さらにプレッシャーをかける新たな少女

「・・・・・・千夏から話は聞いた」


「朝イチで話しかけてくるとは、珍しいな」


俺の机の前に立ち塞がり、何とも言えない圧をぶつけてくるこの黒髪メガネの子は澤田未唯(さわだみい)。


俺の数少ない作曲経験のある友人の1人だ。


「・・・行き詰まっているなら、わたしに声をかけて?」


「いや、それも考えたんだけどさ・・・」


未唯の主戦場は作詞家だ。こいつは、ネットで作詞したものを提供したことがあるから、信頼と実績の面で俺には敵わない領域にいるのは確かだ。


「まっちゃんの作詞は痛いポエム」


「そこまで言うなら試してみるか?俺の歌詞とおまえの歌詞どっちがいいか」


「・・・論外。比べられたく無い」


ぐぬおおおおお!少なからずおまえの存在も俺を苦しめてるんだぞ?少しは戦わせてくれ!戦いの場にすら持ち込めば、100人のうち、10人くらいは俺の味方に・・・!


「つぶやきサイトでアンケート取ろうぜ。どっちが上か勝負だ」


「・・・今日はやけに交戦的」


「男にはな、戦わねばならない時ってのがあるんだよ」


千夏からコラボしようと言われて一週間が経過した。曲ができない理由は腐るほどあるとしても、なんとか形にはなる。だかしかし、だ。歌詞を考えるのはどうにもうまく行かない。


「・・・ひとつ、ヒントをあげる。それっぽくなる作詞の仕方、初級編」


「お、おう。いや、戦いは?」


「・・・まっちゃんの曲はアコギがメイン。バラードをやりたいの?」


「いや、バラードじゃあ、盛り上がらないような」


「・・・じゃあ、今ネットに上げてるやつでいい。Behind rainyにしよ」


未唯は俺の左耳にイヤホンを押し込めてきた。


「・・・時間が無いからサビだけね。ほんとにいい曲なのに、もったいない」


「うっす」


褒められてニヤけてしまうのを堪えて、最低限の返し。うん、バレてないはずだ。


「・・・どんなテーマの歌詞でも、人間が出てくるストーリーが主でしょ?」


「虫とかラーメンとか人間以外の曲もあるけどな」


「・・・まずは、自分か、相手か、世界に向けてか、その3つの中でテーマをひとつ決めて?」


「全部入れちゃダメなのか?」


「・・・やってみたら?」


「世界が〜雨でも〜きーみがーそばーにいーるとーぼくーははっぴ〜」


「・・・ボツ」


「お手本をどうぞ」


「・・・ダメ。わたしが今口に出したら、まっちゃんのやる気が無くなっちゃう」


「未唯の口に出すってなんかエロいよな」


ごすっ!


「ぐはぁ!」


おいおい、腹パンはやめてくれよ。貴重な朝食がさよならしちまう。


「・・・次は目を狙う。真剣にやらないなら、教えてあげないから」


「さすがは作詞家。無償で提供しないところが意識高いな」


「・・・別にまっちゃんにならいくらでも無償で提供する。でも・・・」


「でも?」


「まっちゃんは自己顕示欲の塊だから、自分で作詞したほうがいいと思う」


「それは、そうかもな」


「・・・コラボして欲しかったら言って」


「いや、今日時間もらえるか?もっと作詞のこと教えてほしい」


「・・・わかった。放課後?」


「そうだな。何個か歌詞考えてみるわ」


「・・・黒歴史ノートにならないことを祈ってる」


よし、未唯からヒントをもらったから、ちょっと自分でもやってみるか。



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