第2話 ステータス、オープン

明言しないが、アレが無いことで心配になり、俺は一応もう一度体を確認してみる。

 子供のような頭身に緑色の肌、自分で触ってみた感覚的に恐らく豚のようにぐわっと広がった鼻を持ち、発してみた言葉は『ゲギャギャ』。これは間違いなくそうだろう。


 ゴブリン、か。

 ゴブリンだ。

 正式名称がどうなっているのかは知らないが恐らくゴブリンでいいだろう。てか違ってもなれ親しんだ呼び名のゴブリンにするつもりだけど。

 とにかく俺は種族選択に悩んでいたら決めかけたところで世界アナウンスが行っていた内容的に自由に種族を選べる制限時間を過ぎてしまいランダムで種族を決定されることになってしまい。

 その結果ゴブリンという人間と敵対しているであろう種族になったと。


 なんか偶然が重なりあい過ぎて運命を感じてしまったよ。神が俺にゴブリンになれって言ってるのかなって。


 そしてそれが無いとも言い切れないのがこのファンタジー世界の恐ろしいところなんだよな。こんなことが起こるなら神がいてもそこまで驚かないし。

 しかし、俺は人間ではない者になったのか。

 それもモンスターとして、恐らく人間と敵対関係になるのだろう。

 つまりこれから人間に出会ったとしても、攻撃されたりするのだろうな。

 そうでなくとも、少なくとも友人になりたいとか言って分かりました仲良くしましょうなんてならないことは容易に想像できる。


 これから、どうするのか。どうすればいいのか。

 それは分からない。

 ならば、ひとまずは生き抜くことを考えよう。命にかかわらないことについて考えるのはそのあとだ。






 んでもって、ここが洞窟の中で俺がゴブリンだってことは確定したと思っていいだろう。

 ならば次は、そこからもう少し広げたものを考えなくてはいけないな。自分の姿やどこにいるかは分かったんだからその原因やもっと細かい状況を理解したい。

 自分の周りを確認してみる。転移の前に掴んでいたバットは見当たらない。そして俺を産んだりしたんだろう親ゴブリンも見当たらない。

 俺がいるのは洞窟の袋小路? ってやつでそこは大体五メートル四方の正方形の部屋。ダンジョンの中の一室かな? なんて予想してみる。

 そして一番大事なことなんだが、ここって異世界かな? 現実世界かな?

 ダンジョンだとしても異世界にも現実世界にもあるから予想が難しい。

 まあ世界アナウンスさんが人類全体に話しかけてたっぽいから現実世界って事にしとこう、そうしよう。

 バットが無いのは種族が変化したからとかなんだろうな、と推測できる。しかし親ゴブリンがいないのは何故か、それが分からない。

 考えられるのは親がそもそもいない可能性。

 いくらゴブリンだろうと自分の子供を即捨てたりしないだろうしな。

 もし捨てようとしたとしても俺の、恐らく生まれたばかりの体が普通に立って動けるほどに成長しているのだから労働力になるだろう。

 それを捨てるのはデメリットが大きいから、集落なんかがあった場合は誰かが止めるだろうし。

 まあそれでも捨てるときは捨てるんだろうがな。

 しかし何の理由も無しに捨てる可能性がかなり低いのは変わらない。つまり何か理由があって捨てられたってことだ。

 ならば親が最初からいないか、親はいたがなんらかの理由があって捨てられたかだ。

 ああ、そういえば今はここに放置だが狩りに行っていて帰ってきたら回収されるって可能性もあるか。

 その場合やっぱり労働力になる俺を連れていかないのかが分からないからそれも可能性が低いだろうが。

 というわけで結局俺は捨てられた説が有力だ。

 そしてただ捨てられただけならまだ良い…いや、良くはないからまだマシと言っておこうか。

 捨てられただけならまだマシだが、なんらかの理由があって捨てられたのならば、例えば不吉だから捨てられたとかならば、もしかしたら出てきた所をゴブリンに殺されたりしてしまうかも知れない。

 だから迂闊に外に出ることもできない。出るとしても気を付けないとな。


 さて、さっきの思考を続けてから導き出した俺が今すべきことは、強くなること。

 と言うのはまず俺がゴブリンで、ゴブリンはモンスターだ。

 ならば、モンスターである俺が産まれたときにいる場所。それは十中八九ダンジョンだろう。よもやただの洞窟にゴブリンが住み着いているなんて無かろう。先入観を多分に含んでいるが。

 ならばゴブリンの他にもモンスターがいるだろう。そしてゴブリンはその中でもかなりヒエラルキー的にも低い位置にいるだろう。これも先入観だな。

 まあそれでも未知の状況なのだから危機感を持っていた方がいいだろう。自分の力を過信して死ぬとか腐るほど見たシチュエーションだし。

 だから少なくともここを出るのは同族、他のゴブリンには負けないだろうと確信できるぐらいには強くなってからにしたい。

 まずはこの体での動き方を身につけなければならないな。改めて確認してみてこれ完全に子供の体系だって分かったから。

 子供としての体の動かし方、それに身体能力も変わっているだろうからモンスターとしての体の動かし方にも慣れておかなければならない。

 それでなくとも俺は帰宅部で運動不足気味だったので、筋力増強なども急務だ。


 まずは身体能力の確認からだ。

 ジャンプしてみることにした。

 この空間は狭いわけではないのだが走れるかと言われたら全くスペースが足りない、狭い部屋になる。

 つまり、走らずに身体能力を計る必要がある。

 それに適しているのは、ジャンプすることだろうと思ったのだ。


『ゲギャッ』


 力を入れて、ジャンプをする。少し声が漏れてしまったな。

 結果として、垂直飛びで自分の身長と同じくらい飛ぶことができた。


『………』


 自分の身長と同じくらいに飛べる、これは人間のものとして考えたらすさまじい記録だが、今の俺はゴブリンだ。

 つまり身長も変わっている可能性がある。というか十中八九変わっているだろう。

 その場合、人間だった頃より大きくなっていればヒエラルキーは高い方だと考えて良いのかもしれないが、小さくなっていたら、それこそ身長五十センチとかになっていたら寧ろ人間の時より弱くなっていると考えなければならない。


 まあ要するに、体の動かし方に慣れてから探索を始める方針は変わらないってわけだ。

 ついでに言うと特訓して純粋な身体能力の強化をするというのもしておきたい。

 と言ってもこのゴブリンの体、意外と馴染んでいるのだ。

 少なくとも全力でジャンプした後にバランスを崩さず着地するだとかグルグル回った後にジャンプして着地するとかも可能だ。

 検証したから分かっている。


 とにかく、体が思いの外馴染んでいるのだと言うならば、その分野では俺はあまり成長したりだとか強くなったりだとかは出来ない。

 そしてやはり別のところで強くなったという実感を得なければ心配になってしまうのだ。

 つまり、体を自由に動かせるとかそういうのとは別の強化方法である純粋な身体能力の強化が必要ということになったのである。


◇◆◇◆


 しかし、身体能力の強化をするとは言っても、一つ心配な事がある。

 それは、ステータスが存在するか否か、そしてあったとしたらステータスの性質だ。

 まず、ステータスがあるかもしれないという発想に至ったのは、まあゲーム脳だって理由もあるんだが。

 それ以外にも一つだけだが種族なんてものがあるんだし、種族を選ぶのにあんなステータスっぽい画面を表示したんだからステータスもあるんじゃないかなというのもある。

 そして、その有無だが、確かめる方法は今のところ無い。

 と言うのが、この世界でステータスがあると仮定して、その確認の方法の候補はそんなに多くないのだが、かといって一つだけなわけも無い。

 例えば『ステータスオープン』と唱えるとステータスが確認できる、というのもあれば、これもあるかは分からないがあると仮定して【鑑定】などのスキルで確認しないと分からないというのも可能性としてあるだろう。


 それに、一概に『ステータスオープン』でステータスが見られるという方法でまとめるのも正しいとは限らない。

 単純に『ステータスオープン』と思えば良いだけかもしれないが、口に出さないと確認できないシステムな可能性もあるし、「ほにゃらら、ほにゃらら、ほにゃらら、ほにゃらら、ほにゃらら、ほにゃららららららあ!!」 『ステータスオープン!』なんて恥ずかしい詠唱なんてものが必要なこともあるかもしれない。


 まあそんなわけで、俺が試せる方法もあれば俺が試せない方法もあるわけで、俺が試せる方法でステータスが確認できれば有ると分かるが、無くてもステータスが無い証明にはならないというわけだ。

 まあ早速試してみるとするか。

 『ステータスオープン』と念じる。

 しかし、頭の中にも目の前にも何も浮かんで来ない。片鱗すら掴めないという結果だ。

 これ、最初から詠唱するタイプじゃなくて良かったな。

 詠唱するタイプでやって失敗してたら恥ずかしすぎた。

 まあこちとらゴブリンになったおかげで発声器官が死んでるんで、具体的に言うと全ての言語が自動で『ゲギャ』とか『ゲギャギャ』に翻訳されるからな。最初から詠唱タイプって選択は無かったんだが。

 ゴブリンの体に感謝しておいた方が良いか? 今のところメリットの方が大きい気がするなこの体。

 んでもって次は―――いや、もう試せそうな方法無くないか?

 一応声に出してやってみるけどさ?


『ゲギャギャッギャッ』


 ステータスオープン、と声に出したつもりだったが、やはり仮称ゴブリン語に変換されている。そしてこれもまたやはりステータスは表示されなかった。

 次、詠唱、とは言ってもこれ一言一句違えちゃいけないとかだったら詰むんだよなあ。


 一応やってみたけどやっぱり駄目でした。


 まあそんなこんなで一応試せる方法は試してみたがステータスは確認できなかったから、今のところ無い説が俺の中では有力だけどな。


 と、それでステータスがあるか無いかで何が心配なのかというとだ。

 それは、『成長する』ステータスがあるせいで『成長できなくなる』可能性があることだ。


 ステータスは、それにレベルという項目があるのならば、それはモンスターを倒して経験値を得ることで上がり、それに呼応して身体能力も上がると言うのが主流だろう。

 つまり、このレベルアップと呼ばれる現象が起こることによって強くなれるわけだ。


 ならば、逆説的にレベルアップしなければ強くなれない、とも考えられるはずだ。


 これは、得ることで基本的に有利になることしか無いステータスの唯一と言っていいほど少ない欠点の一つであるとも言える。

 勿論、レベルアップせずとも特訓で強くなれる可能性もあるわけだが。

 無ければ、最悪だ。

 本当に、体の動かし方を覚えるだけしか現時点での強化方法が無いことになる。


 まあ、今は確かめる方法が無いと結論は出ていることだし、もう悩むのはやめて特訓を始めるとするか。

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