよな。
なにしろ『デレ』の方は自分一人で間に合ってますからね。
だって毎日風呂場で『デレ』ってるんで。
それより、『ツン』の方ってなかなか一人二役だと難しいんだよねぇ。
やっぱ本物の迫力には
『何バカな事を言ってるんだ。
腕の中のクロがそう思念で語り掛けて来る。
いやいやいや、ご主人様。ご安心下さいな。
思い出してみて下さいよ。
僕は最初助手席に座ってた訳ですよ。
そんな僕に対して『後ろの席に座りなさい!』って言ったのは、紛れも無く彼女なんですからね。
そうさ。彼女自身が自分の隣に座る様にって言って来たんですからね。
いやぁ、大好物のツンデレ女子、ここに極まれりですな。
クロのツンデレ具合も嫌いじゃないけど、こういう純和風ツンデレは是非一家に一台欲しいアイテムな訳で……。
『はぁぁ……タケシ。オマエが前の席に座ると、直ぐに
そんなのは口実ですよ。口実。
僕が
もぉ、
『はいはい。好きにしろっ』
あはは。
クロったら僕の膝の上で丸まっちゃったよ。
「ねぇ
ちょっぴり大人の色香漂うこの声。
運転中の
バックミラーには先輩の少し困った顔が映ってる。
「えぇ、大丈夫だと思います。いつもこんな感じですから。
「あぁそう……。それなら良いんだけど」
ちょっと言い訳が苦しかったかな。
先輩には今度また時間をとって、しっかり説明しておかないとだな。
そんな
助手席に座る無表情で
まばたきぐらいは……あぁ、してるみたいだな。
生きてる、生きてる。
もちろん、
クロの話によると、Bootで作りだした『
しかも長い時間自立起動させておけば、そのウチ自我も芽生えて来るとの事だ。
実際、クロの使うグレーハウンド形態の『
忠実な
これは聞き捨てならんよね。
そうとなれば、
え? 何故かって?
いやいやいや。
いーや、いやいやいや。
それを僕に聞く? 聞く必要がある?
もしこれが上手く行けばだよ?
超高品質な
マグロじゃ無いんだよ。
動くんだよ? 話すんだよ? しかも……しかも……。
「ハァ、ハァ、……ハァ」
「
またもや運転席から
「あっ、あぁ、大丈夫です。全然大丈夫!」
あははは。ヤバイヤバイ。あらぬ妄想が止まらない。
このリアル3D美少女育成ゲームは、なんとしてもコンプリートさせねばなるまい。
と言う事で、結構流行ったポケ〇ンGoよろしく、僕はBootした
最近じゃ、『はい』『いいえ』ぐらいは言える様になって来たけど、まだまだ自然な感情を面に出すには至ってないんだよな。
まぁ、そんな事より、僕の隣に座る
「
僕がそう声を掛けると、彼女ったらかなり嫌そうな顔をしながらも、ようやく口をきいてくれたんだ。
「当たり前でしょ? ご主人様が『
下僕の私たちって……。
まぁ、それは良いとして。
「まぁ、そうだね」
「まぁそうだね……じゃないわよ。隷従誓約を交わした私たちはご主人様と
おぉ! 確かにそんな話もあったよな。
って事はクロを守らないと、自分の命も危ういって事か!?
「何を今さら驚いた顔してるのよ。分かったのなら、もうちょっとシャキッとしなさい、シャキッと」
確かに、この前も訳の分からない宗教集団に襲われたばかりだし。
またいつ襲われるとも限らないからなぁ。
「って言うかさぁ、
そんな僕の素直な質問に、なぜか
「
「あは……はは。すみません」
なんだよぉ。クロは僕にはなにも教えてくれないくせに、
「あなた、毎日風呂場で私の『
はうはうはう!
バレてる。どうしてバレてるの?
はぁぁぁあ。クロか。クロなんだな。
なんだよぉ。クロは僕にはなにも教えてくれないくせに、
って言うか、それは言わない約束でしょっ!
「いや……はは。本当にごめんなさい」
「なによっ! 否定しないのねっ! って事は本当に私の体を
うきー!
カマかけられたんだっ!
これだから
と言いつつ、僕の目の前に差し出された彼女の右手。
「へ?」
更にもう一度、催促する様に突き出されて来る。
「あのぉ、これって……」
どう言う事だ?
握手か? 握手なのか?
和解の為の握手って事なのか?
僕はそっと彼女の手を握り返そうとしたんだけど……。
――パシッ!
あえなく僕の右手が張り飛ばされる。
はうはうはう?
何コレ?
僕、どうしたら良いの?
「お金よ……」
「金?……」
「そうよ。私の体見たんでしょ? だったらお金払いなさいよ」
え? マジ。
そう言う事?
「いっ、いかほど?」
「そうね。今回は一万円で良いわ。それで許してあげる」
うっ……高いのか? 安いのか?
良く分からんが……。
「あっ、ありがとうございます」
なんで、僕がお礼言わなきゃならないんだ?
まぁ、でも一万円で片が付くなら安いもんか。
僕は財布から一万円を取り出すと彼女の手に。
「……」
しかし彼女の手はもう一度僕の目の前に。
「あっ、あのぉ……これは?」
「何回見たの?」
「へ?」
「だから、何回見たのかって聞いてるの」
いやぁ。
何回って言われても、回数って難しいよね。
お風呂一回を見た回数一回としてカウントするのか?
それとも、チラ見を一回としてカウントするのか?
いやいやいや。それだと尋常じゃ無い回数になるぞ?
しかも回数聞いて来るって事は……。
一回……一万円?
マジか? マジなのか?
どんだけボッタくりだよ。一回一万円って。
詐欺だよ詐欺。新手のエロエロ詐欺プレイだよっ!
「さっ、三回……ぐらい?」
落としどころが見えない。とりあえず三回って事で。
「ウソ……でしょ?」
「……はい」
はうはうはう!
めっちゃ目が怖い。
その辺のヤクザ
「……ごっ……五回?」
もぉぉ。どうして良いかわかんないよ。
だって軽く百回は超えてるよ。場合によっちゃ千回は行ってるかもしれないよっ!
「十万……」
「じゅう……まん?」
「えぇ、今日までの分。まとめて十万で良いわ。」
おいおいおい。値段を下げて来たよぉ。
知ってるよぉ。これって『ドアインザフェイス』ってヤツでしょ? 最初に法外な要求ぶつけてきて、最後に受け入れやすい要求を押し込んでくるってヤツ!
「……はい。ありがとうございます」
受け入れちゃったよぉ。
しかも、何でまた僕がお礼言わなきゃいけないんだよぉ。
だって自分の自由になる美女の裸がすぐそこにあるんだぞぉ!
使わないなんて選択肢がある訳無いだろう?
汚ぇよ。この商売汚すぎるよぉ!
「明日からは一回一万円だから」
うきぃぃ!
だってそうだよね。やっぱそうなるよね。
当面
決して使ってはいけない『
「はい。すんませんした。あのぉ……十万は後日でも……」
「えぇ、構わないわ。後で私の銀行口座の番号を教えるから。来週中に振り込んでおいてね。もし振込が遅れたら
極道や……。この娘、経済ヤクザ一直線やん。
しかも何?
十日で一割の利子が付くって事だよね。
サラ金通り越して、闇金やん。
どんだけ金の亡者なんだよぉ!
「さて、今日から
そう言いながら、笑顔の彼女が差し出す右手。
「え? これって、また費用が発生するとか?」
「いやぁねぇ。私は明朗会計なの。契約以外の費用は頂かない主義なのよ。まぁ、あえて言えば大口顧客へのサービスって所ね。普通に外販する時は、握手一回千円が相場だけど。まぁ、有名アイドルの握手券がオクでだいたい千円から二千円前後だから、十分良心的な価格設定よ」
ガチな商売じゃん。本気でやってる感じじゃん。
「でも……何でこんな事を……?」
「あぁぁ。良く聞かれるのよねぇ。どうしてこんな事してるの? ってね。どうする? 本当の事が聞きたい? それともビジネストークの方が良い?
って言いながら、
はうはうはう!
どっちも聞きたい。どっちも聞いてみたいがっ!
「それじゃあ……本音の方でオネシャス!」
「貧乏だからよ」
うぉぉ! 身も蓋も無い。しかも即答!
非常に良くあるパターンだ。いやしかし、ここまで高額の請求をされた今となっては、貧乏と言う話自体が素直に呑み込めないっ。
「別に同情して欲しい訳じゃ無いの。ウチはお父さんが早くに他界しちゃって、その後母一人、娘一人の母子家庭。まぁ、それ自体は良くある話なんだけど。でもその後が悪かったわ。お母さんったら何だか良く分からない新興宗教に
「あぁ。そうなんだぁ……」
重い……話が重すぎる。
あんまり重すぎて、僕の周辺だけ地軸が歪んで見える。
「それで、年金暮らしの祖母に迷惑掛ける訳にも行かないしね。生活費に学費も含めて結構物入りなのよ。って事で時間を掛けずにお金になるアルバイトをしてるって訳」
あれ? って事はもしかして?
「
そうだ。そうなんだよ。
今日
「えぇ、知ってるわよ」
今回も即答っ!
全然秘密無いじゃん。全く秘密の無い娘じゃん。
意外と良い娘じゃん。
「ぜっ、全然隠し事無し……なんだね」
「私の全部を見られてる
おぉぉ。めっちゃサバサバ。
意外と姉御肌やん。
「彼とは一体どんな関係で……って言うか、彼の商売って?」
「そう。彼の商売はJKを使ったレンタル彼女サービス。私もそこに所属している一人って訳」
レンタル彼女サービスぅ?
なんだそれ? 新手のデリヘルか?
「それって、どういう
「
マジか。
高いのか? 安いのか?
良く分からん。
「それって、相手の人の自宅に行ったり?」
「ううん。個室とか自宅とかは全部NG。オープンな場所でデートするだけだよ」
マジか。マジなのか?
だとすると、めっちゃ高いな。
そんなもん、金出すヤツなんて本当に居るのか?
いやいやいや、流石にそれは無いだろう?
「マジで? そんなん商売になるの?」
「なるよぉ。私なんて予約が二ケ月先まで埋まってるもん」
クソがっ!
日本男子は一体どうしちまったって言うんだ?
JKとデートするだけで、一時間に一万二千円も払うって言うのか?
三時間だと三万六千円だぞ?
しかも二カ月待ちぃ?
日本男子、バカなの? バカなんじゃないの?
って言うか、みんなそんなにお金持ってるんだ。
逆にそっちの方がビックリだわ。
「それって……合法な……ヤツ?」
「そうね。合法っちゃ合法よね。別に春を売ってる訳じゃ無いし。ただまぁ、中には途中で『売り』に走っちゃう娘も居るみたいだけどねぇ。それに、商売って意味では税金も払って無いだろうし。警察に見つかれば
「なるほどなぁ。それじゃあ、例の暴行事件も、これ絡みって事?」
「そうそう。そうなのよ。最近私も読者モデルの仕事が忙しくなって来てね。まぁ、あんまりお金にはならないんだけど。って事で、このアルバイトも少し減らしてもらえないかな? って言ったら佐竹君が突然怒り出しちゃって」
あぁ、アイツかぁ。
確かに、脳筋っぽいからな。
「元々佐竹君と私って仲が悪くてさぁ。だって佐竹君に脅されて何人かが『売り』の商売してるの知ってたしね。それであの時もちょっと口論になっちゃって」
これだぁ!
ようやく繋がったっ!
これだったんだ。
佐竹が非合法な事を始めちゃったもんだから、
それにしても
ちょっと口は悪いけど、友達想いの優しい娘じゃん。
美人で頭も良くて、スタイル抜群。
ツンデレ好きの僕としては、超ドストライク。
はうはうはう!
「あの時だって、ブルセラは続けるからって言ってたのに全然話も聞かないし……」
「へ?」
「へ? って何?」
「いや、ブルセラって?」
「え? ブルセラも知らないの? JKの制服とか下着を売る商売の事」
「いやいや、おぼろげながら知ってはいるけど、
「えぇ、やってるわよ。だって私が一回袖を通した制服や、一回穿いたショーツが十倍ぐらいの値段で売れるのよぉ。こんなボロい商売無いじゃない」
「いやいやいや。ほら……なんて言うの? 制服ならまだしも、こう……肌に密着した衣類とかの場合はさぁ……」
「あぁ、ショーツね。それが何か? そっちの方が高いわよ」
「いやいやいや。値段じゃなくてさ。何て言うの? 気持ち……悪くない?」
「どうして?」
「どうしてって……誰か分かんない人が、
「『くんかくんか』してるかどうかは知らないけど、またそのショーツを私が穿く訳じゃないしね。その後どう使おうと私の知った事じゃ無いわ」
うぅぅわぁぁぁ!
めっちゃ合理主義。
めちゃめちゃ理系な考え方だわ。
そんな事言ったら理系の人にどえらく叱られそうだけど。
でも文系の僕からすると、ちょっと……ちょっとどうなの? って感じがするぅ。
まぁ、理系文系関係無く、本人が気にしないならそれはそれで良いけど。
って言うか
そんな、どうにも消化しきれ無い思いを胸に。
僕たちを乗せた車は一路高尾山へと向かって行ったんだ。
……そう言えば、宝具の話ってどうなったんだ?
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