7 一章 最終話

 「魔法少女という存在はありません。代わりに対異課と呼ばれる日本警察が仕切る部隊が存在します。

 退異課は今日あなたが見たような不可解な世界に点在する怪異を物理的な方法で排除する部隊のことで、人材不足のため我々のような未成年も起用されています。そこにあなたの恋人、白戯吹雪さんも対異課に十二歳の頃から身を置いていました。

 白戯吹雪さんは第六感による異世界への出入り、防御、攻撃、全ての出力が超高水準だっただけでなくある程度の想像を具現化するという第七感がありました。相当に希少な能力です。しかも私のようにマグナムやマスケット銃を生成する程度ではありません。もっと壮大なものを作ることが出来ました。

 彼女は覚悟を決め戦い続けました。その結果怪異に感情を奪われその結果自死の考えが脳に現れたのです。

 ……好きな人からプレゼントを貰っても、デートに誘われても、罵詈雑言を浴びせられても、何も感じない自分に嫌気がさしたんだと、彼女の日記帳に書いてありました」


 渡された日記を数ページぺらりと読んでみる。


 「ううぅ…………」


 俺のことばかり書いてあった。

 その中に俺への暴言は書いていなかった。

 どうやったら東雲迷路に喜ばれるか、どうやったら東雲迷路に褒めてもらえるか、どうやったらどうやったらどうやったら……彼女の日記帳は悩みだらけだった。葛藤ばかりだった。けれど不満は見えなかった。


 「あああああああああああああああああああああああァ!」


 最後の日までは。

 最後の日、彼女が自殺した日。

 俺が彼女を殺した日。

 吹雪は化け物によって感情が無くなっていた。元々無感情な吹雪の大切な感情が失われていた。

 彼女は無感情という闇の中で何を思い何を感じただろう。……何も感じなかったんじゃないだろうか。そんな中、生きる気力はあっただろうか。少なくとも死ぬ気力よりはあったと見ていいだろう。なぜなら日記帳に記載されている感情が無くなった日は最後の日の四日前だからだ。四日前から感情が失われていた。でも生きてはいた。生物的本能というものが勝っていたのだ。

 ならばなぜ自殺したのか。

 それはおそらくこの日記帳に記載されている内容によるものだろう。この日記帳にはとにかく東雲迷路のことが沢山書かれていた。とどのつまり、恥ずかしい話だが彼女がそれだけ東雲迷路のことを――俺のことを愛してくれていた。つまり彼女はこの日記帳を見て出来る限り過去の自分を演じていた。

 感情が無くなっても、過去の自分と俺のことを大事にしてくれた。

 感情がなくても優しかった彼女に俺は何をしただろうか。

 感情を押し付けた。

 どれだけ残酷なことだろう。彼女は無いものを押し付けられて、その重みに耐えられなくなって自殺してしまった。

 彼女はなぜ自殺したのか、それは好きな人に何をされても何も感じなかったから。彼女がこの日記帳を開いたとき、彼女は俺のことを素敵な男だとでも思ったのだろう。何せそう書いてある。自分でそう書いたのだから疑うわけがない。それを見て、そんな奴になんて言われたのか、俺は吹雪のことを「酷い奴」だとか「怖い」だとか言った。挙句の果てには「死ね」とまで言ってしまった記憶がある。

 彼女は本当に死んでしまった。

 俺のことをいい人だと思いながら。


 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァ!!!」


 本当に死ぬべきなのはどちらだっただろうか。

 俺は最低な奴だ。世界で一番愛している人間が苦しんでいる時に放った言葉が悪口なのだから。

 ああ、この口が悪いのか。この喉が悪いのか。彼女のように無感情でもないのに人の気持ちがわからずに呑気に悪口が出てくるこの喉が悪いのか。

 ならいっそ、潰れてしまえ。


 「ま、待って!」


 俺の喉を潰そうとしている手を芽目野さんが止める。

 芽目野さんの声は焦っていたのか上ずっていた。


 「白戯吹雪は死んでいません! 生きています!」

 「はァ!? 何言ってるんだよ! 吹雪は飛び降り自殺したんですよ! 葬式もやりましたよ!」

 「じゃあ目の前のこれは何? あなたなら見まがうはずがない白戯吹雪でしょう!?」

 「じゃあ何なんですかこれは……」


 手から力が抜けていく。俺が自分の喉を潰さないとわかった芽目野さんは手を放し、俺の横に立って吹雪の顔を見上げながら話し始めた。


 「彼女は戸籍上では死にました。ですが肉体は生きています。吹雪さんはビル九階の高さから落ちたくらいで死にませんでした。とっさに第六感で防御したんです。その結果瀕死にはなったものの奇跡的に死には至りませんでした。施設で治療をしてもう体は万全とは言えませんが日常生活に大きい影響が出ないくらいにはなりました。しかし怪異に奪われた感情は元に戻らず、また自殺しようと考えてしまう可能性と危険性を考慮してこうして肉体を保存しているんです」

 「……じゃあ、なんで俺をここに呼んだんですか? 兵士の恋人くらい放って置きゃいいじゃないですか」

 「あなたに怪異を殺す才能があったからです」


 芽目野さんは早口でそう答えを返していく。


 「我々の調べによればあなたの基礎体力、第六感の覚醒、または第七感覚醒の予兆がありました。対異課への勧誘です」

 「そうですか……でも、それでも、なんで俺をここに呼んだのかまだわかりません。黙っておいた方が何かと得なこともあるでしょうし、おれがここを壊して死体だけ持っていく可能性もあるでしょう? でも、それでもここまで見せたということは」


 神様の石じゃなくて、どちらかというと神様の意思ってことですか芽目野さん。


 「あなたの思う通りです。白戯吹雪が失った感情を奪い返せば彼女は生き返れます」

 「じゃあその化け物を倒さなきゃ吹雪は生き返らないってことですね?」


 この話によると、相当に強い化け物なんだろう。

 この組織で倒せなかったのだから、芽目野さんより強い能力を持っている吹雪が勝てなかったのだから、それこそ冗談ではなく軍隊を半壊できるくらいに強い化け物なのかもしれない。


 「……そうです」


 もしも、もしも神が居るのならそいつは職務怠慢でクビだ。だからきっと神様なんかいない。

 そう、俺はずっと忘れていた。

 この世に神が居ないことを。

 救いもなにも、あったもんじゃあなかったということ。

 天国はないくせに地獄はあることを。


 「芽目野さん取引をしましょう。俺はその対異課に入ります。命を燃やす覚悟で戦います。だから、だから…………」


 俺は忘れていた。

 人と関わることを。

 己の弱さを。

 そして、


 「……吹雪の心を殺した化け物を倒すのを手伝ってください。お願いです……」


 誰かに助けを求めることを。

 芽目野さんは俺のことをぐっと抱き寄せる「吹雪さんじゃなくてごめんさないね」と言い、俺の目元の涙を拭いながら、宥めるようにはにかんだ。


 「当然だよ、東雲君。君の恋人は、吹雪さんは、絶対助けよう」


___________________________


あとがき

更新が大変遅くなってすいません。

実はこの続きが思いつかず、このまま続けていいのかと考えていましたが、もうどうがんばっても思いつかないのでここで最終回にしようと思います。

ですが、続きを思いついたときのために今のところ完結済みにすることはありません。都合によって完結済みにするかもしれません。

ここまで読んでくれた方、ありがとうございました。


評価ポイントを貰えれば、続きが思いつくかもしれま(((

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ニートが魔法少女とオフ会したら地獄に連れてかれた。 夜橋拳 @yoruhasikobusi0824

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