第30話 最初に言っとけって話

『忘却の国』の都市、チグルスに着いた

聖女であるアラベルが門番に話をつけ、街へと入ろうとしたした所俺とカレン、ソニの事で大騒ぎしている



「シンジ様申し訳ありません。暫くすると警備と街の責任者が来ると思いますのでそれまでお待ちください。」



というわけでかれこれ1時間待たされている

馬車で来た連中はとっくに中に入ったよ?

アラベルだけが残ってくれたけど、進展なし

待ってるのも暇だし昼も過ぎたので昼食にする


さっとピザトーストを焼きサクサク食べていく

デザートとして食パンとあんことホイップクリームも置いておく

聖女が涎垂らして目を輝かせているが食べすぎると太るよ?


しかし日本から持ってきた物もかなり少なくなってきた

喰っちゃ寝のマリーのせいでかなり使ってしまった


ソニ再生を使って復活させてはいるがどういう理屈なのか再生出来ないものもある

持ってきた荷物は殆ど再生出来たがこっちの世界の物は再生されないみたいだ

最初の内は再生するなんてわからなかったから知らずに使ったからね


門番に聞いたらまだ待たされるようなので3人でポーカーをしている

ポーカーなら時間かからないし、いつでも止められるからね


時計を見たら2時間経ってた

これはあれか、入れる気がないのかな?

その割に聖女を呼びに来ないのはなぜだろうか



「アラベル、これ以上待っても進展なさそうだし他の街とか村を教えてもらってもいいかな?そういえばアラベルが住んでるのってここなの?」



「そうですね、移動してもいいかもしれませんね。都をお教えしますのでそちらに向かいましょうか。私は都の教会に住んでおります。でもこれからはシンジ様と……。」



なんか後半は小声過ぎて聞こえないが待ってても埒が明かないので都に向かおうとすると門番に囲まれる



「どこへ行こうとするのか!聖女様を連れて行かれては困る!聖女様こちらへお越しください。」



囲まれているのでソニは動かせない

轢いたら死んじゃうからな

俺は人殺しをしたいわけではないし、どうしたもんかな



「あなた方は何をしているのかわかっているのですか?シンジ様は『旅人』様なのですよ?」



「それはそいつが言っているだけです。『旅人』を語って聖女様を惑わすとは何て奴だ!取り押さえるんだ!」



面倒になってきたな

大体取り押さえるって俺ら車の中にいるのにどうやるのよ?

軽く車で押してみるかと思っていると門から慌ててクウが走って来る

あ、クウって聖女と一緒にいた食べるのが好きなおっさんね?



「待て待て!その方は『旅人』様だぞ!聖女様や我々を助けてくださったお方だ!そのような恩のある方に刃を向けるとはなんたる不遜!」



いや、お前誰だよ?

そんなキャラでしたっけ?

食べるのが好きです!とか叫んでませんでしたっけ?



「あ、シンジ様、クウさんはこの街の騎士団の副団長なのです。」



何その後出し説明?

もっと前に言っておけよ、そもそも最初に自己紹介しろって言ったときにチグルスの副団長だって言っておけばいいだろうよ!



「シンジ様、街に入る許可が下りましたのでどうぞお入りください。私が先導しますのでついて来てください。」



ご飯を凄い勢いでおかわりしまくってた奴がこんな感じになると違和感しかない

アラベルにも促されたので入って行く


街はほぼ木造建築

そりゃそうだ、ここ草原でたまに森とかあるけど石を切り出すような場所ねーもの



「気になったんだけど、外壁って石壁だよね?どこから持ってきたの?」



聖女からの情報によるとこの忘却の国は昔の『旅人』が興した国だったみたいだ

その『旅人』が大容量(無制限と思われる)のアイテムボックス持ちだったらしく、多少余剰の石材があったようだけど使い切った為補修もされていないようだった


……この国結構ギリギリだな

滅びを待つだけになってる



「シンジ様、これからこの街の長と会っていただきたい。」



そうしてクウに連れられてきた場所は立派な石造りの建物だった

どうやら中で街長が待っているらしい

途中聖女と一緒に居た連中が炊き出しやら食料の配布やらをやっていたが、街に活気がなかった



「この建物は立派だけど他がなぁ。しかし炊き出しやってたけど活気がないね?」



「はい…。長年の外壁や街の修繕で残っていた石材は全て使ってしまったのです。」



アラベルに話しかけたんだけど、見知らぬ年配女性から返事が返ってきた



「『旅人』様、はじめまして。この街の長をしておりますミーナと申します。」



深々とお辞儀をされたがここでも『旅人』か

まあ『旅人』により建国された訳だしわからなくもないけど



「ミーナさんですね、シンジです。あまり『旅人』とは呼ばれたくはないですね。何かお話があるのでしょうか?」



俺はこの国がどういった国なのか知りたくてついてきただけだからな

面倒ごとには巻き込まれたくはない



「失礼しましたシンジ様。ここではなんですから中までどうぞ。」



ここで話せない内容を話そうってんなら大事なんだろうな

うーん、助けを請われれば内容にもよるけど吝かではない

しかし『旅人』だから助けろとかって言うなら正直御免こうむりたい

牽制しておくか



「ミーナさん、『旅人』だから助けろって言うなら俺には無理ですからね?俺が出来るのは精々建物を作る程度です。」



この時の不用意な発言でピンチに陥るわけだが、俺はまだ知らなかった



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「…どうやらカテラ大草原を行ったようです。」



薄暗い部屋で報告をしている女が言う

そして高そうな椅子に座り報告を受けた男は、女を見下ろし聞いている

指には金と銀、色とりどりの宝石であしらった指輪が沢山嵌っていた


男はすこし考え切り出した



「……何人使ってもいい。必ずあの特殊な馬車を持ってこい。」



「…はっ!『旅人』の方は如何致しましょうか?」



男は薄暗い部屋にも関わらずその眼はギラついているのがわかる

報告をした女はこの男が恐ろしかった

この男が持つ風貌や金、権力が恐いのではない

全てを飲み込んでしまうような暗く光るその眼が恐ろしかった

あの眼で睨まれた人間は皆同じ感情になっただろう



「…『旅人』はいらん。始末しろ。それと女は連れて来い。わかったなら行け。」



女はいつの間にか姿を消している

この部屋に残っていても碌なことにならないのがわかっているからだ


男は気にせず独り言を言う



「……キャンピングカーか。」



この男の目的もなぜキャンピングカーを探しているのか、そして何者なのか誰も知らない



「……ふふふ、ふっふっふ。あーはっはっはふぐふぁ!」



いつの間にかその男の隣にいたメイドが男の口にパンを突っ込んでいる



「ちょおっとー!いつもいつもそれやるけど死んじゃうからね?侯爵死んじゃうからね?」



どうやらフェートリューズ侯爵が暗躍を始めたようだ

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