第4話 扉を開くと、そこはラスダンでした
部屋の、唯一一方向のみにある俺の背丈より少し大きい程度の出口、入る者にとっては入り口を今回は出口として使い、外に出る。
意気込みして外に出るとか言ってみたが、別に部屋を抜けてすぐ魔物が殺し合ってるとかじゃない。というかそんな状況だったらまず間違いなく部屋の中に逃げ込んで来る魔物とかが現れるだろう。
そしたら戦闘素人の俺じゃまず勝てないだろうし、もし勝てたとしても血の匂いに誘われて別の魔物が現れて、そのまま終わらない闘争が始まる―――なんて展開になるだろうし、そしたら今度こそ一片の希望も生き残る可能性もなく死ぬだろう。血の匂いに誘われて、とか捕食者側がやる行動だしな。
まあそんなわけで予想していた通り、俺がいた部屋の外には、少なくともすぐ近くには魔物がいない。
あるのは細い一本道のみ。しかし暗い視界の中であるため先があまり見えなく、何が出てくるかわからない恐怖付き。
壁を叩けばぽろぽろと破片が崩れ落ちるため恐らくここも洞窟の中、ひそかに懸念していた部屋から出た途端異次元でモンスターがドンパチやり合ってる説も消えたようだが(部屋を出て一本道だった時点でモンスターが戦っている可能性は消えたがそれはそれとして別の場所に飛ばされた可能性は消えていなかった)、地中を掘って生活しているモンスター、土竜のような奴が襲撃してこないとも限らない、警戒はしておくべきだ。
そう考えながら俺は一本道を歩いていく。
栄人が歩き始めて体感五分ほど。一本道に終わりが見えた。
そこにもまた扉があり、その先にあるだろう空間から光が漏れ出ていることから完全には締まっていないのだろう。
つまり、開けられる。
扉に近づき、観察する。厚さは十センチと言ったところか。かなり重厚そうに見える。
凹凸はほとんどなく、叩いても破片が落ちない。
かといって鉄や銅などのように錆びたり経年劣化したりなどは感じられない。一度全力で殴ってみようかとも思ったが固くて拳が壊れたなんてことになるのは嫌なのでやめておく。
栄人はもしかしたらこの扉を開いたら部屋から出るときに懸念していた別次元に転移、なんてことが本当にあり得てしまうかもな、と思い若干怖気づきそうになるが背に腹は代えられない、と決意を固め扉を押す。
押すと見た目から感じられるものとは違い驚くほど簡単に扉は開き、そこからは漏れ出たものではない、天然の光が吹き込んでくる。
そして光の次に目に映った光景は―――
(……そっ閉じそっ閉じ)
―――端的に言うと、地獄絵図だった。
地面から火山の噴火のような火が巻き上がり、それに打ち上げられた、というよりその火柱を鯉のように泳ぎ上り詰めた、もう滝を登る必要などなくなった鯉―――つまりは竜が、尻尾などを含めた全長が十メートルは余裕で超すであろう怪物が。
空を飛ぶこれまた巨大な鳥―――鷲をそのまま十メートル弱の巨体に膨らませたかのような、ロック鳥とでも見紛いそうなそれー――に向かい火柱を登ることにより得た、というより纏ったといった方が正しい炎の鎧と勢いをつけ飛び掛かり、カッと一瞬強烈な光を放ち辺りを照らしたのちダイナマイトの様な強烈な爆破音を奏で―――事実そのままダイナマイトを起爆させたらこうなるだろうと誰もが納得するような威力で爆発を叩きつける。
そ・れ・が・無・数・に・行・わ・れ・て・い・る・。
地雷原もここまで危険ではないだろうという爆音、そして喉を焼き焦がすような熱さ。
熱さの原因は火柱を避けるように地面で発生し、そのまま這うように拡大を広げるマグマだ。
さらにはそ・れ・す・ら・も・ほ・ん・の・一・部・、ほ・ん・の・一・角・。
少し奥を見ればそこから壁が空間を切り裂いているかのように環境が変わる。
灼熱は極寒に。マグマは消え去り吹雪が視界を埋め尽くす。火柱が氷柱となり、乱立している。その中には膨大なエネルギーが内包され、規則が見えない設計がされている氷柱群。
しかし運悪くも規則が見えてしまう部分、例えば五芒星の中心に何かが入ってしまったなら。
その答えは、絶対強者として君臨しているべきその体躯を無残に打ち砕かれた安易な巨大化をした百獣の王が説明してくれるだろう。
彼は運悪く、本当に運悪く自分が本来いるべきだった極寒の横にある草原での生存競争に敗北し、極寒に踏み入ってしまった。
その極寒の中では体温はすさまじい速さで奪われた。
さらに運悪くその寒さを和らげ、奪われた体温を取り戻すため彼は縦横無尽に駆け回ることを選択してしまい、そこからは単純。辺りを見ずに走り回り、五芒星の中心へと導かれるように入っていった瞬間。
氷の彫像となり、弾け飛んだ。
栄人が見たものはそれだけ、それだけしか起こらなかった。
いや、そうなったとしか認識出来なかったと言うべきか。
ゲーム初心者が世界一のプレイヤーのバトルを見てもどの構成がどこに相乗効果を生み出しているのかなど分からず、ただ自分の出したダメージやスコアと比較して凄いな、と思うことしか出来ないように、この変わった世界で初めての超常現象を見た栄人には始まりと結果しか認識出来ず過程が飛ばされてしまったのだ。
さらに先程言った百獣の王が生存競争に敗れるほどの魔境である草原エリア───これで他と比べればマシだと思えるのが逆に恐ろしい───や、何が潜んでいるかは分からない森林エリアなど。
雷が雨のように降るエリアや竜巻に吹き飛ばされ続けている無数のモンスターが偶然交差する一瞬のタイミングで互いの必殺を交わし合う、誰が新たに入ってもその渦に巻き込まれるのが決定づけられるだろうエリア。
兎に角およそ人が生き抜ける環境ではないエリアが仰山あった。
これで硬直せずに扉を閉めることを選んだ栄人の判断は称賛されるべきだろう。
(何あれ怖っっっわ!!)
しかし硬直しなかったと言ってもあれだけの光景を見せつけられた後で感情を全く動かさないのは無理な話。クソゲーホラゲー等のゲームを幾度もプレイしている者であれば心を凪のように落ち着けることが出来たのかも知れないが生憎栄人はクソゲーをプレイすれば人並みにブチ切れホラゲー耐性が皆無の人間であった。つまりはあまり精神が鍛えられていない。
深呼吸を何度も繰り返し、早まった鼓動を落ち着ける。
十度ほど深呼吸を繰り返せば少しは心が落ち着いた。生まれた余裕を思考に費やす。
(まず、あの地獄絵図はなんだ?)
分からない。
何故しーんと静まり返った通路でドアを開けたら絵面と音共にうるさいあのような空間が出てきたのか。
あそこを攻略するのは流石に難しいだろう。あんなのは普通ラスボスの住まうエリアの光景だ。少なくとも始まりの草原に十メートル級のドラゴンが出てくるのは有り得ないし地形が火山だったり南極のような場所だったりすることも有り得ない。
(まあこの世界がそういうクソゲーコンセプトだったなら話は別だが)
───そう、今の推論はあくまで"普通の"ゲームを基準にしたものだ。
しかしここは現実である。まあこれが壮大な夢という事でなければの話だが。その可能性は夢の中で寝るという体験をしたことでほぼ無いだろうという結論に至っている。少なくとも今考えるべき内容では無いという事だ。
しかし、どうする? 栄人は考え込む。もしあの空間しか食料を取得できそうな場所が無いというのなら、詰んでいる。
(まああの空間はどう考えても異次元だし他の空間にも繋がっていることを祈るしかない、か)
あの空間は異次元、栄人はそう仮定して話を進めることにした。
そう推測を立てた根拠は幾つかある。まずさっきも言った通りあの物静かな通路が扉を一枚挟んだ程度で成立するわけが無い。あの扉が密閉されていて尚且つ特殊な素材で出来ていたのならばその可能性も無いでもなかったが、僅かに光が漏れていたことからあの扉は完全には閉まっていなかったと考えられる。つまり扉自体が特殊という説も消える。
二つ目の根拠はやはりあのアナウンスの内容だ。あれで生存に適した環境というのならば少なくとも生き残る可能性がゼロというわけではない、はず。
(あそこから超が五つは余裕で頭につくくらいの低確率で一回でも生き残れたらめっちゃ強くなれるから運ゲー頑張れって意味かもしれないけど)
なんだかうたぐり深くなった気がするなー。いやこれはネガティブか? と思いながらさらに思考を続ける。もはや熟考と言った方がいいかもしれない。
結果、もう一度扉を開いてみることにした。見間違いだったらいいなー、なんて意味もあるにはあるのだが主だった目的は別の異次元に繋がっている可能性の確認だ。
扉を開く度に別の場所に繋がっていて今回はたまたま運悪くあの地獄を引いてしまっただけかもしれない。
だから、もう一度開いてみる。
(よし、何かが扉開けた瞬間に襲ってきても大丈夫なように反射訓練もしたし開けるぞ)
何度も何度も手を伸ばして引いて伸ばして引いてもはや右胸の辺りを叩きだしていた動きをやめにし、緊張しまた早くなりだした心臓の鼓動を落ち着ける。
そして扉に手をかけ、開こうと───
《この扉は一日に一度しか開くことが出来ません》
した途端、鳴り響いたアナウンスにその動きを停止させられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます