06話.[不機嫌そうな顔]
この前までずっと利用していた公園で待ち合わせをしていた。
そしてその待ち合わせの相手が姉だというのだから面白い話だ。
「ごめんなさい、待たせてしまって」
「ううん、大丈夫だよ」
学校帰りにそのままだからお互いに制服のまま。
姉はそのままこちらの手を掴むと歩き出そうとする。
なんだろう、最近はすっごく一緒にいてくれるようになった。
これまでは面倒くさそうにたまに私のところに来るぐらいだったのに。
「どこかに行きましょうか」
「あ、お金を使うことはもうやめてね、お姉ちゃんに負担をかけたくないから」
「気にしなくていいわ」
いや、金銭感覚がおかしいからこっちが止めておかなければならない。
ちなみに今日は由愛も嘉代も家には来ていない、用事があるからみたいだけど。
「最近、嘉代や由愛と仲がいいようね」
「うん、ふたりとも優しいから」
「嫉妬するわ」
でも、どうしてあそこまで優しくしてくれるのかがやっぱり分からない。
だって近くにいる姉になにひとつとして勝っている部分がないからだ。
「嫌なことは嫌って言いなさい」
「嫌じゃないけどね」
「やっぱり家に帰りましょう」
え、それじゃあ外で待っていた意味がないじゃん。
まあ、寒いし冷えていたからいいんだけどさ。
私個人的には姉ともゆっくりお出かけみたいな姉妹らしい時間を過ごしたかった。
「なんだか久しぶりね、ふたりきりなのは」
「確かにそうだね、最近は必ず由愛が来ていたから」
特に話し合う必要もなく私達は夜ご飯作りに励む。
相変わらず手際の良さでこちらを圧倒してくれる姉だけど、少しだけ集中できていないようだった。
それでもなにも言ってこないということは勘違いの可能性もあるのでこちらは集中していく。
「「いただきます」」
出来たらそのまますぐに食べてお腹を満たしていくことに。
「楓」
「どうしたの?」
「今度、両親が戻ってくるそうよ」
「え……」
そんなことになったら家でゆっくりすることはできなくなる。
いつ頃からと聞いたら来週の月曜日からということだった。
今日はもう木曜日で、もう終わりかけていて。
当然の話だけど確実にそのときが近づいているわけだ。
「大丈夫、今度は私がきちんと言うから」
「駄目だよ、いいよ、私がまたある程度は外で過ごしておけばいいんでしょ」
多分、由愛か嘉代が少しは付き合ってくれるはず。
ちょっと前までとは違うんだ、悲観的になっているわけにはいかない。
それに姉になにかがあったら嫌だから、変に庇えば敵視される可能性が上がる。
大丈夫、学校で過ごしてから帰ればいいんだから。
「いまは由愛も嘉代もいてくれるから大丈夫だよ、だからお姉ちゃんは余計なことをしないでね」
ご飯が少なくなっても、お風呂が最後になっても、寝る時間が遅くなっても。
前とはなにもかも違うんだから耐えられる、なにも問題はない。
姉がそんな顔をする必要もない、私が折れていればなにもかもが上手くいくんだ。
月曜日になった。
今日は両親が既に帰ってきているだろうから早速実行をする。
「お、いた~」
「由愛は帰らなくていいの?」
彼女も母親に叱られたとかで家には来ていなかった。
一応従っているのだと考えていたけど、この様子を見ると少し違うみたいだ。
「私も遅くまで残っていようと思ってね」
「あはは、じゃあ一緒に残ろっか」
「うんっ」
ある程度の言うことは聞くから縛らないでほしい。
なるべく顔を見せないようにするから放っておいてほしい。
最初と同じだ、別に万引きをしたとかで迷惑をかけたわけではないのだからいいだろう。
「両親が戻ってきたんだって?」
「うん、そうなんだよね」
「うへぇ、じゃああの家に行きにくくなるなぁー」
来ない方がいいと思う。
誰かが来たときだけいい態度を装うとかしないから。
少なくとも姉には甘いから、その姉の友達には優しくしてくれるかもしれないけども。
どうなるのかは分からないから結局は来ないことが1番なんだけどね。
「まあいいや、こうして楓ちゃんを独り占めできるし」
「由愛はどうして私といてくれるの?」
「んー、可愛いから? 一緒にいたいと思っているから一緒にいるだけだよ」
私は優しいから一緒にいたいと考えている。
由愛も嘉代も姉も、変に警戒する方が無駄だと気づけたから。
あれでも待って、姉をひとり家に残すということは姉になにもかもを押し付けているということだ。
もし贔屓されていると妄想しているだけで実際は違ったら?
「由愛、一緒に家に来てくれない? 逃げてばかりじゃいられないんだ」
「いいよ、私でいいならいくらでも付き合ってあげるっ」
なにもないならいい、妄想通り姉には甘々だったらもっといい。
私にはいくら冷たくしてくれても構わない、だってなんだかんだ学費とか出してくれているし。
「ただいま!」
「お邪魔しまーす」
リビングに突撃したら姉は丁度ご飯を作ろうとしているところだった。
両親はソファに座って談笑していたけど、私達が入って会話をするのをやめていた。
「あ、お母さんとお父さんおかえり!」
こういうときは勢いだけで乗り越えようとするのがいい。
とにかく元気な感じを出してぶつかっていくんだ。
「おかえりなさい」
「うん、ただいま」
「ふふ、結局由愛を連れてきたのね」
「あはは……ひとりじゃやっぱり勇気が出なくてね」
深追いはせずに由愛を部屋まで連れて行く。
「んー、成功……かな?」
「真っ直ぐにぶつかろうとしたのは偉いよ、よしよし」
「へへへ、ありがとう、由愛がいてくれたからだよ」
これはどうしようもなく難しいことだ。
何故なら自分のいないところでの両親と姉を確認しようがないから。
あくまで普通にご飯を作ろうとしていたところだったけど、どうしようもなくてしているだけだったら?
「由愛……ちょっと見てきてくれない?」
「ん? いいよー」
彼女になにかを頼む度になにかを返さなければならなくなる。
けど、私にできることなんてほとんどないから困っているというわけだ。
「んー、あくまで普通だったよ、あ、楓ちゃんのときと違って無視はされてなかった」
「そっか、それなら良かったよ」
ある程度落ち着いたらまたあのテント泊というのをしてみようと思う。
そのときに由愛でも嘉代でも隣にいてくれたらいいなって考えていた。
姉に頼むのは……馬鹿だとか言っていたし、あれでいて寒いのが苦手だから難しいだろうし。
「由愛、お礼がしたいんだけどしてほしいことってない?」
「ん~、今日は私の家に来てほしい」
「え、そんなのでいいの? 私で良ければ行くけど」
「じゃあいまから行こ!」
ちゃんと着替えを持ってから、あと話をしてから外に出る。
専業主婦のお母さんがそんなに怖くなければいいけどという不安を抱えながら移送されていた。
「お、お邪魔します」
不思議な話だ、さっき家に帰ったと思ったら他の人の家にいるんだから。
由愛が足音を抑えながら階段を上がっていこうとしたから真似をして付いていくことに。
気分はさながら忍びになった感じ、それか悪い方だと泥棒?
「ふぃ~……」
「そんなに話したくないの?」
「うん、話したくなんかないよ、パパとは話したいけどね」
残念ながら私はやっぱり両親とあんまり話したくないかな。
先程のあれは姉に負担をかけないためにしただけであって、そこそこ避け続けるのは必要のようだ。
「楓ちゃんのところによく行くのは似ているからだよ」
「でも、最低限の生活はできていたから」
「でもさ、本当だったらいなかったときみたいに楽しく過ごしたかったでしょ?」
「それは……うん、そうだね、お姉ちゃんや由愛、嘉代と楽しい時間を過ごせていたから」
あまり贅沢を求めすぎるとこうなった場合に駄目になる。
だからある程度は妥協しなければならないというか、求めすぎてはいけないというか。
いまこうして由愛がいてくれているのだって彼女が優しいからというだけ。
嘉代だってそう、甘えすぎてはいけないのは確か。
「だから遠慮なく頼ってくれればいいんだよ、ご飯とかは厳しいかもしれないけど」
「うん、ありがとう」
……矛盾しているけどやっぱり逃げてばかりもいられない。
私はあくまで友達としてふたりを家に招いたりしたいからだ。
でも今日はこのまま寝させてもらう、あ、お風呂に入らせてもらってからだけどもね。
「お、お母さん」
「……なによ」
火曜日は時間を無駄にしたけど水曜日、頑張って朝から話しかけてみた。
一応、無視をするということは昔と同じくしないみたいだ。
「どこに住んでいたの?」
「え? あ……そんなに遠くない場所よ、お父さんの仕事場の近くね」
「そうなんだ、じゃあお父さん的にはそっちの方がいいのかな?」
「……でも、聖に会えなくて寂しいって言っていたから」
「あー、それはそうだろうね」
よしよし、なかなかに悪くない雰囲気だぞ。
けど、深追いはしない、今日はここまでで終わり。
恐らく向こうの方が気まずいだろうからとある程度のところで外に出た。
「お、いい天気」
朝から気分がいい。
この状態で由愛か嘉代に会えたらもっといい。
が、今日は放課後まで会えなかったうえに、放課後も会えないと姉から教えられて終わる。
「いいじゃない、私がいてあげるから」
「でも、お姉ちゃんはもう帰っちゃうでしょ?」
「お母さんと話せたのでしょう? 変な遠慮をしなくて大丈夫よ」
それならと背中に張り付いて帰ることにした。
由愛か嘉代に会いたかった、そうしたら今日は最高の気分で帰れたのに。
「月曜日はどんな感じだったの?」
「由愛とお喋りして寝ただけだよ」
「ふーん」
由愛のお母さんが急襲してきたりすることもなく平和に過ごすことができた。
朝になったらお仕事に行こうとしていたお父さんと話したことぐらいだろうか、で、本当に優しかった。
あの怖い一面もある由愛がパパと言いたくなる気持ちが分かる感じ、だからって真似はできないけどね。
「ただいまー」
「ただいま」
母はと確認してみたらリビングで寝ているようだった。
最近会得したスキルを使用して静かに近づく。
それでさり気なく横に座ってみた、うん、いまのままなら親子っぽい。
「母の邪魔をしていないで手伝いなさい」
「はーい」
でも、姉とご飯を作ると自分の無能さが表に出るばかりでなんとも……。
だからってずっと見ていようとすると冷たい顔で見られてしまうのでできない。
ま、まあ、手伝っていれば文句を言われることはないからそれで良かった。
「ん……あれ、帰ってきていたのね」
「リビングで寝たりなんかしたら風邪を引いてしまうわよ」
「ごめんなさい……って、楓もやっているの?」
「うん……お母さん達がいないときはこうしていたんだ、まあお姉ちゃんがなんでも優秀すぎてあれだけどさ」
……いかん、ここで逃げてしまったら少し前の自分と変わらないぞ。
「お姉ちゃんが主に作っているから味は大丈夫だよ」
「……味の心配はしていないわ、ただ……楓は手を切りそうで怖いのよ」
「子ども扱いしないでっ!? もう何年やってきていると思っているの!?」
なんなら姉よりやっているよ、だってそうしないと生きられなかったからね!
「それより楓、左耳が聞こえないって……本当なの?」
「うん、そうだね」
なんか色々言われたけど結局は現実逃避ということで片付けている。
それが1番しっくりとくるからだ、で、いまはそれをしていないと。
治る可能性はないだとか云々を言われたけど、現実逃避をやめたいまポジティブでいればもしかしたら……。
いやそんな可能性はないとしても、ネガティブな思考をしているよりはいいからね。
大丈夫、何故か逆に右耳は凄く良く聞こえるようになったからある程度はなんとかなるようになっている。
「あ、電話だ、お姉ちゃん調理お願いね」
「分かったわ」
電話をかけてきたのは嘉代だった。
「もしもし?」
「楓、いまから行ってもいい?」
「別にいいけど、え、用事があるんじゃ?」
「すぐに終わらせたから大丈夫、今日は1回も行けなかったから気になってしょうがなくてね」
「じゃあ待ってるね、あ……いや、やっぱり公園まで迎えに行くよ、それじゃあね」
もう少し気をつけた方がいい。
会いに来てくれるのは嬉しいけどそれで危ない目に遭ってほしくないし。
「あ、嘉代ー」
「もう、本当に来たら駄目でしょうがっ」
「いや、大丈夫だよ、それよりご飯ができるところだから嘉代も食べて」
「え、でも……両親がいるのよね?」
「大丈夫っ、私が悪い雰囲気にはさせないからっ」
家に帰った私はとにかくハイテンションでいることにした。
もちろん母にも積極的に話しかけるし、お客さんである嘉代にもちゃんと話しかける。
目の前でこのようなところを見せておけば子ども扱いされなくて済むかもしれないから。
食べ終えたらお客さんである嘉代にはお風呂に入ってもらって――って、ちょっと待って。
「嘉代は帰るんだよね、当たり前のように泊まってもらう前提でいたよ」
「泊まってもいいなら泊まらせてもらうけど」
「大丈夫だと思うよ、お姉ちゃんだって嬉しいだろうし」
着替えでもなんでも姉に借りればいい。
身長も同じぐらいだからぴちぴちというわけでもないだろうしね。
それで嘉代は泊まることにしたらしく、姉と母にその旨を伝えていた。
嘉代がお風呂に入っている間、私は逃げずにソファに座っている母の隣にいた。
「お母さんっ、肩を揉んであげるよっ」
「いいわよ……」
「いやほらっ、疲れているでしょ!?」
「落ち着きなさい、無理しなくていいのよ」
むぅ、確かに少しはしているけどそうじゃないのに。
こういう機会に少なくとも普通でいられるようにした方がいい。
母は姉がそのまま成長したような感じだから……んー、変な理由を作るのはやめよう。
「……本当に聞こえないの?」
「お姉ちゃんと一緒のことしているね」
母の手はすっごく冷たかった。
触れられたりすればそれは分かるから問題もない。
確かに左側からの急襲には即座に対処はできないけどさ。
「大丈夫だよ」
「私のせいよね」
「え? 違うよ、次にそんなこと言ったら怒るからね」
お医者さんはストレスでとか言っていたけどいまさら言ってもしょうがない。
ポジティブでいようと決めているんだ、これ以上言わせないために洗面所に行くことにした。
「「あ……」」
丁度出てきて拭いているところだったらしく、私は慌てて廊下に飛び出る。
胸はないけど逆にそれが綺麗な感じに仕上がっているというか、うん、細くて羨ましい。
「お待たせ」
「ごめんね、声をかけてからにすれば良かった」
「いいよ、あたしだって楓の裸を見たし」
……あくまで嘉代が入っているということにして入らせてもらおう。
せっかく彼女が来てくれているんだから少しでも一緒にいたい。
だから洗面所で待っててと残してすぐに入ってしまうことにする。
「由愛の家に泊まったんだって?」
「うん、月曜日に」
こっちの髪を拭きながら彼女はそう聞いてきた。
あの人の明るさは本当にいい、無理している感じがしないからだ。
そういうのもあって誘われたら拒まずに行っていたというわけ。
「ずるい」
「え」
後ろを振り向いたら不機嫌そうな顔の彼女と目と合った。
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