勝っちゃった

雪犬

第1話 爆裂魔法術士の場合

「はぁ…はぁ… すばしっこいやつめ…!」


 止めどなくなっていた爆発音が止み、土煙がかすかに舞う中、勇者は依然健在であった。


 爆裂魔法を得意とする魔王軍幹部メグミル。

 あらゆる障害を爆裂魔法で薙ぎ払ってきたメグミルにとって、爆破する座標が決定され、爆破するまでわずかな時間の間に効果範囲を走り抜けられてしまうなど初めての経験であった。


「はっはっは!もう貴様の攻撃は見切った!」

 勇者が高笑いをしながら走る度、ソニックブームが起き、周囲の土煙を晴らしながら突っ込んできて一撃あてて逃げていく。


 魔王軍幹部の圧倒的ステータスをもってしても、音速を超える速度で攻撃され続け、攻撃にソニックブームの衝撃が加わるとあらば、何度も受けられるものでは無い。


(まさか1発も当たらないとは…もう手段は選べぬか…)


 メグミルは次の爆裂魔法にすべてをかけるため、普段であれば距離をとり相手に優位位置から爆破するための転移術式を全て解除し、リソースを全て爆裂魔法に回す。


(私が持つ全ての魔力を爆裂魔法に…!勇者早いが急には曲がれない。勇者が走る延長線上を全て爆破する…!)


「行くぞ!勇者よ!!!!」

 メグミルが吠える。


「はっはっは!次でトドメ刺してやんよ!」

 魔法の発生を感知した勇者が走り始める。


「まだだ!」

 術式を並行発動し延長線上に座標を固定し同時に爆破する。


 爆発が横一列に同時に爆破し炎の壁ができ、少し遅れて、衝撃波が突風となりメグミルに打ち付ける。


「やったか!?」

 メグミルはその一言を放ってしまった。いい切った後、気づいてしまった。


「まずい…代々伝わるシボウフラグを唱えてしまった…」


 この爆裂魔法使用者に代々伝わるシボウフラグ。数あるシボウフラグのうち、爆発系能力者、つまりメグミルが唱えてはいけない最も忌むべき言葉なのである。


 が、先程までであれば土煙から飛び出して一撃食らわせてきても良い頃だが勇者の攻撃がない。


「ふむ…一応、爆心地を確認するか…死亡を確認せずに立ち去るのもシボウフラグとの言い伝えもある」

 魔力枯渇状態でフラフラになりながらもメグミルは爆心地に近づく。


「うわ…グロ…」


 爆心地には背中側がえぐり取られた勇者の死骸が転がっていた。


「さすが勇者という所か…並のものなら形も残らず肉片が転がるのみというのに」

 シボウフラグに怯えているメグミルは念の為、勇者の頭を小さい爆裂魔法で爆破する。


「なんか勝っちゃったな…」

 そう呟いたメグミルの呟きは土煙と共に空に消えた。


 その後魔王軍幹部メグミルはシボウフラグを断ち切るものとして祭り上げられ、魔王軍をさらに強固にするのだがそれはまた別のお話。

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