ノンハクション!! ~クラスメイトの心の声が聴こえてきたりとか俺には関係ないけど、拙者はそんな二人を応援しているでござるよニンニン! なお、恋愛は他人事ではなかった模様~

 索敵は基本中の基本でござる。パートナーの糞人くそんちゅ氏にインカムで偵察機発進の指示を出して拙者は大きく迂回するでござる。

 索敵は基本、と言ったでござるがあくまでレーダーに反応させて艦載機による爆撃を可能にするためでござる。それがしの心眼はとっくに奴等きゃつら尻の黒子オリオンの位置までお見通しなのでござるよニンニン。

 糞人氏に正面を任せ、拙者は相手艦隊の真後ろへと回り込むでござる。挟み撃ちという訳でござる。

 相手艦隊に対し直角に艦首を向けるでござる、いわゆるT字戦法でござるな。これも基本でござる。相手がこちらに気付いて慌てて散開しようとするでござるが、途中で散開を中止し糞人氏の方へと全艦の砲台を動かしているでござる。ランクの低い糞人氏から先に倒そうという腹積もりでござろう。

 相手艦隊は5隻。かたやこちらの糞人氏は一隻。真正面からぶつかっても勝ち目はないでござる。相手からしたら絶好のカモ。愚行中の愚行。ござるも木からござる。


 そう思うござるじゃん?


「糞人殿! 派手にやるでござる!」


「はい元帥さん! 全弾発射!」


 拙者の指示に可愛らしい声で応える糞人氏。

 合図と共にブラックホール主砲キャノン、アンチリアル副砲カノン、そしてマイクロミサイル、トライデント航空隊といったサブウェポン全てが一斉に火を吹いたでござる。

 圧倒的火力が先頭にいた2隻をあっという間に沈めたでござる。さすが神からの贈り物運営のプレゼントは桁が違うでござるよ、おろ~。

 後ろに控えた戦艦がたまらずお返しに主砲を放つでござるが、糞人氏の船に届く前に光のバリアに阻まれて消えたでござる。


事象否定障壁フェノメノンキャンセラーだとぉお?! 一体いくら課金してやがる!」


 相手艦隊の総司令が負け惜しみを言っているでござる。


「やれやれでござる。弱い奴は負けるとすぐ灰課金者呼ばわりしてみっともないでござる」


 リリース400日記念の4時44分に一度だけ開かれたシークレットイベント「超未来アストラルイベント」の1位報酬として与えられたぶっ壊れ装甲「事象否定障壁フェノメノンキャンセラー」。戦闘開始から2分間の攻撃を全てキャンセルする神からの贈り物運営のプレゼントでござる。400日記念という微妙なタイミングでのイベント開催となった為に参加者はなんと始めたばかりの初心者であった糞人氏ただ一人だったらしいでござる。当然唯一の参加者だった糞人氏が1位となり、見事に最強装甲を手に入れたのでござる。

 装甲だけじゃないでござる。糞人氏はリアルラックがカンストしているでござる。その後のシークレットイベントも一人だけの参加となってブラックホールキャノンやマイクロミサイルといった武装も手に入れたでござる。アンチリアルカノンなんかはクリスマスイブの深夜12時24分に一人だけのチームを組んでチーム対抗戦に参加すると特殊イベントが発生するというクリぼっち救済イベントでござったが、これも誰も気付かずに糞人氏だけが参加となり見事1位報酬をゲットしたでござる。糞人氏が「運営に愛されし女神」と呼ばれている由縁でござるな。


「おっと、糞人氏にばかりいい格好はさせられないでござるな。モクモクスモーク発射でござる」


 煙幕弾を発射。海域が全て煙に包まれたところで専用コントローラーの操縦捍を一気に倒し、全速力で相手戦艦の脇腹にピタリとつけるでござる。

 

「なにぃ?! こいつ煙幕の中でも見えてると言うのか!」


 見えてる訳ないでござろう。全て予測でござる。この海域は拙者の手の中でござるよ。


「ゲームセットでござる。零距離発射を喰らうでござる!」


 超至近距離で放たれた拙者の主砲をマトモに被弾し、相手戦艦は沈黙。煙幕が残っている間に残りの2隻も沈めるでござる。

 拙者の艦はスピードと主砲の一撃に極振りした実にピーキーな船でござる。装甲は紙でござるから一発でも被弾したら終わりでござるが、拙者は今まで一度も被弾した事はないでござるよニンニン。


 テレテレテレッテレー♪ コングラチュレーション!


 軽快なファンファーレと共に勝利を告げる機械音声が響くでござる。

 またつまらぬものを沈めてしまったでござるな。


「やったあ! 公式戦100連勝達成ですよ元帥さん!」


「糞人殿のおかげでござるよ」


 おっと、戦った相手への敬意も忘れてはならんでござる。


「試合してくれてありがとうでござる。強かったでござるよ」


「ボコボコにしといてよく言うぜ。さすが舞鶴の元帥が率いる『終末論エスカトロジー』だ。いい経験をさせて貰った。じゃあな」


 プツンッと乱暴に通信が切れたでござる。

 「終末論エスカトロジー」とは糞人氏と拙者のチーム名にござる。糞人だからスカトロとかけたのでござるが、意外にもこの名前を「カッコいいですぅ!」と糞人氏が気に入ってしまいジョークだと言い出せずに後悔しているでござるよ、おろ~。

 もう糞人氏と組んで半年以上になるでござるが、最近では好敵手と呼べる相手もいなくなってしまったでござる。手に汗握る試合なんてずっとしていないでござる。


 潮時かもしれぬでござるなあ。


 しかしでござる、拙者がこのゲームを止めてしまったら糞人氏は一人になってしまうでござるよ。

 糞人氏との出会いは10ヶ月前。このゲーム「提督ロワイヤル」を糞人氏がやり始め、事象否定障壁フェノメノンキャンセラーを手に入れた時の頃でござった。

 悪質なプレイヤーに詐欺まがいのトレードを持ち掛けられフェノメノンキャンセラーを騙し盗られそうになっていた所を拙者が助けたのでござる。

 基本、このゲームはインカムをつけて自分の音声でコミュニケーションを取るでござる。糞人氏の可愛らしい女の子の声は悪い虫をどんどん惹き付けたでござる。その度に拙者が間に入り追い払ったでござる。

 拙者もその頃には提督ランキング1位になっていて、T@MAタマというプレーヤーネームがあるのにも関わらず、本拠地ベースに設定していた舞鶴を頭につけて、海軍トップの称号、「舞鶴の元帥」と呼ばれて一目置かれていたでござる。トッププレイヤーの拙者と組む事で糞人氏も変な虫が寄り付かないようになったでござるよ。

 それに、相性も良かったでござる。

 艦隊を組むには「コスト上限」があるでござる。大体コスト範囲内で4~5隻で組むのが主流でござった。しかしでござる、強力な武装ほどコストが高く、超未来武器をこれでもかと詰め込んだ糞人氏の船は一般的な船の4.5隻分もござったのだ。だから誰とも組めなかったのでござる。普通ならソロでやるしかないでござるが、拙者は低コストの船を操りプレーヤースキルで勝負するのが好みのスタイルでござった。糞人氏と組んでも丁度コスト上限ピッタリだったのでござる。

 拙者は出会うべくして出会った、運命の相棒だとも思っているでござるよ。

 「提督ロワイヤル」には限界を感じているでござるが、糞人氏とは別れたくないというのが率直な気持ちでござる。


「そうだ糞人殿。新しい曲が出来たでござる。聞いて欲しいでござる」


「本当ですか? わあっ、楽しみです!」


 恥ずかしながら拙者はアイドロイドという自動歌声ソフトを使って楽曲を作っているでござる。いわゆるアイドロイドPという奴でござるよ。


「メールに添付して送っておくでござる。……送信完了でござる」


 ありがたい事に糞人氏は拙者の作る曲を気に入ってくれてるでござる。


「来ました! ありがとうございます、早速聴いて……っと、もうこんな時間。すみません、お風呂入りながら聴いてみますね。まだ起きてます?」


「じゃあ勉強しながら待ってるでござるよ。感想を聞きたいでござる。今回のは自信作でござる」


「わかりました、じゃあ30分後」


「了解でござる」


 通信を切り、インカムを外す。


「ふぅ……糞人さん気に入ってくれるかな」


 新作は本当に自信作なんだ。新しい扉を開けたと思ってる。

 え? 口調がおかしい? どちらかと言えばゲームをやってる時がおかしいんだ。インカムをつけると何故かござる調の喋り方になってしまう。自分でも無意識で原因不明だ。でも本当の自分は口下手で話すのが苦手だから、インカムを着けてああいう風になってしまうのはむしろゲームをやる上では助かっている。今じゃゲームも自分の声で話しながらが当たり前だからな。


「さて、勉強にはBGMっと」


 パソコンを操作して「提督ロワイヤル」をスリープ状態にし、ミュージックフォルダを立ち上げる。ダブルクリックで糞人さんの歌声が部屋を包み俺を癒してくれる。

 俺が曲を送ると、糞人さんは自分の歌声を入れてくれて送り返してくれる。それを聴きながら勉強するのがルーティーンだ。

 糞人さんは普段の喋り声は高くて可愛らしいのに、歌うとハスキーで妙に艶っぽくなる。それが俺の曲にピタリとハマって、無敵になるんだ。

 いっそ、提督ロワイヤルの外でも誘ってみようか。

 今年は受験もある。ゲームだってやり続けてはいられない。

 だけど、糞人さんとはこれからも話したい。俺の作った曲を歌って欲しい。こんな気持ちを抱いた女性は初めてだ。


 ん?


 ……ひょっとして、俺は恋をしてるのか?


 まさか。稲村じゃあるまいし、ピンク脳はアイツと杉野だけで十分だろう。高校生だからって誰もが恋愛する訳じゃない。

 でも、確かに今日の稲村のスピーチはカッコ良かった。杉野が羨ましくなったぐらいだ。くしゃみで気持ちがわかってるんだからさっさと告白すればいいのに、自分のレベルを上げてからなんてお前は僧かよ、って感じだけど。


 頑張る理由を見つけろ、か。

 彼女が歌ってくれるなら、俺は何でも出来るかもしれない。


「おっと、30分だ」


 時間に気付き、慌てて「提督ロワイヤル」を立ち上げる。既に画面には通話ボタンが点滅していて、インカムを装着し電話のマークをクリックするでござる。

 

「すごいですぅ! 元帥さん天才です!」


 第一声から糞人氏はひどく興奮していたでござる。拙者の新作がよほど気に入ったようでござるよニンニン。


「それほどでもでござる」


 謙遜するのが日本人として正しい反応でござろうが、糞人氏の弾んだ声が嬉しくてつい調子に乗ってしまうでござる。


「すごいなあ。ゲームも上手くて作曲も出来て。元帥さんて頭もいいんですよね? 宇野川北高校の3年生なんでしたっけ」


「ござる。といっても学校では真ん中ぐらいの成績でござるから大した事ないでござるよ」


 杉野氏や稲村氏なんかは化物でござるからな。あの二人と一緒のレベルだと思われるとやってられないでござる。

 

「宇野川北に入れるだけでもスゴいですって! あの……私、元帥さんの学校からそんなに離れてない所に住んでるんです。十分電車で行ける距離なんです」


「そうだったでござるか! 意外にご近所かもしれぬでござるなあ」


「その、だから、会いに行こうと思えば会えるっていうか」


 急に糞人氏の声のトーンが下がってモジモジとしおらしくなったでござる。


「でござるなあ。その気になれば会えるでござるよ」


 拙者がそう答えると、糞人氏ははっきりとした口調で言ったでござる。


「会いませんか?」


「え?」


「二人きりで、オフ会、しましょう」


 ござる?


 

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