第10話 メタルスライム発見!

 ……スライムだ。


 栄人の見る先には、スライムがいる。そのスライムは数分間歩き回っていたら見付けた木に最初に討伐したスライムと同じように隠れていた。

 しかし、他の個体とは何かが違う。

 普通のスライムの色は透明だ。青だとか緑だとかそんな色はついていない。

 しかし、目の前のスライムの色は銀色なのだ。

 銀色なのだ。しかもキラリと光を反射している。何やら金属っぽい性質をしていそうなのだ。


(これはあれだろうか、メタルスライムってやつだろうか)


 栄人はその銀色スライム、メタルスライムを某ゲームのレアモンスター的存在なのではと考える。

 だとすれば、倒せばかなり多くの量の経験値を取得出来ることだろう。多分攻撃力なども高くないだろうから死ぬ危険性も薄い。無論皆無というわけではないがニードルラビット二体と戦う方が危険と言えるかも知れない程度には安全な敵だろう。

 無論、栄人の能力予想が外れていなければの話ではあるが。


(うーん、狩りたいところではあるんだが、今はやめておこうか)


 栄人はレアモンスターであろう旨味がありすぎるそれにしかし手を出さないことを決める。

 理由はやはり栄人の空腹状態である。はっきり言おう、かなりヤバい。今栄人はお腹と背中がくっつくとはこのことか、と言わんばかりの空腹を味わっている。


 まだ食わなくても死にはしないのだろうが、パフォーマンスは確実に落ちるし、倒せたとして、あのメタルスライムに魔石が無ければくたびれ損の骨折り儲けというやつだろう。

 それに、今は極限に近い空腹、つまり食料が欲しい状態。もし魔石が残ったとしても食べられないかも知れないモンスターに体力を割く余裕は存在しない。


 結果、無視して他のスライムを探すこととなった。しかしレアモンスターを狩りたいのも事実ではあるので今いる場所は覚えておく。

 出来るだけ曲がらないようにニードルラビットやゴブリンから隠れながら進むこと数分、栄人はスライムを見付ける。

 その姿を見て、腹がなった。

 その自分の身体の反応に魔石を試しに食べさせてみるという目的は腹を満たしてからにしようと、そう決めた。


《スライムLV.1を討伐しました》


 今回は木の傍にいなかったので木と脚で挟み撃ちする戦法は使えなかったが後ろから踏み付けるだけでブチュッと潰れてくれた。アナウンスも響いたので絶命したのは間違いない。

 あとは魔石があるかどうかだが、しかし討伐して少しするとスライムはこれまでの一体の例外を除いてのモンスター達と同じように消えてしまう。


 これじゃあ魔石実験を中止にした意味が無い、と少し腹が立つが、それもエネルギーの無駄遣いなのではと気付き、堪える。

 腹が減ったり思い通りに行かなかったりすると気が短くなるのは自分の悪い癖だな、と今度は少し凹む。栄人のテンションは凹凸が激しい。


 また数分間歩き回り、次のスライムを見付ける。今回の奴も草原を移動していた。

 何度か狩り、もうスライムには警戒を払わなくていいだろう、と理解した栄人は小走りで近付き踏み潰す。それで終わりだ。あまりにも呆気ないので普通なら心配になって来るところだがアナウンスがスライムの死を知らせてくれるので疑心暗鬼になるのも避けられている。アナウンスは便利だ。


 そして今回のスライムも消えてしまった。踏み潰すだけで良いのであまり体力は消費せずに倒せるとはいえ、探すのにもその他諸々にも空腹というのは影響するのだ。

 動きが少し鈍って気持ちが暗くなる程度ならまだしも注意力が散漫になったり思考が鈍くなり考察が捗らないというのはかなりの弱体化になってしまう。そんな状態からは早く脱却しなければならない。


◇◆◇◆


 栄人がスライム討伐を始めてから一時間と少しが経過した。

 その間に栄人は十二体のスライムを倒し、今十三体目を踏み潰したところだ。

 さらに倒したスライムの姿が消え、少し悩む。

 ニードルラビットから魔石が出たのは合計して四体目のモンスターからだった。しかし、今スライムを倒してもう狩った数は十三体にもなるのだ。それなのに、魔石が落ちていない。

 これは少しおかしくないか? と思いはじめたのだ。

 無論、スライムよりニードルラビットの方が強いから魔石が落ちる可能性が高かったりもするのだろう。

 それに、ニードルラビットも本来十三体倒してもドロップしないものがあの時偶然ドロップしただけなのかもしれない。

 それでも、ニードルラビットからは四体目で魔石が取れたのだ。その確率からものを考えるのは自然な流れでもあるだろう。

 普通に考えていたら気付かなくても怪しいと最初から思って行動したら何かが引っ掛かることがあるかも知れない。そう思い、栄人はスライム狩りを続けることにした。

 この疑問に結論をつけてから動くのではなく行動で切っ掛けを掴もうと考えたのは空腹以外にも思考能力を低下させるある弊害が発生したからだ。


 ニードルラビットに刺された脚の傷が、痛むのだ。

 ただ痛むだけではなく、そこから逃げて行った血が貧血にも似た症状を与え、あまり考えようといく気が起きなくなってしまっている。

 そしてやはり、血を回復させるのにも食事が必要。この重なった苦難から栄人は焦ってしまっている。

 開けている明るい空間で、暗くて不安になる感覚や呼吸が苦しくなる感覚、いわゆる閉塞感というやつが無かったが故に油断していたが、やはりダンジョン。遅効性の毒も常備しているようだ。


(意外と楽しんでる暇なんてないな、始まりの草原の癖に)


 チュートリアルかと思ったら空腹だったり急にモンスターが産まれたり苦境に立たされている事実に不満が零れる。

 まあ種族選択画面が現れたとき折角楽しい人生が始まるんだ、と思ったところで時間切れになりランダムでモンスターに変えられて、そこまではいい、まあ人類が多分栄人以外に普通に種族を選んでいる中で一人だけモンスター。

 これはそこそこ浪漫がある状況だろう。魔物に転生した奴は大体強くなる掟があるし。できればスライムとか狼とかそういう格好いいやつが良かったがゴブリンもまあそこそこ転生してるラノベも多い。


 だが違うだろう、これは違うだろう。

 ステータスは開けないし、スキルも今のところ無い。多分ニードルラビットは壁登り、スライムも消化とかそんな感じで持っているたろうスキルがゴブリンの自分には無いのだ。

 サクサク自分の難易度にあったモンスターが出てくるのかと思いきや不運が続けば戦うまでもなく餓死してしまう運ゲークソ扉。

 おまけに自分の実力に合ったエリアを運良く引けたと思ったらなぜに兎如きに脚を貫かれ、強いモンスターとの死闘の末に死ぬのではなく空腹なんて下らないもので死にそうになっているのだ。


(あ、なんか不満点挙げてたらどんどんイライラして来た。思い返せばこのシステム不親切すぎん?)


 レベルアップしてるのかどうかもわからないし、あるのは敵を倒したというアナウンスのみ。敵の生死を何もせず確かめられるだけでかなり親切だと普段の栄人なら理解できるのだが今は前述の通り空腹貧血で上手く行かない苛立ちが募っているため文句が止められていない。


(マジで目に見える変化が欲しい。成長したっていう実感が無ければ人間のやる気は出ないことを知らないのかなこのシステムにした元凶は? てかチュートリアルで不意打ち乱入って今考えたらどういうことだよ。せめて予告しろよ)


 現実でそんな親切なアナウンスなど存在しないと分かっているが今は兎に角不満をぶちまけないと納得できない気分だ、と栄人は擁護の気持ちに蓋をする。


 まあ擁護する気持ちもあるにはあるのだが本当に何故このアナウンスは必要最低限のものだけなのか、気になってしまう。


(種族選択には時間制限があるっての教えてくれなかったし中途半端に優しさを見せるくらいならいっそのこと一言も話すな――いややっぱ敵の生死確かめるのは大事です見捨てないで下さいお願いします)


 怒りを顕あらわにしていてもアナウンス音が無くなるのは不味いなんてことは流石に分かると、途中で口喧嘩で言い過ぎて相手の女子が泣いてしまい慌てて言い訳をするように謝る男子小学生が如く栄人は手の平を返す。


 そこで落ち着いたのか、溜め息を一つ吐き、スライム狩りを再開するため歩き出す。

 栄人は肩の力を少し抜きながら、


(…まあ、色々ぶちまけたら頭はクリアになったし良いとするか。これが口に出せてたらもっとスッキリしたんだろうけど)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る