第2話 マッドサイエンティストの場合

「あんたたちなにをやってるのよ!この役立たず!」


異常なほどに筋肉が隆起した戦闘員たちがバタバタとやられていく。


魔王軍研究班研究長、カマオ博士。魔王軍研究班のトップにありながら、研究成果を直接確認することがポリシーであったが今回ばかりは後悔していた。


「これで終わりか?オカマ野郎!」

勇者が最後の戦闘員を切り倒し、カマオ博士に剣を向けて叫ぶ。


(量を生体限界ぎりぎりに調整してある程度ではダメね…人間を辞めないと神の加護を得ている人外勇者には勝てないようね…)


「ああ!もう!美しくない!本当に美しくない!」

髪を掻き乱しながらカマオ博士が金切り声をあげる。

「美しくないから使いたくなかったけど、研究所を潰される訳には行かないししょうがないわね…」


カマオ博士は自身の首に注射を突き刺す。


「ワタシノ!ケンキュウノ!ジャマハ!サセナイ!」

カマオ博士の白衣が裂け、血管が浮き上がり、筋肉が盛り上がり、体全体も巨大化していく。


(私はもう無理だけど私の育てた研究員達がいずれ勇者を倒してくれる…勝てなくても撤回くらいはさせないとオカマの名折れよ!)


5mを越す巨漢となったカマオ博士は拳を振りかぶり勇者に向けて振り下ろす。


「はっ!オカマがただでかくなっただけじゃねえか!さっさと始末してやるぜぇ!」

勇者もそれに応じて走り出す。


拳をひらりとよけ、振り下ろされた腕に飛び乗り首に向かって駆け上がる。


「死ねぇぇぇ」

勇者が首に切りかかる瞬間


「イヤ…!」

蚊を叩くように平手を自身に叩きつけるカマオ博士。


嫌な感覚がカマオ博士の手のひらに伝わる。


「キモチワルイ…」

人間を手で潰すという感覚に、倫理も裸足で逃げ出すような実験をしているカマオ博士であっても顔をしかめる。


(なんか勝っちゃったわね…)

壁に勇者だったものを擦り付けながら少し冷静になる。


(そういえばこの体どうしましょ…元に戻らないのよね…)

冷静になってしまったゆえに気づきたくない事に気づいてしまった博士。


「イヤァァァ」

研究所に悲しきモンスターの叫び声がこだまする。


カマオ博士が手塩にかけた弟子たち。つまり貴重なサンプルを前にした研究意欲の旺盛な研究員達に見つかった博士。研究長としてでは無く、研究体として魔王軍の糧となるのはまた別のお話。

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