身代わりorかくれんぼ

ほのかはよくわからないタイミングで俺のところに来る。そう、昨日までは。


だが、なんだ。休み時間毎に突撃してくるほのかに教室の後ろの席の奴らがついに何かを察して、後ろの扉が開け放たれたままになっている。


キーンコーンカーンコーン


「せんぱーい!図書室で人物図鑑表借りてきましたよっと!」


そうして現れた三浦炎花に俺は驚きもしなかった。これで4回目だ。慣れたもんだ。


「図書室って。行く暇あったっけ?おまえ、授業ちゃんと受けてるのか?」


「ちゃーんと受けてますから!他の人と一緒にしないでくださいっ。俊敏性(アジリティー)が高いんです」


「足が速いとかではないのな?」


「いや、普通に足は速い方だと思います。陸上部に勝てたりもします」


「廊下は走っちゃダメじゃね?」


「競歩!ギリ競歩の範囲です」


この間、クラスで喋っているやつなど皆無で、みんな俺とほのかのやり取りを聞いてるわけだ。


「で?今は何の用で・・・」


「せんぱい、わたしの関係は非効率です」


「ん?」


雲行きが怪しくなってきた。

なんかこいつ、一回口走ったら最後まで爆弾を吐き続けそうな顔してる。


やばい、ここは・・・。


「ちょっと、毎回入ってきて困るんだけど。松井くんも。廊下に出て壁になりなさい」


「か、壁ぇ?」


話に割り込んできたのは梅村佳奈(うめむらかな)。このクラスの委員長である。天パの短髪で運動部系のノリをしている。


「この子、ずっと見ていたけど止まらないし避けないから危ないのよ。さっきも入り口でぶつかりそうになってたわよ」


「いや、まじそーゆーのは俺じゃなくてさぁ、姉に対して言うもんなんじゃないですかね?」


千夏は同じクラスにいるのだが、勝手にカーストトップに君臨してるせいで、全てを許されていると言ってもいい。


クラス規模でのサークルの姫って感じなんだが、ぶりっ子ではない。素なのだ。


それが余計にタチが悪くて、この三浦千夏という天然記念物をどうにかして守っていこう、みたいな何かが生まれたのだった。決してファンクラブなどではないらしいので、そこは強調しておく。


ボソッと梅村さんが耳元でつぶやく。


「いや、ほら。出来の悪い姉を持つと下の子はしっかりするっていうじゃない?」


「それを大声で言えよ」


「ダメなの。クラスのみんなで決めたことだから」


知らねーよ。本人のやる気だけの万能感を一身に受けている俺の身にもなってくれ。


「お姉ちゃん、交代、しよ?」


ほのかの視線の先には千夏が。うん、本人はほのかに目を合わせようともしない。


「な、なによ。交代って」


「このままじゃ、いくら時間があってもせんぱいの曲はできない。そう、思わない?」


「ぐぅっ!?」


いや、千夏さんよ。睨みつけないでくれよ。こえーよ。蛇かよ。


「1週間、経ったよね?お姉ちゃんは曲ができないと困るんじゃないの?わたし、知ってるよ?」


「うぐ、げほっ」


おい、千夏が苦しそうだぞ。可哀想だからやめよう?な?


「せんぱいの曲が完成するまで、わたしが三浦千夏になりますっ!」


「だ、だめよ!そんなのダメッ!」


「良い案ではある」


そう横槍を入れてきたのは、俺の隣の席で静観していた未唯。


「あ、あなたねぇ・・・!!」


「・・・次の数学の小野寺先生は黒板しか見ないから大丈夫そう。明日も頑張ればイケるよ?周りが頑張れば、だけど」


そしておもむろに未唯が立ち上がった。


「なんなら、わたしが代わってあげてもいい」


それを聞いた瞬間。表情に花が咲いたほのか。


おい、・・・・・・おいいいい!!


「ありがとうございますっ!」


「そっちの6限の授業は?」


「現国の自習ですっ!」


「なら、余裕。報酬はこの人物辞典でいいよ」


そう言って、未唯はほのかから本を受け取り、教室を出ようとする。


「あ」


そう言って振り返ると、めっちゃ俺に氷のような瞳で圧をかけてきた。


「わかってる?放課後までに大枠作らないとダメ」


「う、わかった」


こうして、身代わりだかかくれんぼだかわからない本日最後の授業が始まろうとしていた。


知らねー。あー、もう知らねーぞ?

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幼馴染に見放されたけど、その妹が俺のファンらしい。〜邪魔してくるけど、頭を撫でると寝るのでその隙に曲を作ります〜 とろにか @adgjmp2010

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