漢字は厨二病っぽいから禁止で

「ううううおおおおお!!」


「なんで50音ひらがな表を見ながら唸ってるの?」


昼休み、スマホで表示した幼稚園の時以来の50音文字表を眺めながら、俺は発狂寸前の境地にいた。


「千夏、俺、がんばるから」


「はいはい、歌詞書けないのね。弁当食べる?ママのだけど」


「おまえのは?」


「半分こにしない?」


「別にいいけど・・・ん?」


廊下の方から誰かが走ってくる音が聞こえる。


「せんぱい!ご飯一緒に食べましょう!ってええー・・・」


「悪いけど、今から泰斗とミーティングするから、邪魔よ」


「邪魔はどっち?前の席の人困ってない?」


前の席の青木君は弁当をもってどこかに行ってしまった。ごめんな青木。


「金髪がうろつくと目立つから、おしとやーかに独りでご飯食べる方が似合うよ」


「あなたこそ、自分のクラスにお帰り。もしかして、ひとりぼっちで寂しいからわざわざ来ているの?」


「喧嘩を題材にした2人の怒りを歌詞にします」


「「せんでいいっ!」」


おや、ツッコミが揃ったぞ。やっぱり仲いいんじゃないかおまえら。


「せんぱい、ひらがななんか見て何してるんですか?コックリさんでもやるんですか?」


「なるほど、コックリさんに聞いてみるのもアリだな」


「コックリさんが決める歌詞って怖ぁ」


「・・・まっちゃん。自力でやりなよ」


放課後で、と約束していた未唯が俺のところまでやってきた。弁当包みを手に持ち、俺の周りの空いている席を探してる。


が、空いてる席などない。昼休みは教室で食わないやつが大勢いる。だが、ぼっち組で固められた俺の周りの席の住人達は、静かに机で弁当を食べているのだ。


俺の右隣席の斑目に、未唯が声をかけた。


「・・・斑目(まだらめ)くん、今日のわたしの詩はどうだった?」


「す、す、す、素敵だったよ」


「・・・そう。どいてくれる?」


「は、はひーん」


はひーんってなんだよ。ウマでも飼ってるのか?


斑目君は広げていた弁当箱をまとめると、廊下に駆け出していった。


千夏、未唯と席を確保した面々は、ドヤ顔でほのかを見やる。


「ずるいですぅぅ!可愛い後輩に対する仕打ちじゃないですっ!」


「・・・椅子取りゲームに負けた敗者が何を言う」


「あ、いいこと考えました!せんぱいっ。わたしに席を譲って、せんぱいはそこで頑張って椅子になってください。椅子の気持ちになれば、歌詞が書けること間違いなし、です!」


「曲名 椅子 ってなんだよっ!嫌だよお前が空気椅子しろよ」


「でも椅子取りゲームみたいに、なんとかゲーム、っていう曲名たくさん出るよね。なんか案無い?」


「おまえはいっつも俺に振ってばかりだな・・・」


「だって、泰斗自分で決めないと拗ねるじゃない。お子ちゃま〜」


「せんぱいは頭を撫でると眠っちゃうお子ちゃまですもんね?」


「それはおまえだっ!」


「よいしょっと。やっぱり先輩の上に座るのが正解です。重いって言ったら頭突きしますからね?」


迷うことなく俺の膝の上に座ってしまったほのか。


「俺が飯食えないだろうが!」


「せんぱい、この状態じゃあ食べられませんよね。向い合ってもいいですか?」


「ちょっと!ほのか、マジで邪魔なんだけど」


「姉は確保したぁ!後は無害そうなお友達を・・・」


「・・・まっちゃん、あーん」


「「「!!!」」」」


未唯が卵焼きを俺の方に向けてくる。


え?未唯さん、どしたの?


「・・・お腹空いてたら良い歌詞は書けない」


「満腹でも多分書けないぞ?」


「・・・食べるべし」


ぐいっと口の前に卵焼きを差し出されて、俺は雛鳥のごとく口を開けることしかできない。


あーん。ぱくっ。もぐもぐ。おっ、甘めの卵焼きって初めて食べたけど美味いな。


にっこり顔の未唯。そして前を向きながらプルプルと体を震わせて、その振動を俺に伝えてくるほのか。


どした?トイレか?


「せんぱいの、おたんこなすー!!」


おっ!いいな、おたんこなす!全部ひらがなだから使いやすい。厨二病みたいに漢字使っちゃダメってみんなに言われてるからな。ひらがなだったらみんな許してくれるだろう。




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