※8.消防署の始まり※
11/12
井上は11/10〜11/11の勤務を終えて11/12に出勤をした。
自宅から職場までは、バイクで約30分。
交代時間や着替えをする時間を考慮して自宅を出る時間は大体7時過ぎ。
井上は通勤用のバイクで職場まできた。
消防署が入る建物は市役所、区役所が一体となる市の中核となる建物であった。
庁舎は市の中心部の縦断する国道に面しており、駅も近くまた、目の前にバス停もがあるような立地であった。
井上はその国道を利用する。
庁舎の少し手前の路地に入り、裏側にある消防職員専用の駐車場にバイクを停める。
そこにはかなりの種類と数のバイクが停まっていた。
消防職員はバイク通勤する人がかなりの数いた。
聞いた話、職業柄災害時でも通勤する必要がありバイクが適任なんだとか。
それに、バイクや車を趣味にする人も多い。
趣味と実益を兼ね備えてるというものだ。
1班と2班。
両班の職員の乗るバイクがある。
そこはさながらバイク屋のショールームのようであった。
様々な種類のバイクが所狭しと並んでいた。
そのうち、バイクを見ると誰が勤務しているか、これから勤務するかなんとなくわかってくるものである。
井上はそんな並んでいるバイクを横目に自分の乗ってきたスクーターのリアボックスから荷物の入った少し小さめのビジバックを取り出し職場に向かった。
荷物は限りなく最小限だった。
財布と携帯電話。あと、常備薬やら小物等々。
衣服であったりは職場で洗濯をする。
仕事柄様々な人と接することが多く、感染源となるウイルスや細菌を、自宅に持ち帰る危険性も孕んでいた。
そのような可能性を少しでも減らす必要があるので家に持ち帰るものは必要最小限であった。
井上は庁舎に向かった。
駐車場を出て右手に庁舎を見ながら、車庫前まで向かう。
庁舎は大きい。
建物としては消防署は2階なのだか、1階には車両の入る車庫がある。
当然、地上高も高くなる。
どれくらいだろ?5mぐらいの高さがあるのではないだろか。
通常の1階が約3mと考えるとかなり高く大きい。
そんな、車庫前まで来ると通常停まっているはずの定位置に救急車がいなかった。
出場中だろう。忙しい。というか、暇な日がない。
井上は救急車の後ろにある引き戸を開けて中に入って行った。
中に入るとすぐ左手に洗面所とトイレがある。そこに洗濯機と乾燥機も設置されており、専ら救急隊専用となっていた。
そのスペースを過ぎると通路は左に折れる。
その左奥に部屋があり、そこが救急隊の部屋になっていた。
誰かもう来てるかな?
井上は仮眠室兼更衣室の2回目の引き戸を開けて中に入った。
「おはようございます。」
抑揚のない声で挨拶をした。
「••••。」
返事はない。まだ、誰も来ていないのだろう。時間は7時30分。
少し早い。
引き戸を開けて入ったすぐ左手前にある個室?が井上の定位置であった。
個室といっても大部屋に肩ぐらいの高さのパーティションで区切られたスペースにベットが置かれているだけの簡素なものであった。
プライバシーなど無いに等しい。
立てばとなりが除ける。そんな環境。そこで夜の仮眠を取ったり休憩したりする。
疲れは取れるはずもない。
井上は荷物をベットの上に置きベットに腰掛けた。
ベットは一畳ぐらいの広さだろうか?
高さは60cmほど。
その高さを活かしてベット下には荷物や着替えが入れられる。
引き出しは3つある。
お互いの班で全てを共有しており、引き出しも当然共有物となる。
井上はそこからシャツを一枚取り出して、着替え始めた。
昨日、使った洗い物はまとめて次の日の仕事、今日洗うようにしていた。
消防官は下着と靴下以外の活動服に関しては全て支給されている。貸与品。
貸与となっているがほぼ消耗品に近い。
着替えが終わる頃、引き戸を開けて出勤してくるメンバーがいた。
「おはようございます。」
少し明るめの声で挨拶してきた。
「おはようございます。」
井上は着替えながら相変わらず抑揚のない挨拶をした。
「相変わらず元気ないねー?昨日はどうだったのよー?えー?」
表情が見えず声だけのはずなのに、笑っている顔が容易に想像がつく。
「城田さん。相変わらず忙しかったですよ。今日も忙しいんですかねぇ。」
身長はどれくらいだろうか。
170cm前後。体重は少し多めの90kgほどか。
少し肥え体型で髪型はボウズ。
少し色の入ったメガネがトレードマークの彼は、城田 隆利 (シロタ タカトシ。)
階級は消防司令補。42歳主査。
救急救命士資格を有する副隊長の係員。
街中で初めて会うような人は、少し怖い印象を受けるかもしれない。
そんな、イメージとは全く異なるような人懐っこい声で城田は続ける。
「今日もサクッと働いて、サクッと休憩しましょうね!」
城田は話しながらも手と身体を動かして活動服に着替えていった。
消防官は係ごとに決まった服がある。
消防隊は上下、青色の服。
救助隊は上下、オレンジ色の服。
救急隊は上下、白色の服。
日勤勤務員は制服。
というふうに決まっていた。当然ならがら、現場部隊の消防官は現場活動の際にはその上から様々な種類の服を着る。
火災現場に、出場する時は防災衣と呼ばれる厚手の服。
それに、手袋と空気ボンベ。全面マスク。
それに食われて様々は装備を身につける。
総重量は30kgにも及ぶ。重い。
高温になる火災から自分の身を守るためにそういった装備になる。
救急現場や救助現場。
火災の危険がない場合、必要に応じて防火衣を着たり、様々な病原体からの感染危険があるため、感染防止衣という使い捨てないしは再利用の物を使う。
いずれにしても、消防官は現場活動以上に事務処理、事務仕事が多い。
それを行う時は、基本的には活動服で事務所で業務を行う。
出勤は基本的にスーツに準じた服装。
カジュアルすぎず、ラフすぎず。
いい意味でいい加減の服装だ。
そんな井上も、スーツではなく簡単な襟付きのシャツにジャケット。チノパンが通勤服だった。
(•••さてと。)
井上はおもむろに腕時計で時間を確かめた。
時間は7:45を少しすぎた頃。
まだ、余裕があるな。
井上はそんなことを思いながら、自分が着替えた仮眠室のベットの上に横になった。
勤務隊との交代は8:15。
その時間を目安に事務所に姿を現す。
それを持って交代とする雰囲気があった。
井上はまず自分の腕時計の時刻をセットする。電波ソーラー時計。
強制的に時刻の受信をさせる。
救急現場、特に救急救命士が救命処置を行う傷病者が現場にいる場合、時間管理はとても大事な事だ。
それこそ、秒単位での管理が必要になる。
「おはようございます。」
本日のもう一人のメンバーが出勤してきた。
彼は主任の消防士長 山口 雄一郎(ヤマグチ ユウイチロウ)
背が高く、スラリとした体型。刈り上げた髪の毛は年齢以上に見た目を若く見せる。
かれは、救急救命士の資格は持っていない、救急標準課程の救急隊員。
今日この3人で勤務にあたる。
他の2人は正規に割り振られた休みだ。
まもなく、現場到着 浅田ユウ @ino1034
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。まもなく、現場到着の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます