第6話 スライムとゴブリン
さて、それでは準備をするか。
とりあえずモンスターとの実戦に慣れなければいけない。いざという時に実戦経験がないせいで体が硬直してしまい攻撃に反応出来ませんでしたー、なんて事態にならないためにも慣れは必要だ。
それにあたり、スライムを倒してみようと思うのだ。スライムまでもがゴブリンより強いってことは流石に無いと思うし、それでも始まりの草原という同じエリア内にいるモンスター同士なのだ、そこまでレベルが違うなんて事もあるまい。
つまり、良い練習台になるだろう。
ということで食料探しと並行してスライムを探しながら歩き出す。自分からモンスターを探すのは初めてだな。
それから五分ほど歩いていると、十メートルほど先の木の根本にプルプルとした凹凸の無い青色の物体を見付ける。スライムだ。
入口からではなく近くで観察すると、スライムの中には丸い核のような物体が存在することが分かった。流石始まりの草原、モンスターの弱点も分かりやすいな。
気付かれないように姿勢を低くし、それでもすぐ逃げ出したり戦闘を開始したりできるようにしながらジリジリと、そろりそろりと近付いていく。
スライムから五メートルのところまで来たら円の縁をなぞるようにゆっくりとスライムの背後へと回り込んでいく。そしてスライムに気付かれないまま完全にスライムの背後をとると、さらにスライムから三メートルの距離まで近付く。
そこまで来たら一気に勢いをつけ、スライムの下へと駆け寄る。そしてやっとと言うべきか、ついにと言うべきか俺に気付いたスライムが反応して行動に移る前にスライムを脚で蹴りつける。
スライムは木の根本にいたので俺の脚と木に挟まれてブチュッと潰れる。
それにより核まで破壊される。こちらはブチュッではなくパキッと言った感じでだ。
核が砕けたスライムは数秒後粉々になり消えて行った。ふむ、最初にゴブリンVSニードルラビット見たときって、ニードルラビット全部喰ったんじゃなくてゴブリンの死体が自動で消えたのか。
なんだか少し安心した俺の耳に、声が響く。
《スライムを討伐しました》
その声の内容は俺に衝撃を与えるには充分なものだった。
突然声が響く不思議現象は何度も体験したからいいとして、この文をそのまま受け止めるなら、というよりラノベ脳で受け止めるならやはりここの世界にはステータスがあるということになる。
ヤバい、テンションが上がる。このまま何日もここに篭って恐らくあるだろうレベルを上げられるだけ上げてしまいたい気分だ。
しかし落ち着け、落ち着くんだ俺。
お前は何をしに来た? そう、食料が無いという死活問題を解決しに来た筈だ。
なら、何をすべきだ? そう、とっとと食料を見付けて命の危険が起きる前に帰ることだ。
欲望に身を任せるな、己を律しろ、落ち着け、落ち着くんだ。俺はそんなに意志薄弱じゃない。
そんな時、十数メートル先を歩いているゴブリンを見付ける。
──経験値、置いてけやあああぁぁあああぁぁあぁあぁあぁあぁああああッッ!!!
◇◆◇◆
──さて、今俺の前にはゴブリンがいる。棍棒を持っていない、つまり弱い方であろうゴブリンだ。
欲望に敗北を喫し、その勢いに乗せて飛び出してしまった俺だが、なにも命の危険がある戦いにそのまま脳筋思考で臨むわけではない。きっちり作戦を立てるつもりだ。
では作戦その一、相手は俺に気付いていないので背後から頭をぶん殴る。
その二、それで相手のバランスが崩れたら脚を相手の前に持っていってからの足払いで相手を俯きに転ばさせる。
そのまま頸動脈をかっ切る。
よし、多分これでオッケーの筈。それではやってみよう。
ということで今この作戦会議、走りながらやってます。目の前には俺に気付いていないゴブリンが迫っている。
そいつに全力疾走を崩さず速度を落とさないまま両手で作った握りこぶしを振り上げ、脳天に振り落とす!
さらに脚を回り込ませての足払い。きっちり決まってゴブリンは俯せに転げる。
ここまで作戦通り、あとは押さえ込んで頸動脈をかっ切るだけ。そう思ったのだがこいつ意外にも力が強いな。振り払われそうだ。
仕方ない、あまり冷静に一点を狙うことはできないから取り敢えずやたらめったらと殴りつけておこう。そして動かなくなったらしっかり狙いを定めて致命の一撃を放つ。
馬乗りになり首筋の辺りを左手で押さえ込みながら右腕でゴブリンを殴りつける。一発目は頭に当たり、それにより暴れていたゴブリンが頭を地面に強打する二段構えだ。
というかファーストキスが地面って可哀相な奴だな。こうはなりたくないものだ。
頭への一撃で早くも動きが鈍ってきたゴブリンに向け、もう一度頭へのクリーンヒットをお届けだ。更に今度はあまりゴブリンが暴れていないおかげで力をしっかり込められたからさっきよりも威力が強くなっている。
それでもうピクピクしながら緩慢な動きで手を伸ばすことしか出来なくなったゴブリンに、今度はゴブリンのバランスを崩した初撃と同じの、両手で作った握りこぶしをプレゼントだ。
一日に三回もプレゼントを上げたのは初めてだよ、おめでとうゴブリン。
それで意識を失った、というかもう命があるかすら怪しいゴブリンだが塵になって消えなかったのでやはり生きているのだと確認し、的確に頸動脈を爪で切り付ける。
すると、やはりゴブリンから紫色の血が吹き出した。おかげで俺もベチャベチャだよ。うわーばっちい。
血にどんな成分が、例えば毒とかが含まれてるか分からないから頸動脈を切り付けたのは浅慮だったかな。
まあ、同族の血なんだし多分効果無いだろうけどね。
と、血の勢いが弱くなってきたところでゴブリンが塵になって消え去った。うーん、何か今回はスライムの時より消えるのが遅い気がする。
気のせいかな?
《ゴブリンを討伐しました》
ふう、と俺は一息吐く。
まあとにかく今はレベル上げ、と言いたいところなのだがちょっと試したいことがある。
モンスターの肉って食えるのかなーって。
人間だったら毒で無理とかあるかもしれないけど俺はゴブリンだ。モンスターだ。ならば同族を食べても毒に侵されたりしないかもしれない。
それにもし毒が回ったとしてもゴブリンとかニードルラビットとかスライム程度の毒じゃ死ぬわけは無いだろうしもしかしたらゲーム的に熟練度が貯まって毒耐性とかも取得できて一石二鳥状態になるかもしれないし。
というわけで、モンスター食料化実験を開始したいと思います。
そしてそれには一つの課題がある。
恐らくモンスターは倒されたときにそこから数秒後粉々になって消えてしまう事だ。
ゴブリンを倒してもスライムを倒しても塵になって消え去ったからモンスターは倒したら塵になるという認識でいいだろう、少なくともゴブリンとスライムは。
そしてその説を確かにするためにもやはり当初から目的としていたニードルラビット討伐に戻る。
ますは作戦を練ろう。ニードルラビットは今俺が倒したゴブリンより強いだろう棍棒持ちゴブリンに圧勝した実績のあるモンスターだ。警戒して掛かることに迷いはない。
対策のためにもまずニードルラビットについての理解を深めよう。
奴の武器は何か。
それは小柄な体躯と、それが故の敏捷性、そして角や歯の鋭さだ。攻撃範囲は狭いが急所を突けば問題なく絶命へと相手を追いやれる。
さらに一番警戒すべきはあのゴブリンの身体を登った動き。垂直か或は反り返っている壁をどこにも手(この場合脚だろうが)を掛けずにスピーディーに敏捷性を維持したまま登り切り、そこからすぐさま体勢を攻撃を加えられる安定したものに戻す体幹。
あれは脅威だ。ああも小さい身体でこちらの身体の上を縦横無尽に動き回られては捉えられない。ならばどうしたものかという点だが、こちらもスライムゴブリン同様奇襲で一撃死を狙って一発攻撃したら即離脱するヒットアンドアウェイ戦法で行こうと思う。
というか始まりの草原だし大体後ろから奇襲戦法で何とかなるだろ。最初から背後対応してきたら終盤が心配になります。
では、今度こそニードルラビット討伐、やってみよう!
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