第13話 予感そして逃亡

再度アイテムボックスに車を入れ案内された庭はとても広い

スキルを試したかった俺達は、というか俺一人でいいのになぜかマリアベルとルイザ、カレンがいる

まあいいか



「よし、では俺のユニークスキルを試してみる。危ないかもしれないから俺の前には行かないように。」



まずは絶対建築基準法アーキテクトに意識を向けてみる

なるほど、今現在のレベルだと最大で縦10メートル×横10メートルの2階建て木造建築が可能なようだ



「木材を出して…丸太でいいか。んで何を作るかだな。最初だし物置くらいのサイズで作ってみるか。」



スキルに意識を向けて使用してみると丸太が消え一瞬で物置が現れた


…は?意味不明なんだが…

丸太を材料にしたのだから当然使用した丸太がなくなるのはわかる

しかし出来上がった物置は木目こそあるが継ぎ目がない


まるで物凄い太い、それこそ樹齢何千年もあるような大木を削りだして作ったような見た目になっている


いやいや、おかしいだろ?丸太の太させいぜい40cmくらいよ?

一本物の木から作ったんじゃないんだから


物置のサイズは横幅2メートル奥行き1.5メートル高さ2メートル

とりあえずぐるりと回ってみる

角の柱部分も扉も屋根も一体化している

当然扉なのだから開いたが密閉度合いが半端ない

穴さえ開けなければそのまま水に浮かべても水没しないだろう


色々とおかしいが他も試していく

アイテムボックスに木材を入れたまま作ることは可能なのか?

試した結果可能だった


いちいち素材を出さないでも作れるのはありがたい

出来た物もそのままアイテムボックス内に置いておくことも出来る


万能すぎだろ


あとこの絶対建築基準法アーキテクト、面白いのが頭の中に設計図が浮かぶ

しかも3Dで見れるから細かい部分の寸法までわかる


ここはこうしたい、ああしたいなど思い通りに設計出来るし完成予想図も見れるから楽しくなった

俺は新聞広告などによく入っているマンションや家の設計図が好きでよく見ていたし間取りなどに拘りがある


物置は適当に『こんな感じ』で作ったからこうなったのか、試しに2階建ての家も作ってみたら何枚も板を使った家やログハウスなんかも作れた


よかった、あんな削り出しの家に住んでたら居心地悪そう



「大分検証出来たな。家だけじゃなくベッドやタンスなんかも作れるのはありがたい。」



そう振り返ると人垣が出来ていて、ビビった

いつの間にか城で働いてる人間の殆どが見に来ていたようだ



「シンジ君凄いねー!これは相当使えるよー!人だけ連れていけば一瞬で村が出来ちゃうし、魔物と戦う為の砦も築けちゃう!いやー、マリアベルいらないかい?君が息子になってくれれば我が家も安泰だよー!ぶほぉ!」



マリアベルの強烈な回し蹴りが侯爵を襲う

お嬢さん、スカートで回し蹴りはいかん

ちょっと慣れてきた俺がいるが慣れたくない


数名に抱えられ連れていかれる侯爵に声を掛ける



「マリアベルの事は好きですけど、利用されるのは好きじゃないのでお断りしますよ。それに俺は『旅人』です。気ままに生きていける所に行くだけです。」



そう言った俺はここを去る事を決意する

そもそもが送り届けるだけなのでここに長居するつもりがない

日本に帰れるなら帰りたいし、帰れないなら帰れないで考えなきゃいけない


まだ残る人達を背に俺は部屋に戻る

その殆どの人の視線が狂気に彩られている事に気が付かなかった



昼食の用意が出来たとカレンが呼びに来たがそんな気分ではなくなったのでお断りさせてもらった



「シンジ様、出ていかれるのですか?」



何かを察したのかカレンが聞いてきた



「そうだね、明日出て行こうと思う。カレンにはお世話になったね。ありがとう。」



「…いえ。こちらこそありがとうございました。」



カレンは少し考えるようにしていたが笑顔で応えてくれた


これは多分…ついてくるつもりなのかなぁ

ついて来てくれるならありがたいが、彼女には彼女の人生がある

それに仕事を辞めるにしてもそんな簡単には辞められないだろう


部屋から出ていくカレンを見送る


夕食の用意が出来たとカレンが呼びに来るまで思考の海を漂う

どうやって生きていくか、何処へ行くか

そして帰れるのか

侯爵に聞けば多少は知っているかもしれないが、なんか世話になる気になれないんだよな


夕食はいつも通り侯爵がしゃべり続けては口にパンを突っ込まれての繰り返しだった

何かを察していたのかマリアベルは何も話さなかった



「侯爵、明日街をでます。短い間ですがありがとうございました。」



侯爵は命の危険があって聞こえてないようだったが、女性陣が反応した



「まあまあ旅に行かれるのかしら?ずっとここに居てもいいのですよ?」



「お兄様、一緒に暮らしましょ!行っちゃやだー!」



なんか引っかかるんだよな、この家族

嫌な予感がするというか

侯爵家とか貴族が普通の平民にここまでするだろうか?

それだけ『旅人』とは有用なのだろうか



「そうですね、ここで暮らすのも悪くないかもしれませんね。ちょっと考えてみます。」



俺の心は決まっていたがすっとぼける事にした

終始無言であったマリアベルが気になったが部屋に戻り今日中に出ていく事にする


それに気がついたのかカレンが訪ねてくる

見たこともない程必死な顔をしているのに驚いた



「シンジ様、もう出られるのですよね?私も連れて行ってください。お願いします。」



ついには泣き出してしまった

彼女の事は好きだがここまで必死になる理由がよくわからなかった



「カレンがそれでいいのなら俺はついて来て貰えると助かるよ。勘というかどうにも侯爵家は信用ならない。用意が出来てるなら行こう。」



寝静まってからでは遅い気がして足早に部屋を出ていくとマリアベルが歩いてくる



「シンジ様、通用口はすでに塞がれています。侯爵家の家族しか知らない抜け道がありますのでそちらから行きましょう。今なら安全なはずです。カレンが抜け駆けしてるみたいですけど私もついていきますからね!」



「マリアベル、君もか。話してる余裕はなさそうだから安全な場所に行ったら話そう。案内してくれ。」



マリアベル先導の元、秘密の抜け道を通り何事もなく城を抜けリューズから脱出した

人気もなさそうだが安心はしない

すぐさまソニを出し乗車する



「んで、話して貰えるんだよね?第六感というか凄く嫌な感じがしたから抜け出したけど、不思議と二人からはそういうの感じないんだ。」



「はい、聞いて頂きたい事もございますのでお話します。」



やはり裏があったようだ

マリアベルの話を聞いていくと驚愕の事実というか予想されていた話が飛び出してきた



「全てはシンジ様が『旅人』だからです。古来よりこのエイジア大陸では『旅人』がもたらす技術やその特殊なスキルなどの恩恵によって栄えて来ました。しかしここ数十年『旅人』は来ず、新しい技術が生み出されない、一種の飽和状態でした。そんな所にシンジ様が現れたのです。

シンジ様が『旅人』だと知られなければまだ何とかなったかもしれません。

しかしあのようなアーティファクト、そしてユニークスキルを大勢の人間が見てしまいました。父上もローグナー大公に連絡をして兵が派遣されてくるみたいです。

逃げなければ今晩にも奴隷にされていたかもしれません。」



奴隷とは穏やかじゃないな

引き止めたかったりした理由はわかった

しかし、マリアベルやカレンが逃がしてくれた事はよくわからない



「君達はどうして俺を助けてくれるの?正直少し戸惑っているよ。俺に取り入った後で裏切られるんじゃないかとも思っている。

何故なのか聞かせてもらえないかな?」



マリアベルとカレンが侯爵家を裏切り俺についてきたのは実はソニのユニークスキルの影響が大きくあった事を後日知ることになる

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