二日目、夕方 ②


「先輩は自分の枕つかってくださいね?わたしは先輩のうっでまっくらっ♪にしますから」

「なんでそんなにノリノリなんだよ」


俺の体、臭いかな、とか添い寝ってヤバくね?っていう考えを通り越して、俺はまず最初に言いたい。こいつを絶対寝せるぞ。


どかんと乱暴に左腕をベッドに叩きつけた。


ほのかが足をくねらせて、よよよとベッドに倒れ込む。


「そうやって脅かしたって、無駄ですからね!」


「は、早く来いよ。そして1秒でも早く寝てくれ」


「ふっふーん。ではでは、お邪魔しまーす!」


ほのかが俺の腕にゆっくりと頭を乗せてきた。さらさらとした髪の感触はわからない。よし、早く寝ろ。


「先輩、仰向けでもいいんですけど、こっち向いてくださいよー」


ほのかはもう既に体勢を整えて、体を俺の方に向けていた。それを横目で確認して、今更思った。


なんでこんなに近いんだよ!?


「ちょっと、待て!こんなに近いと思わなかったぞ」


「今更遅いです。先輩、早く、こっち、向いて?」


壊れた首振り扇風機のように、俺はゆっくりと首だけほのかの方に向けた。


近い、近いぞ。ふざけんなよ。この距離は俺にキツい。未知の領域だ。


「右腕を、くださいっ!」


もじもじしてるくせに、声だけは元気なんだよなこいつは。


あー、もう。どうにでもなれっ!


俺はぐいんと姿勢を起こして、ほのかの方に体を向けた。


すぐそばだ。ゼロ距離だ。なんでちょっと服装崩れてるんだよ。首元のリボンがほどけてやがる。


「む?今胸元を見ましたね?」


「見てねーよ。さっさとさぁ、寝てくれ」


「今度からマスターベーションの時はこうしましょう!」


「マスタリングだって言ってるだろうが!」


俺は右手でわしゃわしゃとほのかの頭を撫でてやる。ほのかは無言でじーっと俺を見つめている。


5秒ぐらい経っただろうか。なんと、ほのかが目を閉じてしまった。


「え?おい、寝たのか?」


「せん、ぱい。やめないで・・・もうちょっと、撫でて・・・」


ほのかがゆっくりと仰向けの体勢になって、完全に寝ようとしているのがわかる。


こいつは何がしたかったのかはわからない。俺は全然寝る体勢ではないし。


左腕を微妙に浮かせて、枕をシュッとほのかの頭の下に入れ込んだ。そしてまた撫でる。なんか、うまくいきすぎて逆に面白くなかった。


「すー。すー」


この寝息、サンプリングとして録音してもいいかな、と考えたが、発想が変態すぎることに気づいて、俺は慌てて首を横にブンブン振った。


「待ってろよ。1番に聞かせてやるからな」


寝落ちしたほのかから離れ、俺は曲の最後の仕上げに取り掛かるのだった。

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