第9話 魔石、ゲットだぜ!
栄人は、さて、まずはどこを開こうかと考える。
まあ魔石はテンプレ通りに胸をくり抜こうと決める。
テンプレ云々を抜いても脚や腕などの細っこい部分には無いだろうという判断だ。
くり抜く部位を決め、呼吸も整えた。もう嫌だなんて言っていられない。まだ消えていないとはいえ消えてしまう可能性もあるのだ。
呼吸をもう一度整える。心臓が焦燥の音色を奏でる一歩前から停めて置かねば逃げてしまう気がするからだ。
数秒眼を閉じ、覚悟を決め開く。
くり抜く為の刃物代わりにニードルラビットの角をへし折り使う。解剖にその者の身体の一部を使用すると言うのは些か侮辱しているのではと思わなくも無いがこれが一番効率がいいだろうことは明らかなのだ。
少なくとも自分の流石に十数センチも伸びてなどいない爪でやるよりはずっと速いだろう。
故に、仕方ないのだ。
(御免)
一度心の中で謝り、角を折る。
かなり硬く全力で力を込めねばならなかったが、なんとか取ることができた。
これだけ硬度があるのなら予定よりサクサク行けそうだな、と消費する労力が削減できそうな予感と全力で力を込めた後の達成感、ファンタジーらしい魔石に拝めるという三つの要素に思わず頬が緩む。
傍から見ればか弱い兎の死体蹴りをしようとしている凶悪なモンスターなのだが。
栄人はニードルラビットの角をニードルラビットの胸に突き入れる。予想通りスッと入った。
そして、そのまま突き進め地面に達した感触を得ると、角を円を描くように動かしていく。
…のは無理だったのでノコギリのように上下運動させながら動かしていき、始点に辿りついたら上下運動させながら切り進めたため完全に切れてはいないが脆くなっている胸部を手で押しくり抜く。
肉塊を手中に収め、ここまで小さくなったらあとは簡単だと元々のニードルラビットの体格からかなり小さくなったそれをさらにブチブチと千切っては投げ、千切っては投げる。
そうするとすぐに中からキラリと輝く石が覗く。
(おお! マジで魔石あったよ!)
栄人はその石を魔石だと断定し、テンションが上がる。
魔石以外の可能性を考えないのは甘いかもしれないが、実際このモンスターの中から出て来る石なんて魔石以外に思いつかないし、そもそもどんな用途に使われようがモンスターからのドロップアイテムという時点で既に魔石と名付けられるのは定めのようなものだろう。
肉塊に手を突っ込み、魔石を抜き取る。
抜き取ったそれを鑑賞しようとして、いけないいけないと再度ニードルラビットの死体を見据える。
魔石がある状態ではいつまで待っても消えなかったが、それが抜き取られた今ならば消えるのではという考えからだ。
(八……九……十……あ、消えた)
ニードルラビットから魔石を抜き取ってからの秒数を数えているとカウントしていると、十を超えたところで塵となって消え去る。
そして、やはり魔石がトリガーとなってモンスターの死体が消えるのか、と予測を確信に変える。
そして次には魔石があって消えないモンスターならば食料として使えるかもしれないと考え、食料に目処がたったことで自分のかなり危ない域に突っ込んでいる空腹具合を自覚する。
まず最初にいた空間で半日は過ごし、そこから扉を開け日付が変わるまでにまた一日。
さらにこの草原で神経をかなり消耗する探索を二時間弱程度とはいえ続け、モンスターとの戦闘を三度行いその最後の一つでは脚を負傷した。
……これ、元々意識が目覚めたときから空腹だったら死んでてもおかしくないレベルに食事してないな、と思った。
なので食料を確保するために早くモンスターを見付けて討伐しよう、と動き出す。
魔石があり食料として使用できるかもしれないモンスターを討伐しようと考え、栄人がまず最初に獲物にしようと決めたのは、スライムだ。
なぜニードルラビットのように食べられそうなまだ前までの常識の範疇に収まっているモンスターを狙わないのかという点だが、栄人は今そのニードルラビットとの戦闘で脚に負傷を負わされているのだ。
別にその脚の傷がトラウマになっているなどではなく、もっと単純に今の怪我をした自分ではもう一度あれと戦闘を行うには戦闘力が足りないかもしれないという判断、そして。
スライムならば、自分の脚の負傷を補えるのでは、と思ったのだ。
スライムは、液体のような形態のモンスターだ。ニードルラビットやゴブリンのように、一定の硬度を持たず、自由に身体の形を変化させられる。
ならば討伐したスライムを傷口に塗り込み、軟骨のような役割を果たさせることができるのではないかという予測。それが栄人がスライムを狙うことにしたもう一つの理由だ。
というわけで、まず魔石を体の中に有しているスライムを探すことに決めた栄人だが、一つ悩みがあった。
(この魔石、どうしたもんか)
ニードルラビットからくり抜き取り出した魔石ではあるが、今のところ使いみちが無いのだ。
次世代の素晴らしい電力等のエネルギーになると言われても、こんな草原に電気機器など存在しないだろう。金になると言われてもこんな状態では換金なんてできやしない。
あとの思い付く使い道は食べるくらいのものだが―――ある小説でモンスターは魔石を喰らうことで強くなれるという設定を見たことがある―――それで毒だったりして死んでしまったらお終いだ。
こちらにはリュックもインベントリも無いのだから持っていても戦闘の邪魔になるだけなのだから捨ててしまうのが一番楽なのだが、しかし魔石だぞ、何かに使える筈だ、捨てるのなんて勿体ないと自分の心が魔石の可能性を主張してくる。
結果、捨てるのも持っているのも憚られるどっちつかずの物体になってしまっていたのだ。
うーん、うーん、と栄人が捨てる捨てない、実用性も浪漫の二つの両極端に板挟みにされていると、まるで天啓のような名案が浮かび上がって来た。
魔石は何に使えるか分からない、その中で一番こう使えるのではという可能性が高いのは魔石を喰らうことで強くなるという方法だ。
しかしそれとは逆に、モンスターにとって魔石は毒であるという可能性も捨て切れずに存在するのだ。迂闊に口に含むこともできない。
ならば、人柱ならぬモンスター柱を用意すれば良いではないか。
そしてその役目を、毒物であろうと何も考えずに食べてしまいそうなスライムに任命しようということだ。
他の二種は知性があるので野生の本能などで回避されてしまうかも知れない。
それはそれで毒物だから避けたのではないかと考えることもできるのだが単に普段食べているものとは違うから避けるというだけという可能性も捨て切れなさそうのでやはり何でも食べてしまいそうなスライムが適任だろう、とそこまで思考を続けたところで、栄人は怪我にも使えそうで毒物検査にも役立つなんてスライムは便利だなあと思った。
そこでどこか栄人は違和感を覚え、ん? と首を傾げる。
そこでその違和感の原因を考えてみることにした。
なに、ただ百文字程度の例を洗い直すだけだ、何時間も時間はとられまい。
まあその考えの通りで、違和感の原因は数分と経たずに見付けることができた。
その違和感とは、
(さっき普段食べてるものとは違うから食べないって言ったけど、ゴブリンって何食べて生きてるんだ?)
こういうことだ。
ニードルラビットよりヒエラルキーが低いゴブリンはこの果物も無い草原でどうやって生きているのだろう、と。
自分が今やろうとしているように魔石持ちスライムを食っているのでは、と思ったが今まで討伐したスライム、ゴブリン、ニードルラビット二体と計四体のモンスターの中で魔石持ちは一体しか出ていないのだしそれでは食い続けるのは無理だろうと思い直す。
ならば、まさか最終手段草原の草を食っているのでは? ならば今自分が立っている地面もゴブリンの唾液が付着していた可能性もあるのでは? と恐ろしい方向に思考が傾きそうにもなったがどうにか耐え、元に戻す。
結果、空腹が解決してから考えようという結論になり、栄人はスライム狩りへと、もっと広い範囲で言えば漸く草原に踏み入った目的である食料探しを開始する事となった。
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