第16話 力が抜けたおかげで

 わたしは、助かった。

 力が抜けたおかげで、足が伸びた。そして伸びたその足が、ざらざらとした物に触れて、それが砂であることに気付いた。気を失う寸前に、海の底に足が着いたことに気付いたのだ。舟の櫓を追いかけている内に、なんとか浅瀬の浜辺に辿り着いていたのだ。

 その夜に、少年にされた仕打ちを身振り手振りを交えて父に訴えた。いかに非道な仕打ちを受けたか、そしてどれほどの恐怖感を味わったか、もう死ぬかもしれないと覚悟をしたことを涙ながらに訴えた。しかし父は、海の家で精根尽き果てて寝込んでいたわたしを、こんな恐ろしい目に遭ったわたしを「お前って奴は。今日はここにいろと言ったのに。聞き分けのない奴だ」と、あの優しい父が叱ってきた。

「どうしてなの、父ちゃん。あいつがわるいんだ。一生けんめいにかえろうとするぼくを、助けるどころかじゃましたんだ。いや、ぼくをころそうとしたんだ。ぼくがわるいんじゃないよ、父ちゃん」

 必死の思いで訴えた。しかし哀しげな表情をするだけで、わたしを慰めてはくれなかった。どころか「そんなことを言うもんじゃない。今度会ったら、その子にお礼を言いなさい。その子のお陰で、お前は助かったんだ」と、げんこつで、軽く頭をこずかれた。

 少年がわたしに対して、なぜそのような行為をとったのか、わたしには分かっている。わたしは足手まといなのだ、邪魔者なのだ、少年にとって。この浜辺を南に進むと、岩場がある。大きな平らな岩があり、海辺の岩はゴツゴツとしていて、崖がある。この崖はあの小島とは違い、5、6メートルの高さだ。絶壁となっている。

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