第4話 街に入るまでの一騒動
人助けの難しさを身をもって学んだあと、現場からだいぶ離れたところで魔導石を使って垂直に飛び、襲われているのを発見した時に使ったのと同じ方法(第2話後半参照)で全体を見渡す。すると巨大で分厚い壁に囲まれた場所が目に映る。おそらくあれがツェーヴェン王国の西の玄関口、西の
一般教養を母から学ぶ過程で最低限の国と街については教えてもらったときにあった場所の一つだ。できれば俺たちがもともと住んでいた首魁の森との位置関係についても教えてほしかったが、残念ながら教えてくれることはなかった。その代わりといっては何だが見た目の特徴を教えてくれていた。フォルテの見た目は山のような形状をしていて、表面は石で覆われている。これだけのわかりやすい特徴があるのなら見つけるのも容易だと踏んだのかもしれない。
正直のところ勘弁してほしいというのが素直な気持ちだ。見つけることができたからよかったものの、もし見つけられないままだったらと思うと……と考えてみるが別にその気になればいくらでも一人でサバイバルできるように仕込まれたことを思い出しそこまで問題はないかと思いなおす。この結論に至る時点で俺はあの二人の子なのだろう。そう考えると自然と頬がほころぶ。
目的地は定まった。あとは一直線に向かうだけだ。わざわざ地面まで降りて歩くのも面倒に感じたので飛んだまま直接向かうことにする。距離的にはそれなりに遠いみたいだが俺にとっては全く問題ない。火と風の魔導石でどんどん加速と制御を行っていく。周りの景色が次々と流れていく様は自分だけが別の時間軸で生きているのではないかと錯覚させる。
流星のごとき速さで移動すること5分、気づけばフォルテの壁門の近くまで来ていた。眼下には街へと入るために列を為して今か今かと待ち構える人々の群れが広がる。すると門の近くで検問をしているのであろう兵士たちがこちらを見て騒ぎ始めた。このときに悟った。空を飛んできてはいけなかったと。
その瞬間着地してしれっと長蛇の列に並んでみた。しかしそう簡単に誤魔化すことはできず、俺を避けるかのように人の輪(物理)が出来上がってしまった。そうなれば門兵も容易に俺を見つけ門の中に付随した関所へと連行された。
「それで、君はいったい何しに来たんだい?」
関所に連れてこられ最初に聞かれたことがこれだ。どうやら襲撃者か何かだと思ったらしい。もし仮に偵察ならばあそこまで目立つようなことはしない。ならば自分の力に溺れ、自分の力を知らしめてやろうという愉快犯的な襲撃者だろうと睨んだようだ。
「すみません、空飛んだほうが速いと思って。」
それが俺の返答だった。何もやましい考えがなかった以上そう素直に言うしかなかった。すると思わぬ言葉が返ってくる。
「はぁ、まさかヴィセルさん以外にまじめにそんなことを言ってくる人がいるなんてね。」
むしろヴィセルさんとやら以外にそういったミスをしないことに驚いた。そのことを伝えると、
「いくら魔導石があっても人はそう簡単に空飛べないから。」
衝撃の事実である。そんなことを母から習った記憶はあるが当の本人が散歩がてらとか言って空中遊覧をしてくるのだ。父に至っては剣を振った衝撃で木々を切り倒さないよう空中に留まりながら素振りをしていたくらいだ。全く信じることのないまま生きてきたが、どうやら母の言っていたことは正しかったらしい。だとするともしかしてヴィセルさんとやらって凄い人なのかも。
「ヴィセルさんを知らないなんていったいどこで何して生きていたんだい。ヴィセルさんはこの街にある自由ギルドのギルドマスターだ。魔導石を扱うときの繊細さと芸術と呼ばれるほどの剣技で国内だけでなく国外へとその名を轟かせる、西の街フォルテを象徴する二大巨頭のうちの一人だよ。ちなみにもう一人はこの街の領主様だ。」
そう語る兵士の顔は全幅の信頼感、というよりは自分の親しい人を自慢するときの親近感に溢れていた。これはあれだ。父と母がそれぞれ陰で相手を褒めているときの顔だ。
「とにかく怪しい感じはするが危険人物というよりはただの世間知らずって感じだし、たぶん大丈夫だろう。ほら、これは一時的に君の身分を保証する門発行の観光証だ。ただし、すぐにでも自由ギルドで正式に身分登録することを勧めるよ。そっちへの紹介状と自由ギルドまでの道のりを書いた地図も用意しておいたからこのまままっすぐ行くといい。」
ここまでいろいろとお膳立てしてくれた門兵さんにお礼を言いつつ、地図に従って自由ギルドへと向かうのだった。
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