第5話 囚われのティム
エンジン音を響かせながらしばらくルクク族の村の上空を飛ふび回っていたドイツ軍機は、やがて高度を下げて一箇所を中心としてぐるぐる回りはじめた。距離が離れすぎているので何を言っているのかは分からないのだが、どうも仲間うちで無線で連絡を取り合っているように見えた。
やがて飛行機の数がしだいに増えてきた。一機、二機、三機……ついには十機ほどに膨れ上がった。先住民としては何も対抗する手段がない。彼らには空を飛べないのだから。
そしてドイツ人の姿がみるみるうちに増えはじめた。パラシュートだ。一人が真っ黒なパラシュートで降下すると、数秒後に次の男が後に続く。次から次へとパラシュートが後に続く。一機につき二つのパラシュートを積んでいるらしい。
「まずいぞ!」
ティムは叫んだ。
「このままだと包囲されてしまう!」
そう、飛行機から降ってくる兵士の数は、すでにルクク族の先住民の十倍以上に達している。しかもその全員がマシンガンで武装しているようだ。彼らがばりばりとマシンガンで殺戮を開始したら、どれだけの血が流されるだろうか。対してルクク族は子供と老人ばかり。勝敗はすでに決まっていると言っていい。
「みんな逃げろ!」
人々はそれぞれの方角に焦って逃げ回りはじめた。ティムもダイアナを連れて逃げようとしたが、ドイツ兵が大勢取り囲んでしまったので。急いで彼らの囲みを破る方法を考えたものの、すぐに見抜かれてしまい、何十もの包囲網に囲まれてしまったのだ。
しかし、ドイツ兵の側からはまだ一発のマシンガンも撃たれていなかった。それどころか威嚇射撃すら一発もない。逃げ惑っていた先住民には射撃もされていない。ダイアナもさすがにおかしいなと気づきはじめた。なぜ連中には撃ってこないのか?
しかし、ドイツ兵たちはしっかり銃口を構えており、まったく目標から目をそらそうとしていなかった。彼らの全員が一人の白人少年に狙いを定めていた。
そう、ティムに対してだ。
無論、ティムもナイフ一丁を手に完全武装のドイツ兵に立ち向かうほど無謀ではない。ざっと見てナイフをくるくるっと回すと、両手を高く掲げて、抵抗の意思がないことを示した。
「その女の子には傷つけないでくれ」彼はダイアナをかばって言った。「ドイツ人じゃないけど、敵でもないから」
「ああ、分かっている、ダイアナ・ハントだろ?」一行の指揮官らしい軍人が気取ったポーズで挨拶した。「私はエルンスト・ジークフリート中佐。この部隊を指揮している」
「へえ。部隊の指揮官?」ダイアナは興味深げに言った。「それに私の名前、知ってるみたいだし」
「そりゃあまあ知ってるさ。あの撃墜王カーティス・ハントの娘だなんてな。戦争中、あんたのお父さんの悪名はドイツ軍にも轟いてたよ。ああ、心配する必要はない。あんたのお父さんの機体には傷一つつけちゃいない」
「じゃあ、父さんは生きてるのね!」
「そうさ」
ジークフリート中佐はにやりと笑った。
「そう、親子の体面と行こうかな。カーティス・ハントも娘さんに会いたがっていたよ」
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