二日目、夕方 ①
なぜ、今日もこいつはいるんだろう?
「こんにちは、先輩。今日こそ新曲、聞かせてくださいね?」
銀髪のほのかが制服姿で玄関口に立っている。
時計を見ると、こいつが来た時間は昨日と全く一緒だった。午後4時半ジャスト。まさかのストーカーじゃないよね?
「あのなぁ、おまえがいると、俺の作業効率が落ちる。つまり曲ができない。OK?」
「先輩がわたしのために曲を作ってくれるって聞きまして」
「んなこと誰にも言ってねーよ!」
「じゃあ、今日も上がらせてもらいますねっ」
意気揚々と俺の部屋まで突き進む炎花。
部屋に入ったほのかは当然の如くベッドに座る。
「先輩、わたしのことはお気になさらず。ささっ、早く作業に取り掛かってください」
俺は二重窓で出していたつぶやきサイトを閉じる。あー、めんどくさい。今日は作曲仲間同士、傷の舐め合いをしていたというのに。
「今、女の子のエッチな絵が見えました。おかずを探していたんですか?」
「ちげーよ。つぶやきサイトって何でも飛んで来るだろ?誰かが勝手にエロ絵飛ばしてきただけだ。俺のせいじゃ無い」
「ふーん。つまり、性的に興奮しながら作業すれば効率が上がるんですね?脱いでもいいですか?」
「脱ぐなよ!興奮しながら作曲なんてするかっ!」
「作業中、先輩は何を考えてるんですか?」
「えー?そりゃあ、ここのアレンジどうするかなぁ、とか、もっと良い音ないかなぁ、とか、ノイズ除去めんどくせーな、とか」
「それって楽しいんですか?」
「楽しいか、楽しく無いかとか、そんなのあんまり気にしないかな」
「先輩、わたし今楽しくないです。遊びましょう!」
「だーかーらぁ!邪魔するなら帰れってば!」
「邪魔って言いますけど、つぶやきサイトを眺めてただけですよね?つまり、せんぱいは今暇なはずです」
ちっ。暇って言われると癪だな。俺はやる気の栄養補給をしていただけなんだけど。なんで邪魔するんだよ。
「なぁ、本当に帰ってくれないか?おまえが俺のファンなら、黙って家で待っててくれよ」
「ダメです。出来立てホヤホヤの一番乗りが聞きたいんです。そこはファンとして譲れません」
俺の目を真っ直ぐ見据えて、俺を諭すような瞳で訴えてくるほのか。
「何でそんな真剣なんだよ。二曲だけだけど、サイトに載せてるじゃないか。それを聴いてくれよ」
「千回聴きました」
は?
「二曲で二千回聴いてます。再生数、載ってませんか?」
俺は動画投稿サイトの自分の曲の再生数を確認する。
一曲目、『Holiday』が2001再生と、二曲目、『Behind rainy』が1843再生だ。お気に入り登録が9と12。
「再生数だけめっちゃ伸びてたのはおまえの仕業かよ!」
「えっへん。わたしが過半数もらっちゃってます!」
「なんか伸びてるなー、って期待しちゃったよ。はぁ、まさかの身内だったか・・・」
「先輩、このままだとわたしの力だけで、再生数五千回なんて簡単に行っちゃいます。新しい曲、聞かせてくれませんか?」
「う、うん。今マスタリングしてるから待ってて」
「マスターベーション?」
「してねぇわ!」
「仕上げの段階ってことでいいんですよね?じゃあわたしと遊んでください」
「なぜそうなるんだよ」
「構ってくれないと、また先輩の曲聞いちゃうんで再生数だけがとんでもないことに・・・」
「イヤホンして聴いてたの、俺の曲かよ!」
「じゃあ、勝負しましょう。ベッドでお互いの頭を撫で合って、最初に寝た方が勝ちです」
「寝たふりじゃなくてか?」
「負けた人が勝った人に、好きですって呟くんです。じゃあ、やってみましょう!」
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