第12話 トンボロ現象が

 海の家での生活は、町(まち)中(なか)での生活とは違い、まるで時間の進み方がゆっくりとしていた。朝はよしずから差し込む強い朝の太陽の光で目が覚める。炊事場のない場所のことゆえ、どんな朝食を摂ったのかはまるで分からない。おそらくはお握りか何かで済ませていただろうと思う。

 食事で言えば、お昼は父も母も居ないことなので、適当に済ませていた。海の家で出される焼きそばなり中華そばなりを食していたと思う。そして夜には、一家揃って食堂へ出かけた。

 そうだ、スイカを食べた記憶がある。勿論普通のスイカではあるけれども、八つ切りの三日月状態とかのカットされたものではなく、スイカ割りに興じた後で二つに割れたそれを、多分大きめのスプーンを使ってパクついた。顔を突っ込むように食べて、「犬喰いはやめなさい」と、確か叱られたはずだ。

 一日の過ごし方で言えば、朝食の後には太陽に熱せられている砂地を裸足でピョンピョンと駆け抜けて、海に飛び込んでいく。そして大波が寄せてきた折に、後ろを向いてソファにドスンと座るような仕草をとった。

 大きく息を吸い込み、息を止める。それから鼻を指でつまんで海水が入らないようにした。より大きな波が来ると、体重の軽い私などは波に押し返されて、でんぐり返り状態になったこともあった。

 しかし一番の楽しみは、何といっても海岸から100メートルほど離れていた岩だらけの島ー小島での遊びだった。普段は海で隔てられている陸地と島が、干潮時のみにだけ地続きになるトンボロ現象が起きるのだ。

 午前中だったか午後だったかはもう覚えてはいないが、比較的長い時間を遊んだ場所がある。その小島は、海岸から見て右側が険しい状態で、左側は少し砂地があった気がする。

 私は大体左側の砂地で、干上がった折に取り残された魚や蟹類を捕まえて遊んでいた。兄ともう一人地元の少年は、右側になる2、3メートルほどの高さの崖から飛び込みをやって遊んでいた。

 私も一度だけその場所に立ってみたけれども、見慣れている青い海ではなく碧い色を見て足がすくんでしまった。地元の少年に「男なら飛び込んでみろ」と囃(はや)されたけれども、どうしてもだめだった。なので二人が素手で魚を捕まえる様をただじっと見ているだけだった。時折岩肌に投げ上げられるフグが、お腹をプーッと膨らませるのが面白く、何度もせがんだものだ。

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