第33話32 二度目の夜 3
リザが目覚めた時、部屋は暖かな黄色い光に満ちていた。
夕陽が差し込んでいる。
「ニーケ……?」
寝台の横には、さっきまではなかった
のろのろと身を起こしたリザは、自分がひどく喉が渇いていることに気がついた。それに小用をたしたい。
そろりと寝台を降りて、衝立を回っても誰もいなかった。さっきは誰かがここにいると言ったのではなかったか?
リザは素足のまま、ぺたぺた床を踏んで廊下に出たがそこにも誰もいない。
この部屋は廊下の突き当たりにあるのだが、真っ直ぐ進んで反対側の端に小さな扉があったので開けてみると、予想通りそこは
「誰かいるの?」
急いで部屋に戻ると、椅子に座っていたニーケが振り返った。
「ニーケ!」
「リザ様!」
足を引きずりながら飛びつこうとするので、リザは自分から駆けより、半日会わなかった友人を抱きしめる。
「ニーケ! ごめんね! 無理ばかりさせてごめんなさい」
「リザ様こそ、ご無事でよかった……!」
二人の娘がお互いの頬を両手で挟んで喜び合うのを、二人の男達が見守っている。エルランドとセローだ。
ニーケの肩越しに二人を見たリザは、エルランドと目が合った途端に恥ずかしくなって、そっと目を伏せる。
「部屋にいなかったから心配した」
「あの、ちょっとだけ……」
用足しに行っていたとは言えずにリザが俯くと、包帯が巻かれたニーケの足が目に入った。
「足はどうなの?」
「はい……すみません。朝方無理をしたのが響いたらしく、あの後また腫れてしまって……しばらく休んでからセローさんが馬に乗せてくれたんです。このお部屋にも抱えてきてくださって」
「またしても、二人揃って迷惑をかけてしまったと言うわけね……」
リザもエルランドに抱き上げられて、ここまできたことを思い出した。
「部屋を留守にしてすまなかった。彼らが到着したと言う知らせを聞いて、ほんのしばらく迎えに出ていたんだ」
「……」
つまり彼は、リザが眠る前に言っていたことを実行してくれたのだ。
「迷惑なんかじゃない。二人とも座りなさい。食事を運ばせる」
食事と聞いて、リザは朝から何も食べていないことを思い出した。バルトロに襲われた後は、何も食べる気がしなかったが、今は空腹と喉の渇きを感じている。
食事が運ばれ二人が食べ始めると、男達は遠慮して一旦下がった。
陽はすっかり落ちている。
料理はとてもおいしかった。一日飲まず食わずだったせいもあるが、野菜と肉をとろりと煮込んだ赤いスープは絶品で、パンを浸していくらでも食べられるような気がした。
食事の間、ニーケは何も聞こうとしなかったが、どうにか人心地着いたので、リザは路上で別れてからのことを話して聞かせた。
「……そうだったんですか」
あまり要領を得ないリザの話だったが、ニーケは概ね理解したようだった。
「それでリザ様はどうされるおつもりなのです?」
「どうかしら? あの方は離縁の話をしたいと思っているのだろうけど、私がすっかり参っていたので、とりあえず保留にしてくれているんだと思う。きっと、明日にでも申し渡されるのだわ」
「お受けになるのですか?」
「受けるも何も、私に選択肢なんかないわ。兄上とあの方とでお決めになったことでしょう? もしかしたら王都に送り返されて、シュラーク公爵と結婚させられるのかもしれないし」
「そんな! やっとここまで逃げてきたのに!」
「ええ。だからこんなところで再び出会ったことが、私の運命かもって思っていたところなのよ」
「……」
「でも、見逃してほしいって頼んでみるつもりではいるの。あの方は悪い男から助けてくれたし、五年前に会った時も、私に同情的だったような気がするもの。哀れみなんかいらないけれど、このまま王都に戻らされるくらいなら、なんだってするつもり」
「確かに、お仲間の方々もそんなに悪い人には見えませんでしたわ。特にセロー様にはお世話になったし」
ニーケは大きく頷いた。
「ええ。あちらから見れば私なんか、王女という肩書だけ持った役立たずだけど、少しは意思があるってことを伝えたい。私だって、全部は兄上たちの言いなりにはならないと決めて、こんなところまで来たのだから」
そう話している間に廊下から靴音が聞こえたので、リザが扉を開けると、エルランドとセローが立っていた。
「食事はすんだか?」
「はい」
「おお! きれいに食べられましたね、じゃあ、主がリザ様に話があるようなので、ニーケさんは俺と向こうの部屋へ行ってもらえませんか? あ、食器は俺が下げます」
セローがてきぱきと机の上を片付け廊下に出すと、ニーケが何にも言えないでいるうちにひょいと抱き上げて廊下の向こうに消えていった。
「……」
後にはリザとエルランドが残された。
いよいよこの時が来たんだ。
何を言われても受け止めてやる。
でも、全部言う通りにすると思ったら大間違いよ!
リザは、背の高い男を
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