バレそうな幼馴染み

「はぁー、今日も美しいな~樋山さん」

「お前毎回それ言ってるよな」


 今日も今日とて、雫信者の一人、和希は敬愛と尊敬の眼差しで雫を見ている。


「最近気づいたんだよ。樋山さんが俺の方を見てるって!」

「お前の勘違いだろ。少なくともイケメンたちを断ってたのに、俺たちに相手側にメリットないだろ」

「わかんないぞ?ふつめん好きかもしれん!」

「どうだか」


 脈ありかも?と、一人で言っている和希を置いとき、雫の方を見る。


 ていうか、和希と話していると高確率で、雫の方を見ている気がするんだが、気のせいだろうか。


「けど、そういう夢みたいなのを見ておかないと、やってらんないだろ?」

「……まあ、わからなくもないが、夢見すぎだろ」


 こっちはぼっち、良いとこ中の中くらいで、あっちは上の上、つまり学校の人気者だ。


 夢というのは、叶う範囲で見なければならない。叶わない夢を見続けるのは、ただのバカだ。


 と、雫たちの方を見ていると、不意に雫がこちらを見る。


 だがそれも一瞬で、直ぐにクラスメイトの方に向き直ってしまった。


「ほら!絶対こっち見たって!悠真も見てただろ?!」

「まあ、確かに見てたけど、絶対俺たちじゃないだろ」

「現実しか見てないやつは、黙って寝てな」

「そうさせてもらうよ」


 俺は窓からの日差しを浴びながら、一息つく。


 日差しが当たり、授業に集中出来ないと不人気な席も、今は寝るのにちょうどよく、直ぐに寝てしまった。


 これがあんなことになるなんて、このときの俺は知るよしもない。





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「ん?いま…何時だ……?」


 ふと、目を覚ますと周りには誰もいなくなっていた。


 机に突っ伏したまま、記憶していることだけを思い出す。


 俺はたしか、昼休み暗いから寝ていて、授業もずっと寝ていたはず。


 そのあと和希に掃除の場所まで連れていかれ、教室に戻ってくると、また俺は寝た。


 掃除の時間や、授業中の記憶が途切れ途切れになってしまっていて、少し時間がかかったが、ある程度把握した。


 俺は今まで、昼休みからずっと寝ていて、放課後も誰にも起こされず、ここにいるってことか。


 窓の方を見ると、もう夕方と言っていいほど、日も落ち始めている。


 帰りが遅くならないように、俺は寝ようとしている脳を起こし、立ち上がろうとした。


「あ、起きた?早く帰ろう?」

「ん?」


 と、完全に一人だと思っていた教室には、もう一人生徒がいた。


 俺はクラスの人とはほとんど関わったことがない。つまり、俺に話しかけてくる人は、だいたい決まっているようなもので。


 俺の前の席に座り、こちらを見ていたのは、我が幼馴染み、樋山 雫だった。


 俺は突然のことに、完全にフリーズしてしまった。だがそのおかげで、完全に眠気は覚めた。


「し、雫?どうしてここに?」

「ねぼすけさんを待っていたからだよ。一緒に帰ろう?」

「えっちょっと待ってくれ、色々話しに追い付けないんだけど」


 俺の心境を理解したのか、雫はゆっくり説明しだした。


「色々悠真も聞きたいことはあるだろうけど、その中でも必要なことだけ言うよ?」

「あ、ああ、頼む」

「なぜボクがここにいるかというと、単純に悠真を待っていたからだね」

「ふむふむ、俺を待っていたからか。……なんで?」

「一緒に帰るためだよ?早く行こう」


 そのまま会話の流れで、一緒に帰ろうとしてしまうが、一度冷静に考える。


 俺と雫が幼馴染みということは、この学校の人たちは知らない。


 まだ校内にも校外にも、生徒がいるかもしれない。


 そんななか、一緒に帰れるわけがない。よし、冷静に考えられて良かった。


「待った雫。雫が先に行ってくれ」

「どうして?」

「まだ他の生徒がいるかもしれない。バレたら面倒くさいことになる」

「大丈夫だよ。学校が終わってから結構時間経ったし、もう生徒はいないと思うよ」

「それでもだ。先に行ってくれ」


 そう言うと、雫は不満げな顔をして言う。


「ずっと待ってたのに、その仕打ちはひどいんじゃないのかなぁ」

「ぐっ……、別に待っててとは一言も……」

「ん?どうかした」

「いえなんでもないです……」


 爽やかな笑顔の中に、とんでもない圧を感じたのは俺だけだろうか。


 こうして俺は、寝過ごしたことにより、ある意味ドキドキの放課後を過ごすことになったのである。





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「ほ、本当に誰もいないか?」

「そんなに心配しなくても、誰もいないよ」


 雫と帰ることになって条件を出させてもらった。それは誰にも見つからないルートで帰ることだ。


 雫もそれを最初から汲み取ってくれたのか、裏道の方から帰ることになった。


 ここなら遠回りになってしまうが、部活をしている人たちに見つかることはない。


 もう一度周りを確認し、少し距離を置き、雫と帰る。


「どうして、ボクと幼馴染みってことを知られたくないの?」


 不意にそんなことを聞いてくる雫。その瞳は悲しそうな瞳をしていた。


 俺は弁明するように、雫を傷つけないように理由をしゃべる。


「別に知られるのが嫌だってことじゃないからな。ただ単純に面倒くさくなるから、あまり知られたくない」

「面倒くさくなる?」

「ああ、雫のファンの人に何されるかわからない」

「ボクにファンなんかいないよ」

「お前は過小評価しすぎだ。雫は人気者だから、いても当然だ」


 俺の説明に納得したような、どこか不満げな顔をしているが、納得してもらうしかない。


 もう一つの理由は……、喋らなくていいだろう。それが真実だとしても、雫は優しさで否定するから。


「こうして帰るのも久しぶりだね」

「そうだな、高校では初かもしれない」


 そう答えると、少しの沈黙が俺たちを襲う。


 別に話題がないわけではない。話そうと思えば話せる。だが時の流れと言うのは、ひどく残酷で、時には救いにもなる。


 最初は拒否していたが、久しぶりに一緒に帰るのも良いものだ。気を遣わなくて済む。


 この心地良い空間が、もう少しだけ続きますようにと、願いながら雫と帰った。


 







 


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