第34話 出る杭は打たれる再び

都に着いたら戦闘中だった


無事戦いも終わり兵士が都に戻って……行かない

こちらに注目している

そんなに見るなよ照れちゃうだろうが



「セシル将軍!この車は味方です!何も心配ありません!」



そういえばこちらには都出身の聖女様がおられるのでした

聖女を確認すると兵が下がっていく

しかし将軍と呼ばれたイケメンは残ったままだ



「聖女様、おかえりなさいませ。チグルスの為の糧食集め如何でしたでしょうか?」



ニタニタ笑いながらそう言った


あー、この一言で色々と察してしまった

そもそも都ではないチグルスの食料問題を解決しようと聖女が奔走しているのがおかしいのだから

下手すればアラベルを亡き者にしようとした謀略の可能性すらある

アラベルもそれがわかっているのだろう

笑顔ではいるが握りしめた手がぷるぷる震えている



「将軍だっけ?チグルスの食料問題は解決したよ。とりあえず都に入るから話があるなら後にしてくれ。まあこっちからの話はないけどな?」



俺の言葉に苛立ちを隠さずセシルと呼ばれた将軍が俺に剣を向けた



「貴様何者だ?いや何者でもいい。聖女様をかどわかした罪で投獄する!明日には打ち首にするので覚悟しておけ!ひっ捕らえろ!」



セシルの影に隠れていた兵士たちが動き出す



「ま、待ってください!シンジ様は私をお助けしてくださったのです!セシル将軍、言いがかりはやめてください!」



その言葉を聞いたセシルはますます嫌らしい笑みを浮かべる



「ほぉら、やっぱり騙されているではありませんか!チグルスの糧食問題は一朝一夕でどうにかなる問題ではありません。それを聖女様を騙して解決したように見せかけたのです!明日では遅い、今この場で処刑してやる!」



だめだ!話にならない!


しっかしまあ相当イカれてるな……

会話が出来ない、するつもりもない奴とは俺も相いれない

でも外壁の上には先ほどの大魔法を使った魔法使いもいるので下手な動きをすると攻撃されるかもしれない


なんて思ったが心配ご無用!

だって俺達は未だソニの中にいる

早い話、どんな攻撃を食らったところでこちらはノーダメージなのだ

一つだけ懸念があるが……


そもそも俺の防御力を考えれば即死とか毒を食らわなければ死なないと思う



「なんでもいいけどあんたには用事がないんで勝手に行かせてもらうぜ?」



「貴様ら何をやっている!敵は魔物ではなかったのか?」



アクセルを踏もうとしたら髭面のおっさんが門から出て来た

もうめんどくさいから轢いちゃってもいいかな?と思って横を向いたらアラベルが首を縦に振らない

ダメ?あ、ダメなのね?



「これは聖女殿!ご無事のご帰還なによりです。してセシル、なぜ聖女殿を兵が囲んでいる?正当な理由があるのだろうな?」



「ええ、理由ならありますよガルド殿。あそこの男が聖女様をたぶらかし、意のままに操ろうとしているので捕らえようとしていた所です。」



「違います!私は誑かされてなどいません!シンジ様はチグルスの民を飢えから救ってくださったのです。」



ガルドと呼ばれた老将がこちらを見る、と言っても助手席から運転席に視線を変えるだけなのでほぼ視線は動いていないが

そんなに見るなよ穴があいちゃうだろうが



「……セシルよ、聖女殿を誑かしたと言ったが誑かした人間が街を救うのかね?それにな、先ほど儂の所へチグルスからの使者が情報を持ってきたぞ?シンジ殿という『旅人』が我らをお救いくださったとな。」



「な!『旅人』ですと!?それも嘘に決まっています!『旅人』がこの地を訪れる訳があるはずがない!おい貴様!また罪を重ねたな!なます斬りにしてやる!」



……ここまで思い込みが激しい人間が将軍なんて立場に居てもいいのだろうか?

うーん、邪魔しかしない気がするので閉じ込めておこう


お約束のリグナムバイタで10mサイズの箱を作成、空気穴を作って中の空洞を80cm×80cm×高さ2mに設定し、閉じ込めた

その狭さでは剣も振れまい

箱を破壊する程の威力の魔法なら中の人間も死ぬだろうし、脱出したいなら穴掘るしかないよ?



「シンジ様お見事です!」



マリーとカレンが大喜びしているがアラベルと老将ガルドはドン引きだ



「シンジ殿と申しましたかな、セシルは大丈夫なのだろうか?」



「ああ、箱に閉じ込めただけだからな。空気穴もあるし2~3日したら大人しくなってるんじゃないか?」



「……大変迷惑をかけて申し訳ないが、後でいいのであやつを出してもらえると有難い。あんな奴でも将軍なもんでな。」



「人の話を聞くようになって欲しいもんだな。んで、上の魔法使いにも攻撃しないように言ってもらえると助かる。」



ガルドは外壁の上にいる魔法使いに合図を送り下がらせる

ソニは壊れないだろうが熱さとか寒さに対する耐性があるのかわからないという疑念があったから助かる

まあだがこれでやっと都に入れる


ガルドの先導で都に入って行く

チグルスより道幅が広く、出歩く人も多い

大量の魔物に襲われたばかりだというのに都にはなんら影響がないようだった

それだけ兵士に信頼があるのだろうな



この都は人口が17万人、広さが約65㎢

日本の山手線の内側の広さより少しだけ広い


東西南北と中央の5つの区画からなる

東は商業区と居住区、西も同じく商業区と居住区、南は農業区、北は金持ちの邸宅と兵士の住居施設など

中央は城を中心とした貴族街で出来ているらしい

区画の広さが違うみたいで農業区が1番大きいが都の1/3の広さがあったとして17万人もの生活を賄える程の作物が取れるものだろうか?

定期的にオークを狩ったりしてるだろうがチグルスでは作物が育ちにくいみたいなのに都は食べるものがなく民が疲弊しているという感じがない

……思うところがない事もないが、今は考える必要はないだろう



都は殆どの建物が3階建てで出来ている

この国の建物もヨーロッパのような街並みだ

中には4階や5階建てまである

500年前の建物がよくそのままでいられるもんだと思うがしっかりと加工・計算して建てられた建物は1000年以上そのままの形を保つことだってある

現に法隆寺なんて1400年以上前に建てられたが未だにそのままの形を残しているし、住居ではないがピラミッドや万里の長城は2000年以上前の物だ


500年以上前に来たって『旅人』はいつの時代の人だったのだろうか

日本で500年前なら室町時代の後期だ、現代程の科学力や義務教育があったわけではないから戦いは出来ても街や街灯を作れる知識があるとは思えない

特殊なユニークスキルでも持っていたかもしれないが、近代の時代の人間だったのではないかと思う

建物の感じも日本ぽくないからヨーロッパ人とかだったんだろうか?

今となっては会うこともないだろうが100年前にいたという『旅人』も何者だったのだろうか


天界に行く機会があったら聞いてみるかな



俺達はガルドに別れを告げ、アラベルが育った教会へと向かう

アラベルが道を教えてくれたので迷うことなく教会に着いた

ソニをアイテムボックスにしまい教会に入って行く


……おかしい

人の気配がまるでない

常に教会で祈っている人がいるかはわからないが、何の音もしないということはないと思う

歩く音や生活音てものが必ずあるはずだが、ここはまるで音がしない


俺は全員にハンドサインをし俺、アラベル、マリー、カレンの順に固まって並ぶ

しかし何を思ったのかアラベルが普通に歩き出す



「アラベル!何かあるかもしれないから俺の後ろに来るんだ!」



「あ、シンジ様、この教会は周りの音が限りなく小さくなる魔法が掛かっているので大丈夫ですよ。それにもし何かあった場合は教会の入口は魔法で固く閉ざされ開かない仕組みになっております。」



そんなことがあるのかと訝しんでいると奥から1人の見るからに豊満なシスターが出てきた



「聖女様、ご無事にお帰りになられたのですね。チグルスはどうなりましたか?」



「ええ、セディーナ。只今戻りました。こちらにおられますシンジ様のご助力でチグルスの民を助ける事が出来ましたよ。」



「それは良かったです。えーとシンジ様?チグルスと聖女様をお助けいただきありがとうございました。」



えーと?本当に大丈夫なんか?

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