第11話 その動き流水の如く

動かない簀巻きの人を残し、侯爵が見に行ったであろうキャンピングカーに向かう

知らないメイドさんに濡れタオルを渡され、拳を綺麗にしたマリアベルが先導する


来るときカレンの後ろ姿しか見てなかったから城の中全くわからんしね



「シンジ様お部屋をご用意しておりますので、当家に逗留してくださいね。」



侯爵家と懇意にしておけば楽観は出来ないが色々安心はあるとは思う

身の安全が保障されるかわからないが偉い人に知り合いがいればそれなりの恩恵はあるだろうと俺は了承する


それと鑑定出来る人がいるのなら『ソニ』を鑑定してもらいたい

如何せん『ソニ』の謎が多すぎる


何十匹とゴブリンを轢いても無傷、都内で燃料入れてここまで来るのに1日半走ったが燃料メーターが全く減らなかった

燃料メーターが壊れてるのならそれでいいが、もし燃料が減らないのならこれから先移動手段としてもセーフハウスとしても活躍してくれる

工具あるし後で燃料メーターは見てみようと思う


水のタンクは見てないけどこれも減ってない可能性あるな

ここで生きていくにしても帰るにしても俺のライフラインになるのは間違いない


それとアイテムボックス(材)

ちらっと内容を見たら木材が無限に入っているようだ、木材の材なのね…しかも無限て

俺のユニークスキル絶対建築基準法アーキテクトの検証もしたい

アイテムボックス(材)との合わせ技でとんでもないことになる気がする


まだ2つの村と街しか見ていないが、この世界の建物は基本的に木材の建物にレンガ壁

石灰や漆喰で壁を塗っているように見られる

遠目にだが見た屋根はオレンジ色というか赤茶色だったから多分粘土の瓦なのだろう

木造の建物もあったし、窓は普通にガラスが使われている


俺のスキルでガラスが作れるかわからないが、そういった仕事を受けてみてもいいかもしれない

とりあえず暇をみて街の外で試してみよう


しかしなんというかこの世界は近代的なのか中世みたいなのかよくわからない

見ているとすごいちぐはぐで稀に来るという『旅人』の影響があるように見受けられる

普通に洋服を着ているし、アオザイっぽい服の人もいればポンチョみたいな服の人もいる

文化入り乱れ状態とでもいうか

まるで東京みたいだなと苦笑していると車についた



「うーんうーん、これは凄いね!外側が全部金属なのもだが、この車輪の黒い材質はなんなんだろうか?固いけど柔らかい。馬車移動での振動軽減に繋がるね。」



他にも色々騒いでグルグル見回っている変態…もとい侯爵様がいた

鍵を掛けていったので中は見れていないようだ

とても車内に乗せたくない



「侯爵様、生活出来るようにもなっているのですよ。中、見てみますか?」



嫌々聞いてみる



「いいねー!見せてよ!それとシンジ君、ちょっと口調が固いかなー?ダグラスって呼んでよ!私と君の仲じゃないか!もっと砕けてしゃべってよー!」



この人、感嘆符多いな

初対面でどんな仲なのか知らないが俺はバインバインの女性としか仲良くしたくない


…まぁ本人が言ってんだから多少砕けた言い方にしますか

マリアベルもそうだったけど、この家の人はあまり拘っていないみたいだな



「わかりましたダグラス様。では失礼がない程度で…。鍵を開けたので入れますよ。」



気のすむまでどうぞ、とか言ったら何日も居座られそうなので言わない



「おー!ステップが低いから馬車と違って乗り降りしやすいね!ほほーう!ソファーがあるよ!?見たこともないものも沢山あるなぁ。シンジ君、御者席についている丸いのはなんだーい?あ、あの奥はどうなっているんだーい?それとこの扉はなんだーい?あれー?これはなんの為にあるのかなー?」



……めんどくさくなってきたな


日本だと所有してるしてないに限らず車の存在は当たり前にある

車の構造やパーツなんかは知らなくても質問をするってことは殆どないだろう

バスとかタクシーがあるのだし、ドアの開け閉めとかハンドル回せば曲がるとかね

当たり前の様にあるものを深く考える人は少ない

免許を持っていない人でもなんとなく見て理解しているからだ


でもこの好奇心旺盛な侯爵様、ぶっちゃけめんどくせぇ


当然初めて見るのだから気持ちはわからなくもない

でも、いちいち質問するときの距離が近い

しかも語尾を伸ばすのもウゼー

今もちょろちょろと移動しながらあちこち触ってる

子供か!


侯爵というからもっとドンッと構えた偉そうなおっさんかと思ったら、言動が子供のそれでしかない



「侯爵、落ち着いてください。気になるのはわかるけれど、全部が全部説明してたら1日では無理ですよ。ある程度質問を絞ってください。」



「えー?だったら明日も明後日も見るからよろしくね!あ、ベッドあるじゃん!今日ここで寝よう!それがいいね!うぐッ!」



いつの間にか車内にいたペドリスさんがまるで水が流れるように滑らかな動きで侯爵の首筋に手刀を打ち込み気絶させた


なにそれ当身で気絶とか本当にあるの?

てかそんなことして許されるの?

この家怖すぎるよ、拳血まみれ長女とか当主を気絶させる家宰とか


いや待てよ、反乱した身内を簀巻きにして顔がア〇〇ンマンみたいになるほどの暴行を加える家だもんな

しかもそれやったのが長女だもの


軽い眩暈を起こしたが深く考えないようにした

俺の精神の均衡の為に!



「シンジ様、ご当主がお疲れのご様子なのでこれにて失礼致します。なお、当家にてお部屋とお食事をご用意致しておりますので、本日はそちらでお休みください。」



慇懃な家宰は侯爵を肩に担ぎ行ってしまった


…もうやだ



「それではシンジ様、夕食の用意が出来ましたら呼びにきます。寂しくなったらいつでもお呼びくださいね♪」



俺担当になったらしいカレンがウィンクしながら部屋を出ていく

さっきまでと違いなんか妙に馴れ馴れしい

情緒不安定なのだろうか?


侯爵が気絶した後、気になっていた燃料タンクと水のタンクを調べたが、やっぱり減っていなかった

どういう理由なのかわからないが減ってないのならありがたい、でもガソリンも水も腐るしその辺りはどうなんだろう


まぁミネラルウォーターもあるしタンクの水は飲まなければいいので特に気にしないことにする


暫くぼーっとしていたらカレンが夕食の準備が出来たと呼びに来た

案内されつた食堂には侯爵とマリアベル、それと知らない女性と女の子が座っていた


指定された席に座ると侯爵に声を掛けられる



「いやーシンジ君、さっきはすまなかったねー!私は珍しい物とかアーティファクトを見ると興奮してしまって我を忘れてしまうんだよねー。普段から妻や娘に注意されているんだけどねー、どうにも申し訳ないねー!」



「お父様、そんなことより母と妹をご紹介ください。」



ダグラス侯爵はマリアベルに促され、家族を紹介していく

うん、侯爵に任せてたら終わりそうにないものね



「ははは、すまないねー!私の妻のリーザと娘のルイザだよー!名前が似てるけど気にしないでねー!」



うん、気にしてない



「リーザ様、ルイザ様。タカムラシンジと申します。馬車が壊れお困りであったマリアベル様をこちらまでお送りして参りました。」



「まあまあご丁寧に。シンちゃん、マリアちゃんを有難うございます。お聞きした所シンちゃんは『旅人』だそうですね。お時間があるときにお話をお聞ききしたいですわ。」



にこにことした柔らかい笑みのご婦人が話しかけてきた

初対面の人間にちゃん呼びはどうなんだろう

大分ぽわぽわしてるしきっとそういう人なんだろう

ちなみにマリアベルの母親だけあってとんでもない質量だ

何がとは言わない



「あら!お兄様は『旅人』なのですか!私もお話聞きたいです!『旅人』の世界はどのような世界なのですか?表にありましたアーティファクトみたいなものが沢山あったりしますか?あとどのようなお菓子がありますか?」



うん、間違いなく侯爵の娘だろうね、感嘆符多いし、お兄様呼びだし



しっかしなんだろこの家族

すげー疲れる

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