第2話 年末前に仕事を失った男

-1ヵ月前-



「篁君、明日から出社しても仕事ないからもう来ないでいいよ。」



そんな部長の声で始まった午後イチ


少し考えてみたが理由に思い至らない



「部長、それは事実上の解雇ってことなのでしょうか?」



別に退職しても当分食べていけるだけの蓄えはある


仕事内容もブラック寄りだったので辞めることも吝かではないが…



「そ、君上司の私や先輩社員に相談もなしに社長に直談判に行ったでしょ。

そういうのってさ困るんだよ、監督責任とか社長に怒られちゃったじゃない。」



そんなことは知ったことかと声をあげそうになったが踏みとどまった


今までは部長に直接説明や意見を言っていたが埒が明かないので直談判したのだが、お気に召さなかったらしい


結局この部長や社長は下の意見を聞く気がないのだ


やれ仕事が遅いだ、報告したかだのと


俺は水掛け論が大っ嫌いだ、言った言わないなど面倒なことこの上ない


遊んでいてもなんだしと、適当に職場を選んだのがいけなかったらしい



「わかりました、では本日付けで退職します。退職届は明日にでも郵送しますのでよろしくお願いします。」



何も年末の忙しい時期を前に退職させなくてもいいと思うが…


自分が引き継ぐわけではないから何も考えてなどいないのだろう


こんなふざけた会社はこっちからお断りだ


俺は机に戻り、私物をまとめ、隣に座っている社員に申し送りをする



「後藤さん、本日付で退職が決まりましたので今現在私が抱えていた案件の引継ぎをお願いします。こちらに資料データをまとめていますので参考にしてください。それと半年足らずのお付き合いでしたが、ありがとうございました。」



俺はダルそうにこちらを見た先輩の顔を見て、溜息をつきながら返事も聞かずカバンを持って会社から飛び出した



「はぁー、やってらんねーわ。いつも思うけど仕事続けられるかられないかって一番大切なことは人間関係だよな。ま、二度と会うことないだろうしどうでもいいけど。」



ポピ♪


携帯のSNSが作動した音が鳴った


会社の奴らだろうかなどと思った、…そういえば会社の奴らに教えてないね


子供の頃からの友人数名にしか教えてないんだったわ


溜息と同時に携帯を確認すると当然の如く友人だ


今日は溜息ばっかりでしあわせが逃げていきそうだな


SNSの内容は年末から正月にかけて1週間キャンプに行かないかとのお誘いであった


俺は即「今会社辞めたからいくらでも付き合うぜ、こんな時期だし次の仕事決めるの来年のがよさそうだしね。(*´Д`)」と返信


ふむ。キャンプか


最近行ってなかったし、半年しか会社に居なかったとはいえ一応ボーナスが出たのでそれ使って新しいギアとか買いに行くかな



『お前また辞めたのかよw1年以上務めた会社あるのか?てかいつも就職先を全く違う業種にすんのなんで?』



…俺だって辞める気なかったよ


新しい仕事を探すときは特に考えてなかったが心機一転するから仕事自体違う業種にしたいのかもしれん、指摘されて初めて気が付いた


ほっとけと返信しようと思ったら、他の友人らが家族連れで参加する旨を伝えてきた


うーん、全部で12人くらいかな


どうせ暇だろうから必要な物資の購入をしておいてくれと携帯に電子マネーが送られてきた


おい、家庭持ちの奴ら自分らで買ってこい、独身の俺に頼むな


なあ、独身の奴ら暇ならなんでもすると思うなよ?


お釣り返さないよ?あ、くれるの?そうですか…


そういえば親父がキャンピングカー買ったって自慢してたな、借りてくるかな


シャワーもトイレもあるから小さい子らも奥さん連中も喜ぶだろ



「てことで年末車貸してくんない?」



隣の県に住む親父に連絡を取った



「貸すのは構わない、正し傷つけたらどうなるかわかってるよな?しかしお前また会社辞めたのか。…そろそろ稼業継ぐ気になったか?じいさんもお前の弟もいつ戻ってくるか気にしてたぞ、それと孫はまだかってよ。どうせ結婚する気すらねーだろうけどな。」



ガハハと笑い飛ばした親父、なんだろ俺は俺なんだからほっといて欲しい


面倒になったのでキャンプに行く2日前に車を取りに行くとだけ残して電話を切った

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