5
どうやら神様と対話をするには指定された場所に行かなくてはならないらしく、俺と芽目野さんはその場所へ移動する途中だった。
その場所について、芽目野さんは何も答えなかった。俺が「その場所ってどういうところなんですか? 神社とかなんですか?」と聞いても「着けばわかります」と冷たくあしらわれた。というか、結構おしゃべりな芽目野さんが歩いている間一切話さなくなったのが不思議でならない。「神様の石ってレアモノなんですか?」とか「さっきの銃どこから出したんですか?」とか俺の質問は全て無視である。
芽目野さんは怒っているときでも無視はしなかったし、全てのことに対してそれなりにいい態度で接してくれたのになぜ無視するのだろうか。
なにか、嫌な予感がする。
というより、元々願いを叶えるなんてこと自体嫌な予感しかしない。
どうせどこか高級なホテルにでも連れていかれて、その中から景気のいい金持ちが出てきて端金で解決できる程度の願い事しか叶えてくれないのだろう。確かにある程度はそれで叶うかもしれない、でもそれじゃダメだ。
だって俺の願いは本当の神様にしか絶対に叶えられない願い事。
そう、俺の本当の願い事は……
「着きましたよ」
やっと芽目野さんが口を開いたと思ったらどうやら着いたらしい。
「ここって……」
この場所を俺は知っている。
地図に乗っておらず、絶望的な生活力のせいで迷い込んだ小奇麗な廃病院『超絶地獄病院』だ。
芽目野さんはバリケートを超えてその廃病院の中へと入っていく。
「ちょ芽目野さん。勝手に入っていいんですか?」
「ここですから」
芽目野さんは首をくてりと猫のように曲げて答えた。
「ちょっと、ここどこなんですか!?」
他にも聞きたいことはあった。あの化け物は何なのかとか、あんたの目的は何なんだとか、なんか雰囲気でわかったけどこの人の願いは安定した衣食住じゃない。もっと他のことをうるさく聞くつもりだった。
でも俺は次の芽目野さんが発する言葉で黙りこくることになる。
「地獄です」
芽目野さんはさらりと、あまりにもさらりと説明した。
「え? ……はあ?」
訳が分からない。何が起きているんだ。
「言っていたじゃないですか。地獄に行きの切符が欲しいって」
今気づいたが、芽目野さんの口調が変わっている。頭が悪そうなタメ口と敬語が入り混じる明るい口調ではなく、無感情で最小限の言葉しか話さない敬語になったいた。
「入りますよ」
呆然としたまま、俺は中に入った。
******
「なんだ……これ」
廃病院の中には多くのベッドが敷き詰められるように並んでいた。ベッドとベッドとの間にかろうじて人が歩けるスペースがある。
そしてそのベットにはたった一つの例外もなく人が寝ていた。頭部にタオルを被せられて。
汗を腐らせたような、そんな気持ち悪く、さっきの化け物よりも質の悪い臭いがする。
そこは本物の異常だった。
「こっちです」
振り返りもせずただ進むだけの芽目野さん、さっきまでの態度が全て虚像だったことに気づくには十分だった。
ベッドの間を縫うように進み、芽目野さんを追う。
芽目野さんは階段を降りていった。
ここは一階のはずなのだが、地下室に神様はいるのか。
二百段ほどの病院にしては長すぎる階段を降りきった。その間も芽目野さんは一言も話さなかった。
そこは辺りに鉄格子や鎖が敷かれている、物理的にも精神的にも暗い場所だった。
地獄……というより牢獄と言った方が正しいような、穏やかとは縁遠い所だ。
人間の手で地獄を作り上げたのなら、こんな場所になるだろうとはっきり言える所だった。
「東雲迷路さん」
「……なんです」
「あなたの願いは何ですか」
「……」
「言ってください」
芽目野さんは殺すような視線でこちらを見つめていた。
……俺は本当のことを言うことにした。別に隠す必要もない、ここまで異常なモノを見せられては隠そうと思う気にもならない。
「……自殺した恋人に文句が言いたいいんです」
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